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ソドム王と山賊ドロス

 少ない護衛と共に、馬車で東へ向かう連邦王国ソドム公爵。

 連邦王国の枠内では公爵であるが、自領に戻れば、自治国家ギオン公国の王である。

 ちなみに最高位の爵位である公爵を、借金してまでして買い取ったのは、平民出身ゆえのコンプレックスなのかもしれない。



 ギオン公国は、新興国なので経済基盤が安定するまでは贅沢を良しとせず、城や街の防備や軍隊まで節約する方針で、旅の護衛が少数なのも、それに起因する。


 ひもじい・・とならない程度のソドム王による国政やりくりは、自らの城と宿屋と炉端居酒屋を一緒にして人件費を浮かせたり、国が主導して商売をして資金源としたり、貴族の前例にないことばかりする。


 彼は、服もこだわらない。一般兵が着るような動きやすい服装に、貴族の証でもある赤マントを羽織るだけ。


 齢は40だが、体型管理と適度な運動をするためか衰え少なく、30くらいに見えなくもない。

 ややボリュームがなくなった黒髪に深紅の眼、背は女性並みしかなく、肌は白い。誰もが振り向く美形でもなければ、歴戦の勇士が如き精悍な顔つきでもない。


 見た目は、この程度の男なので、護衛の傭兵達になめられているが、かつては連邦の剣聖と呼ばれる君主ロードとして名を馳せたものである。



 更に裏の顔では、闇の最高司祭から力を託された 邪神の末席ともいえる闇君主ダークロードなのだ。


 赤い虹彩、体から溢れ出る無駄な魔力・・・光の司祭クラスがちょっと疑えば、闇の重鎮と気がつき討伐令が出されるはずだが、まさか連邦王に次ぐ大貴族が闇君主とは疑いもせず、とがめられる事なく能天気に馬車に揺られていられるのだが・・バレるのは時間の問題と思われる。

 

「さて・・・【影武者シャドーサーバント】の能力欲しさに、闇の力を引き継いだが、深紅の眼になっちまったのはマズいよなぁ」、自らの決断に今頃になってボヤく。


 ソドムは、馬車に揺られ呆けたように窓の外の景色を見ていた。


 雪はないが、葉の落ちた木々と灰色の空・眺めて楽しいものはない。

※屋根付き馬車には、窓ガラスが はめ込まれてあり、それだけでも庶民の馬車とは格が違うのだが、最初こそ飛び跳ねて喜んだ一行も、2日目になったら、すっかり慣れてしまって、窓から景色を見れる贅沢など、何とも思わなくなっている。



「いまさら言っても始まらないでしょ。バレたらバレたで、戦うまでよ」 と、励ましか叱咤しったかわからない発言をしたのは、彼の膝の上にすわる新妻のレウルーラ。



 魔術師であるレウルーラは、エロいレオタードの上に黒いコートを羽織り、召喚の腕輪を身に着けていた。


 重い魔導書を常に持ち歩くのを嫌い、召喚魔法のみで戦い抜くのが彼女のスタイルだった。


 アーティファクトである召喚の腕輪を使い、世界三強である竜王を召喚できる・・自信があるがゆえ強気な発言をしたりするのだが、残念ながら未だ成功はしていない。だが次は呼び出せる、と自信満々だ。



 そのレウルーラ、「トントン」とソドムの肩を叩く。そして、


「手が休んでる」、と言わんばかりにソドムを睨んだ。


 ハッと気がついたソドムは、思い出したかのようにレウルーラのからだをまさぐり始める。


 基本どこを触っても叱られることはない。逆に何もしていないと注意される奇妙な関係であった。


 白い極上のもち肌でありながらサラリととして、ボリューム・弾力は文句の付け所がない。まして、ソドムの一目惚れなのだから、幸せな仕打ちなのは間違いない。


 ただ、まさぐり触るのが義務となると、複雑なのだ。



 このようなクセがついたのは、長きにわたる呪いの影響が大きい、というか それしかない。


 レウルーラは10年以上、魔法事故?のせいで犬として生きることを余儀なくされ、ソドムと共に暮らしてきた。その名残で、座る時はソドムの上で撫で回される・・という習慣が残り、端から見たら被害者で、旦那は恥知らずのゲス野郎という図式が出来上がった。


 それはそうと、


「いや、しかし見ただろ!?連邦の魔術師は、兵隊ごと城を召喚できるんだぞ!?あんなもん領内に召喚されたら、戦にもならん」と、情けない返答をするソドム。


 ほんの数日前までは、闇信仰が露見したあかつきには、戦力差が何倍あろうとも闇君主ダークロードと堂々名乗りを上げて、世間相手にひと暴れしてやる!などと粋がってたものなのだが・・・


 連邦王国の居城・白堊の城ごと召喚するという荒技を見てからは、すっかり弱腰になってしまった。


 木の柵程度の防備しかない街と、居酒屋兼宿屋の城モドキでは、戦闘用の城に対抗できないのは明白なので無理もない。

 加えて、連邦に仕えてきたソドムは、かつての同僚や知り合いのいる連邦軍とは戦いたくはないし、連邦王(ソドムの元上司)や宮廷魔術師長の冴子(数日前、共に旅をした。闇信仰を知りつつも、秘密にしてもらっている)たち王族には恩や借りがあるため、殺害などできそうもない。


 つまり、闇君主ダークロードということがバレると、勝ち目もなく・・戦いたくないもない連邦と光の教団を敵にまわしてしまうわけだから、赤い目であることを気づかれないようにしなくてはならない。

(むぅ、ザーム老師のように盲目を演じ続けるのもしんどい・・・、姉御(元・闇の最高司祭)のように人目を避けるってのも窮屈だ・・。だから、二人とも簡単に闇の力を手放した・・・ということは分かっていたいたが。しかし、【影武者シャドーサーバント】の能力は手放したくはない。さて、どうしたものか)


 

 考え込むソドム。隣に座っている護衛のシュラが、特に代案がないのに一緒に考えてるふりをした。


「あたしも、冴子さんが城を召喚するのを見てホント驚いた。田舎の村程度のショボイうちらのギオン公国じゃ、どうにもなんないわよ」両手を軽く上げ、首を横に振りながら、珍しくまともな事を言う。

 普段は勝気な娘で、好戦的な発言をするのだが、宮廷魔術師長・冴子の魔法を直に見て、ソドム同様・・戦意をなくしていた。



 ソドム王の護衛シュラ、茶色のショートカット・赤い半袖のシャツに同じ色のミニスカート、その上に動きやすさを重視した革鎧を着こんでいる。宝石の散りばめられたネックレスや指輪も印象的だ。


 不相応な高価な貴金属を身に着けているのは、財産を預けるべき家族がいない傭兵などが、かさばる貨幣を宝石などコンパクトなものに置き換え、肌身離さず持ち歩く習慣であって、彼女の趣味というわけではない。


 美人というより可愛い娘だが、戦士だけあって手足は引き締まっており、腹筋はバキバキに割れている。


 性格は明るく、感情丸出しで戦闘狂・・・だが気は利くし、優しいところがある。トラブルメーカーではあるが、妙にソドムと気が合う。



 ただ、人物像が複雑なので解説が必要である。(少し話が長くなる)




 ☆赤い服装と髪型・・・髪はロングにせずにショート、服は赤を好む彼女だが、その理由は・・・返り血が目立たないことと、洗いやすいからという実用的な理由である。



 ☆半袖にミニスカ・・・冬だというのに、この服装は異常だし目立つ。


 ミニスカート自体、大陸でも珍しく、普通は長めのスカートなのだが、ギオン公国では「※ミニスカ無税」という特殊な免税があるため、普段からミニスカート姿なのだ。

※一家に一人・若い未婚のミニスカ女子がいる場合、その家族への税金はないという無茶苦茶な法律。


 では半袖は?ということになるが、闇の個人魔法オリジナルスペルである【暗黒転生】をソドムによって付与され、人間ではなくなり魔人(見た目は人間、下位吸血鬼レッサーヴァンパイア)になり、冷気耐性がついて寒さがへっちゃらになったのだ。


 魔人化により、吸血鬼に準ずる耐性(冷気・毒)と物理耐性を得た代わりに、火と光魔法には弱くなり、おかげで猫舌になってしまったシュラ。焼きたての肉や熱々グラタンは、人一倍冷まして食べなくてはいけない。


 吸血鬼と違い、食事は人間と同じであるが、緊急時には吸血することにより、傷を癒すことができる。

 

 そう、あくまでも緊急時のみ吸血を許可しているのだが、ソドムの血を飲んだシュラが大いに気に入ってしまう。

 それからというものソドムを見るときの目が・・恋する乙女とは正反対の、旨そうな獲物を前にした肉食獣のような目つきになる時があり、ソドムは身の危険を感じるらしい。



 ☆鍛えられし肉体・・・10年前の戦争で両親を失い、ソドムの養女になり、数年後には傭兵として各地を転戦。

 やがて上級傭兵として認められるほどになったのだが、喧嘩っ早く傲慢な性格を心配したソドムが、目の届く範囲におくため自らの護衛として雇い、今に至る。



 ちなみに右目下にある上級傭兵の証である『通り名タトゥー』は、とても残念な作品である。

 初対面にもかかわらず、値切ったりデカい態度をとったシュラに激怒した彫り師ルメスが、本来彫る文字をとりやめて、嫌がらせに「床上手」と彫って逃走した。


 喧嘩を売る相手を間違えたルメスは、もはやこの世にはいない。


 ☆武器・・・愛用の片手斧ハンドアックスは、デスリザードマンとの戦いでヘシ折られ、今は丸腰のシュラ。武器もないのに護衛と名乗るなどと笑い話である。



 が、彼女は連邦王家・一子相伝の【金剛聖拳】を体得しており(見て勝手に覚えた天才。連邦王家の血族でもあるらしい)、光をまとった拳は、魔法剣並みの貫通力を誇る。


 ただ、体力と筋肉疲労が多い技なので長時間の戦いは難しいと思われ、ソドムに説得されて、事あるごとに筋トレ(空気椅子など)や運動(雑用)をさせられている。


(トレーニング(仕打ち)が激しいとき、対価としてソドムの血を要求するという反撃にでたりする)

 

 今の彼女の悩みは、女の子らしくなく、次はどんな武器を買おうか・・・であり、異性にはまるで興味がない。


 ☆想い人・・・そう、男に関心がないシュラであるが、世界三強の一角である竜王(城ほどの巨大竜)のことが大好きで、少女のころから おもいっきり種族が違うのに結婚したいと思っている。


 本当にどうかしている娘なのだ・・。


 最近、知恵がついて暗黒魔法の秘術である【変化魔法トランスフォーム】を習得して、自分が竜になれれば結婚できるのでは?という野望を抱いている。


 そして幸運にも、とても身近に秘術を知る者がいた、しかも3人。


 ソドムとレウルーラという元闇司祭から秘術を習うため、まずは機嫌をとってる最中のシュラ。


 トレーニングと称した雑用・荷物運びや椅子代わりだろうが、笑顔で引き受ている。すべては、愛しの竜王様と結ばれるために!




 人物説明が長くなった。一応、まとめると



⚪闇君主ソドム王・・・自称・闇君主ダークロード。と、身内には胸を張るが、世間に対して闇信仰をひた隠して生きてきた。

 【暗黒転生】を自らにかけ魔人となっており、秘術【変化魔法】を成功させ、魔獣になることもできる。


 剣を振るうことを好まないが、腕は一流。


 最近、闇の最高司祭から力を引き継いで邪神の末席ともいえる存在になる。



⚪魔術師レウルーラ・・・ソドムの新妻。闇魔術師ダークメイジであるが、昔 【変化魔法】に失敗し、犬として10数年生過ごす。

 召喚魔法を得意とし、竜王をも召喚してみせると息巻く。

 闇の個人魔法は【魔力吸収ドンタッチミー】。巨大生物を召喚するとき必要な膨大な魔力を、無駄に魔力の多いソドムから【魔力吸収】で奪って補うスタイル。



⚪戦士シュラ・・・ソドムの養女にして護衛。魔人としての物理耐性と、鎧を突き破る金剛聖拳を併せ持つ戦士。

 ただ、剣で斬られても かすり傷ですんでしまう物理耐性がバレると、魔物として討伐対象になりかねないので、攻撃を食らわないか・キチンとやられたフリをするよう言い含められている。



⚪執事トリス・・・公王専属吟遊詩人であり執事。ちょっと前までは闇魔法の秘術【変化魔法】で魔獣になり、コカトリスとして南の干潟をウロウロしていた。


 魔獣としての暮らしのほうが、人間社会で揉まれるより居心地が良かったのだが、無理矢理ソドムの手下にされてしまった青年。


 銀の長髪に高身長、なかなかのイケメンだが、お調子者。


 ただ、今の新婚旅行では、弦楽器リュートの演奏しながら馬車の御者も兼ねているから、減らず口叩く余裕はない。

 

 宿場での食事は皆と一緒にとるが、ソドム達が寝室に向かうと、別の任務が彼にはあった。


 本業の吟遊詩人として、歌うように指示されてるのだ。


 最初は、食事客が好みそうな曲を歌い、途中リクエストに応えて場を盛り上げ・・・、頃合いをみて ソドムを賛美する歌でしめる。

 

 それは情報操作や流言に近い。


 公国のいい噂を流したり、連邦や帝国の悪評を広めたりする流言担当は、今まで縄跳 茂助という忍がやっていた。


 連邦王都に来るときの強行軍と違い、ゆったり馬車で帰国することにしたため、茂助には先に帰国させ連絡係とし、代わりにトリスがソドム英雄譚を歌ってまわることになったのだ。



 トリスは、直接ソドムの活躍を見てきたわけではない。ゆえに、


「世界三強 大天使アークエンジェル撃退!連邦の騎士100人斬り!闇の教団壊滅!なんて序の口だ。我が武勇伝、しかと聞け」などと、ソドムから聞かされた自慢話ほらばなしをもとに作った歌なので、随分盛った内容となっており、逆に客ウケは良かった。



 ソドムは右親指で自分を指しながら言った。

「いいか?この闇君主ダークロードソドム様を讃えながらも、ギオン公王としての闇信仰まではバレない歌にしろよ。わかるな?」と。



 取材不足な上に注意事項があり、難儀な依頼だが、なんとか乗り切らなくてはならない。



 断れば、たぶん・・・馬のかわりにコカトリスとして馬車を引かされるか、鶏肉として出荷されかねないので、トリスも必死なのだ。




 ついでに、これから襲撃してくる山賊なのだが、


⚪山賊首領・ドロス・・・長髪に無精ひげ、肌は浅黒く中肉中背。装備品は、小剣と投げナイフ数本、身軽さを重視して鎧は着けていない。服は簡素なものにして、最悪の事態に 一般人の中に紛れ込める身なりにしている。


 歳は40くらい、獲物には容赦ないが、仲間には寛容な男で、分け前にも気をつかい、褒め上手でもある。


 ソドムに似た人間通で、悪党共を上手く束ねている。



 先の大戦までは光の神官という 嘘のような経歴の持ち主で、信心深さはなくなったとはいえ、ソドム同様 回復魔法が使えるため、仲間の信頼は厚い。



 そもそも、悪党集団を率いるのは難しく、山賊100人の首領は、千単位の兵を率いるほどの器量が求められる。


 なにせ、盗みや殺人を何とも思わないアウトローばかり。そんな連中が、約束や時間など守るだろうか?人間関係を良好に保てるだろうか?


 だからといって、罰則を厳しくしたり 分け前の不満などあろうものなら、寝首を掻かれて御陀仏だ。


 

 そこでドロスの流儀だが、悪事をするときは徹底的にするが、遊び要素を取り入れたり、陽気に行う。



 戦利品である女どもは、あくまでも「物」として扱い、情が移らないように心掛けている。


 そして、部下をよく褒める。褒めるのは無料タダだし、それでモチベ上がるなら重畳だ。



 大山賊ドロスは思う、

「神の与えたもう試練だと?俺の赴任先の村が帝国に蹂躙されたことがか!?それが、住民の運命だったとしたら、なぶり殺されるために生まれてきたのか?いや・・違う、神はイチイチ人間ごときの行いを見ちゃいないのさ・・・。だったら、奪う側になるだけよ。弱いヤツ、頭を使わないヤツから死ねばいい」




 ソドムにとっては、山賊の襲撃は想定内であり、負けるはずはないのだが、首領ドロスのしたたかさに思わぬ苦戦をしいられることになる。

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