危機一髪!
ソドムは軽い昼寝のあとに、宴会場に戻って考え事をしていた。会場は一度片づけたようで、テーブルクロスも白から、夜の宴に合う綺麗な赤に代わっている。
ほどなくして、ソドムの両側に きわどい衣装の踊り子が座った。飽きさせないためだろうか、先ほどとは別の娘だ。
嬉しい。だが、いつ 妻のレウルーラが戻るか分からないので、手を出せないのがツラい。「ありがた迷惑」とは、このことか…などと心で悪態をついていたりする。
正直、コウモリ伯には随分 世話になった・・。
豪勢な料理のみならず、女をあてがってもらい、商売の秘密を明かされ、今はシュラの遊び相手にまでなってくれている。
ソドム、40になっても 奢ってもらったり歓待してもらえるのは役得だ。プライドがないというか、独特の愛嬌がなせるわざだろう。
皆には内緒にしているが、数日前には連邦王から小遣いとして銀貨数枚を渡されてたりもする。
すぐさま、おネーちゃんのいる店にかけだしたかったのだが、妻もいるし 仮にも王なので・・泣く泣く旅費の足しにしていた。
つまり、連邦とは敵対したくはないし、将来 台頭してきそうな伯爵をも憎めない。
回想ついでに、世話になっているランキング1位であるザーム老師を思い出したソドムであるが・・・返しきれない多年の恩ゆえに、
恩は返さない、と密かに決めていた。
なにせ、借金が残り金貨2000枚(20億円)もあるのだ、いっそ殺して踏み倒すつもりでいる。
連邦による悪魔王討伐作戦のドサクサに暗殺を決行して、失敗したのなら連邦に罪をなすりつけて、彼の一党とで潰し合ってもらう魂胆だった。
借金がチャラになれば、財政も楽になり、今の伯爵のような贅沢もできるかもしれない。もっとも、老師の弟子にレウルーラや冴子くらいの実力者がゴロゴロいたのならば、勝敗は読めない。
(思えば、料理人だった俺を見いだして、騎士見習いに推挙してくれたのも老師であった。そこから、運命が拓けたのは間違いない。大恩人で、話も合う…決して憎いわけではない。だが人間、飛躍のときには悪逆もやむを得ぬ。借金という しがらみから解き放たれれば、軍備を増強して、帝国の脅しや 連邦の手伝い戦に悩まされることなく、超然とした存在になれるはず)
などと、考え事しながら踊り子二人に適当な相づちをしている。
二人の女性に魅力がないわけではないが、所詮 伯爵の大金で雇われたご機嫌とり・・というのが、頭の片隅にあるからだろうか、どうしても楽しめない。
金でなびいた人間のヨイショは、本当の好意と違い しらけるものだ。いや、あれやこれや手を出していいのならば、話は別・・と未練がましく思うソドムであった。
おあずけを食らい、仕方なく将来を夢想していたソドムであったが、ふと…シュラの身が心配になってきた。
個体としては強い娘なのだが、無敵というわけではない。
火や神聖魔法に弱く、多勢に絡め捕られたり、窒息させられたら、普通に死ぬ。それに加え、勝ち気で好戦的なので、退き際を見誤るかもしれなかった。
過保護なソドムは、いてもたってもいられず、馬を借りて伯爵達のいる館に向かった。
伯爵の守衛は、「ソドム一行暗殺計画」を報されてはいないので、外出を咎めず快く馬を貸したという。
目撃者のいない館に、一人づつ誘い込めることこそ、伯爵の思うつぼなのだが、ソドムは疑いもせず馬を走らせた。
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死霊の館では、挑発に乗ったシュラが罠満載の階段を駆け上がっていた。
壁から噴き出す炎と、頭上を前後する鉄球のタイミングを見切って、ダッシュしている。
中段の踏み板に足をのせた時に、その箇所が少し沈み「カチリ」となにかを作動させたような音がした。・・それは、入り口の床を踏んで罠が動き出した時の感覚に似ていた。
「やばっ!」シュラは、さらなる罠の予感に緊張したが、下の段は壁から炎が噴き出ているため、今さら後退はできない。階段横に飛び降りようにも、ご丁寧に階下には剣山のようなデストラップがあり、物理耐性のあるシュラでも重傷を負うかもしれない。
退いたら火だるま、横に避けたら串刺し・・・と完全に型にハメられた。
外から館内の様子をのぞき見ていたコウモリ伯は、勝ちを確信した。
スイッチを踏んだら最後、登りきったあたりで「油入りの壺」が落下して、小娘の頭に被さる。
視界を奪われ足元は滑って右往左往しているうちに鉄球によって階段側につきとばされ、転げ落ちる途中に火だるまになり、落ちた先で硝子少女にて無数の針に刺されるのだ。
落ちた先で、硝子少女に座る・・というのは、あまりにもご都合主義なのは承知している。今までの兵士でも、苦し紛れに座ってしまった者はいない。
だが!もしかしたら、うっかり座ってくれまいか…と願いながら、間近で見るため館の鍵を開けて中に入った。
(もし、火だるまで突っ伏していたのなら、無理矢理に押し込めるまでだ)
そう、硝子少女に閉じ込められると、中の無数の針が刺さり、苦しむ様を鑑賞できる・・・のみならず、「⚪ヒゲ危機一髪」のように、差し込み口に付属のナイフをぶち込んでなぶれる!散々、自分を愚弄してきた小娘の命乞いを聞いた挙げ句、解放して・・後から刺し殺そうと思っていた。
暗い館内に入り、すぐには目が慣れない伯爵であったが、「ガゴン!バシャッ」と油壺が被害者の頭にはまり、※鉄球 に突き飛ばされている姿を見ることができた。
※仕掛けの性質上・建物の耐久性の関係で、鉄球に見せかけた木製ハリボテ。殺傷力は求めておらず、突き落とす役割の罠。鉄に似せて着色しているため、暗がりでは疑われない出来である。
思わず「ョッシ!」と声を出し両拳を握り締め、階段下に駆け寄る伯爵。なんともいえない達成感に包まれている。
そして、転がり落ちながら火だるまになったソレは、階下でもだえ苦しみながら硝子少女に座ってしまい、冷酷にも蓋は閉じられ、中の者の絶叫が館内に響き渡った。まさに、奇跡である。ゴルフでいうところのホールインワン、剣闘ならば一撃で急所を突いて勝負がつくようなミラクル。やがて火は消え、第二幕・・無意味な拷問が幕を開ける。
「ヒャッハー!ざまあぁぁぁ!!」と、伯爵も絶叫しながら、血と熱で曇っている硝子少女に近づいた。もう完全に悪の雑魚キャラになり果てて、爵位あるものの品格など微塵もない。
伯爵は、笑いながら硝子少女の横にある短めのナイフを取り出し、「えぃ!小娘・危機一髪!」と突き刺す。中の者の体型や姿勢で、ナイフが到達しない場合もあるので、反応がなければハズレという拷問である。
「おっほぉー、ハズレですかぁ。まあ、夜までには まだまだ たぁ~っぷり時間がありますからなぁ。じっくりと遊ばせていただきましょうか!」と、楽しげに語りかけ 両手に6本ものナイフをトランプの手札を持つようにズラリと並べて薄ら笑いを浮かべる。
個性的な笑みのためアゴがせり出し、額・出張った頬骨・低い鼻と同じくらいの高さになり、起伏の少ない伯爵の顔がより一層平らになる。その姿を見ているコスプレゾンビ兵は、作戦の成功に安堵した。
だが、終幕は突然やってきた。
「あ~もう!まどろっこしい!!」という苛立った声とともに硝子少女ごと叩き切る者が現れた。ガラスをカチ割り、中の者は袈裟斬りされ、その斬られた箇所は炎に包まれる。
よくわからない展開に頭がついていかない伯爵だが、斬ったぬしを見て絶句した。
「・・・・?戦士殿?」平らな顔が引きつり、脂汗がにじみ出る。
「うん!いい魔法剣ね!!ホントに燃えるんだ、凄すぎ・・・。てか、ここまで派手な効果は初めてみたかも。あたしの稼ぎじゃ一生買えないっしょ、コレ」と、シュラは破邪の剣を惚れ惚れと眺めた。
(小剣に近いけど、刃が厚くて重さもあるから、使い慣れてる片手斧みたいで、すぐ使いこなせそうね)
・・・・ということは、罠にはまった上に斬られた者は・・・?と、伯爵が割れたガラスをどかしてみると、
「ぁあああ!」と驚きで次の言葉がでなかった。シュラは、空気を読まず「あのね、チマチマ攻撃してちゃだめよ伯爵さん。バッサリと斬らないと」と斬るそぶりを何度もしている。
伯爵は、ひどい火傷と出血により瀕死の宮廷魔術師を見て、蒼白になっている。
(宮廷魔術師!!なぜ・・・このように!?)
しばらく棒立ちで考える伯爵。経緯はともかく、現実を認めることにした。
「シュラ殿・・・、これはどういうことでしょう・・」
「あ、あ~。なんか階段上ってたら罠のスイッチ踏んだみたいだったんで、階段の手すりに飛び乗って・・・・そこから二階に飛び移って、吸血鬼のオッサン前に行ったわけ」
「ほ、ほう・・・」この娘・・猿か?と伯爵は思った。軽装と筋力があれば、できなくはなかろうが。
「でね、破邪の剣を奪い取ったついでに、階段上りきった怪しげな場所辺りにオッサンを突き飛ばしてみたの!そしたらさ~、壺は落ちてくるし、鉄球に吹っ飛ばされるし、火だるまなった挙句、針だらけの棺桶にハマっちゃうんだもん、面白すぎ!」と腹を抱えて笑った。そして、残る獲物のゾンビ達に目を向ける。
伯爵、罠を逆に利用されて怒り心頭。
(そうか!わしが館に入ったあたりで、二人の位置が入れ替わっていたというのか!)
肩を震わせ、叫んだ。
「え~い!斬れ斬れ!斬り捨てぃー!!」そう命を下すと、巻き込まれないように入り口付近に避難した。ゾンビ兵たちは、姿勢を正して剣を抜いた。
「伯爵!」シュラは凛とした声でハンドレッド伯に声をかけた。
煩わしそうに、答える伯爵。
「なんだ!?」
シュラは、少し微笑んで
「見たかったんでしょ、女戦士の戦いぶり!」そう言うや否や、ゾンビの群れに斬り込んでいった。どうやらシュラは、自分に命令したととらえてくれたようだ。
シュラの迷いのない踏み込みに、手加減はできないと判断した精鋭たち。
ゾンビのフリをやめて、取り囲んだ。例え達人でも、全方位に対処できるものではない。
包囲が完成する前に、シュラは一人一人斬っていった。未包囲が「C」の状態だとすると、端から次々と殺していった。
コスプレ重視の兵たちは重装鎧ではないので、短いわりにズシリと重い破邪の剣の一撃を食らうと重傷は避けられず、魔法効果による炎で死に至った。
残念なことに、いくら精鋭といっても10年も戦がない領土の精鋭なので、戦い続けてきたシュラとは勝負になるはずもない。
例外的に背中から斬りつけることに成功した者がいたのだが、なぜか かすり傷しか与えられず、ぶちキレたシュラに首を刎ねられた。
最後の一人を斬捨て、伯爵に向けてポーズをとったシュラだったが、なぜかカッコイイ炎がでなくて、少し不満が残る終わり方になってしまった。
後退りする伯爵。悪夢でも見ているとしか思えない状況であった。
(ば、馬鹿な・・。我が精鋭が小娘一人に?)
まだ息のあったアウズンブラが、身を起こし 力を振り絞って声を発した。
「娘よ・・・・」
「あ、ごめ。トドメ差さなきゃね」と、うっかり忘れものでもしたかのように吸血鬼のもとに歩いて行く。
「破邪の剣は、チャージ式なのだ・・・。たまに、魔術師から魔力を注入してもらえば、問題ない。た、大切にするのだぞ・・」そう言い終えると、崩れるように元の体勢に戻った。
死に際まで作品に寄り添う・・・まさに、プロの鏡である。
「おっちゃん、親切にありがと!」シュラは右手をアウズンブラに向けて、金剛聖拳の光を集中させた。
それだけで、十分な殺傷力なのだが、さらに光を人の頭くらいの大きさまで増やした。
そして、それが弾け飛ぶイメージを頭に描く。
「聖爆!」
「ヴァ!」と大きな音と共に光が弾けて、アウズンブラと硝子少女そして、その下の床ごと消し去った。
「ふぅ、思い付きの新技だけど、すごい威力ね」
シュラは、誇らしげに右手を見ている。
「てか、あたし天才!ね?伯爵」と、どや顔で振り返るも伯爵はおらず、やがて館は炎に包まれた。
コウモリ伯は館から脱出し、外から鍵をかけ、宮廷魔術師の遺言通り火を放った。
石の外壁の所々に、木が挟んであり、焼失と同時に内側に崩れるという、アウズンブラ考案の館は、すぐさま火の手がまわった。崩壊も時間の問題である。
伯爵は馬に乗り、館を去る。
(手に負えない化け物なら、館ごと焼き払うという宮廷魔術師の策を使うとは思わなんだ。だが、これで公爵が人間離れした僕を飼っていることを確信した。宮廷魔術師の遺言ともいえる離間の計で、公国を滅ぼしてくれるわ!多大なる犠牲は無駄にはせんぞ!まずは、公爵を足止めして、連邦王国に色々とチクらねばなるまい)
心を切り替え、伯爵は馬を走らせた。




