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決戦前夜、ソドムの野望

「命を下す!夜襲は明日(あす)、第一目標は兵糧の焼却、第二目標は大名クラスの生け捕りとする。これよりレウルーラと茂助は 索敵と物資の場所を特定せよ。ポールは軍の出動準備、アレックスとシュラは民に支援要請すべし」

 ソドム王は、早さこそが勝敗を決めるとみて、作戦を発動した。


「御意」と、言ってすぐポール、レウルーラ、茂助は席を立った。

 


「へ?民に・・何を?そんなの初耳よ」


「ですよね」と、残されたシュラとアレックスは呆気にとられていた。



「ああ、説明してなかったな。軍が夜襲をかけたら、民には偽兵(ぎへい)として連邦の旗を振って騒ぎ立ててもらいたいのだ。後詰めに連邦軍がいるとなれば、敵も浮き足立つに違いない」



「しかし、敵の忍びなどが手薄な城内で暗躍する恐れがあるのでは」


「そうよ!あたしたちは前線に行ってるから防げないわ」

懸念はもっともである。


「うむ・・・」


「そこで街を空にするのだ。兵は夜襲に、民は全て偽兵として出て行ってもらえば、反乱などできない」


「確かに・・」と、アレックスは納得した。


「それだと、連邦から取られちゃうんじゃ?」


「ん、それはないな。連邦の国是(こくぜ)として卑怯を嫌うからな」


「はい、大丈夫かと」


「まあ、分かったけど・・旗はどうすんのよ!獅子の複雑なデザインを何百と・・丸一日でできるわけないじゃない」


「・・・う」そこまで考えてなかったソドム。


 アレックスが、意見を述べた。

「旗を振るのが深夜なら、前列以外は簡略化したデザインでもいいのではないでしょうか。子供がイタズラ書きしたレベルだとしても区別はつかないかと」


「よし、それで頼む。俺とレウルーラとシュラが敵地奥へ行き兵糧を焼き払う。呼応した夜襲の指揮はアレックスに任せる」


「必ずや成功させてみせます」


「では、行け!」



 二人は席を立った・・・が、ソドムはアレックスを呼び止めた。



「アレックス、本音を言おう」と、真顔でソドムは語り出す。


「正直、戦鬼兵団の損失は痛い。私が不在時に決戦し、敗れたことにも憤っている」


 叱責は当然と、アレックスは硬直している。


「だがな、今回は敵の方が1枚も2枚も上手だ。巧妙に(おびき)き出し、周到に準備した対策武器・・・これには、最初に誘き出された兵を見殺しにするしかなく、見殺しにすれば士気は大いに下がり、逃亡兵が続出したかもしれん」


 この言葉に多少救われた気持ちがした。


「戦には犠牲がつきもの、彼らが殿(しんがり)を務めたおかげで拾った命を無駄にせず、明日の戦いに活かせ」


「ははっ」片膝をつき、アレックスは頭を下げた。


「気負って深追いは厳禁だ。同じ罠があるやもしれん」と言ってソドムは笑った。


「肝に銘じます」


「それと、タジムこと そなたの兄ゼイター侯爵だが、あれには私も一杯食わされた。言われてみれば短髪であること以外は、連邦王に似ていたんだからな。だが、まさか侯爵の地位を放り投げてココにいるとは誰も想像できんだろ」と笑った。


「まったくです、幼少の頃は細くて病弱な兄が、筋骨たくましい勇者タジムだったとは」


「まあ、潜入理由は不明だが、連邦に内情はダダ漏れということは間違いない。戦などもってのほかだ。まあ、おまえ達 三兄弟を10年預かってきた俺を殺すとは考えにくいが、無理難題は突きつけてくるだろうさ」


「・・!三?ま、まだ兄弟がいるのですか!?」


「あ、いや・・。ともかく、公国が滅びたら 領地持ちの侯爵に対抗できなくなるのだ、頼んだぞ」


「は、はぁ。王位などより、ここの民のため やり遂げてみせます!」と、一礼してアレックスはきびすを返した。


「うむ、頑張りすぎるなよ!」と、ソドムは つい親バカな一言を発してしまい頭をかいた。




 うまいこと仕事を丸投げしたソドムは、木箱をもってギオン城三階にある王の寝室に向かった。


 部屋にはベッドが二つ、小さめのテーブルに椅子二脚。クローゼットに、半身写る程度の鏡など、二階にある客室と大差ない簡素な部屋だった。

 違いといったら、扉の向こうに王の謁見の間 兼 執務室があるくらいだが、そこでは今 レウルーラと茂助が遠見の水晶を使っての敵情視察を行っている。


遠見の平面水晶は手のひらサイズであるが、画面上に突起があり、そこからでる光を平らな壁に当てると、拡大画像が投影される優れ物らしく、「おぉ!」と感嘆している茂助の声が漏れ聞こえる。


 今のソドムは、それどころではない。


「さて・・と、先手を打たせてもらうか」

 ソドムは寝室にあるシュラの私物を木箱にぶち込んで、今日から借り上げることにした二階の一室に運び込んだ。


「これでよし。アイツには自立してもらわんとな」と、夜の営みを邪魔する輩を追い払った・・つもりのソドム。



 残念ながら数時間後にはクレーマーに襟首を掴まれていた。


「話は聞いたわ!どういうつもり?あたしはアンタの護衛なのよ、離れる訳にはいかないの!」と、激怒したシュラがソドムの寝室に乱入して叫んだ。

 就寝前、ベッドに腰を下ろしていたレウルーラはキョトンと見つめている。


「ゲホッ、プロ意識はわかったが、いいかげんお前も察しろよ」


「そうよ、ドロスさんから聞いてるでしょ?」


「・・・そりゃまあ、聞いてるけど」とトーンダウンしたシュラは手の力を緩め、ソドムを解放した。


「で、でもさぁ・・そんな楽しそうなこと二人でヤルるのはズルくない?」


「は!?」ソドム夫妻は思考停止してしまった。


「シュラちゃん、何か勘違いしてない?」


「ああ、わかってないだろ」


「わかってるわよ!枕を交わして男女が汗をかくことぐらい!子供じゃないのよ!」顔を赤らめるシュラ。


「知らない訳ではなさそうだが、いくら俺が腐れ外道だとしても娘とはやらんわ」と、ソドムは強く言った。いや、妻が同席しているから、尚更なのだが。

(タイプの違う二人を・・、いい!!そして、俺には【影武者】があるから、同時に相手できるし)


 レウルーラは、どうにもシュラの恋愛感情が腑に落ちない。ソドムへの好意は友情に近く、愛ではないと思っている。


 おそらく、今まで共に過ごしてきた相棒が、ひょっこり現れた女に奪われて面白くないのであろう。


 ならば!わざと本心を確かめるのも良かろうと思った。



「わかったわ、シュラちゃん。一緒にしましょ!」と微笑んだ。



 いささか肩透かしを食らったシュラだが、結果には満足した。



「物わかりの良い・・猫ドロボーさんね」と腕組みしながら見下ろした。



「それだと、ただの犯罪者だ。泥棒猫だろ、そこは」ツッコむソドム。思いがけない展開に期待値はMaxである。

 

「わかってるわよ!それとね、やるからには本気だからね」と、ソドムに指差した。


「お?おう」



「まずは勝ち負けをハッキリさせたいの。ポイント制にして、三点先取で勝ちにするとか。だから、一人は審判役になるわね・・」


 などと、シュラの主導により三人は同じ部屋で一夜を明かした。


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