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死霊の館

 戦士シュラは雇い主であるソドム公爵から、「魔物討伐許可」を得るため、公爵があてがわれている部屋へ向かった。



 部屋の前に立ち、ノックもせずに いきなり入る。



 この辺は、遠慮も何も無い・・、感覚的には・・自室に入るような自然さであった。



 財が有り余っている城の部屋だけに、フカフカの絨毯(じゅうたん)に、高そうなテーブルセット、窓には遮光・防音のための厚手のカーテン、部屋の奥にはドッシリとしたダブルベッドがあった。


 昼過ぎなのだが、カーテンは閉められ、薄暗い中でソドムとドロスが話し込んでいる。


 急にドアが開けられたので、二人は身構えたが、シュラとわかって また話を再開し始めた。



 シュラは、走った。全力ダッシュで。



 そして、大きなベッドにダイブした。


「アハハ、最高ね。このベッド」そう言って、しばらくうつ伏せになったかと思えば、飽きたのか ベッドの端に ちょこんと座り、体を上下させて弾力を楽しんでいる。



 コウモリ伯の奸計に乗ったフリをしていたドロスは、今夜にでも襲撃されると思い、ソドムと話し合っていたのだが、横でシュラがバウンドしていると、何ともやりにくい。


 見かねたソドム、

「で?何しに来たんだ?」と面倒くさそうに振り向いて言い放つ。


 シュラは瞬きをして、

「あ、忘れてた」と、動きを止めて コウモリ伯からの依頼の話をした。



 ソドムの反応は鈍い。

「お宝が廃屋に?そんなうまい話あるわけないだろう!どうせアンデットが()いた話に、尾ヒレがついただけだ」と、一蹴。



 が、シュラは目を輝かせ・・・


「それが、あるのよ!」と行く気満々。


 ドロスは、横目で見ながら無精ヒゲを掻いた。

(騙されてるなぁ。子供の頃から純粋(ピュア)()だが・・困ったもんだ)



「お願い!夕方には帰ってくるから。伯爵も一緒だし!」と、シュラは手を合わせて頼み込んだ。

 超高価な魔法剣が、無料(タダ)で手に入るのなら、頭下げるなんて安いもんである。



「むぅ、伯爵が一緒か・・」


 眷族であるシュラには、命令一つで諦めさせることはできるが、人が良いソドムには そこまでする発想がなかった。


 まさか、伯爵が大胆にもソドムの私兵を暗殺しようとしているとは思っていない。


 ドロスは「伯爵は敵だ」としきりに言うが、

「敵ならば、先程のように商売の秘訣を話すだろうか?」という思いが頭をかすめる。



 竜王不在の十年間、つまりソドムが竜王を取り込んで祇園公国を建国していた間、ハンドレッド伯爵は竜王の縄張りを無断開発していた。


 何百年と手つかずだった鉱物資源や木材を強奪し、本来は敵である大和帝国へ横流しをして巨富を得て、いまや民衆まで富豪のような裕福な領地となったのだ。

 

 ソドムの見解としては、ハンドレッド領が官民一体となって軍に投資したのならば、二、三年で五万人規模の軍団ができるとみている。


 連邦の動員数は約十万、帝国の大陸占領軍が十五万なのだから、片田舎ながら両大国の間に五万の軍が現れたら、どちらも好条件で取り込みにかかるに違いない。

 上手く立ち回って、漁夫の利を得ることもできよう。ちなみに、ギオン公国は千人足らずなので、交渉対象ではない。


 ソドムは目を閉じて考える。

(竜王山脈開発は、将来やろうと思っていたが、先を越されていたとはな。ハンドレッドは、俺に惜しみなく裏の商売を話した・・何とも憎めない。腹を割って話せば、俺の計画に乗るかもしれん。ここは、討伐とやらに力を貸して、恩を売って損はあるまい)



「仕方がない・・・、行ってこい。どうせ、ゾンビ倒しても宝なんぞないと思うがな」と、渋々許可したソドムであった。


 

 シュラは、チクリとした嫌味なんか気にせず、飛び跳ねて喜んだ。


「あっりがとぅ~!じゃ、行ってきま~す!」そう言い残し、足早に部屋を出た。



「いいんですかい?罠かも知れませんぜ?」心配するドロス。


「今のシュラは、手に負えないくらい強い。たとえ罠でも、罠ごと食い千切るだろう。万が一、晩メシに間に合わなかったら、俺が捜しにいくまでだ」



「はぁ、それならば構いませんが・・」


 主がそこまで言うのであれば、話は終わりである。公爵夫妻の桁外れな戦闘力を知っているだけに、コウモリ伯爵達が敵かどうかは、今少し様子を見てから判断しようと考え直し、ドロスは軽やかなステップを踏みながら 可愛い踊り子の待つ自室に戻った。


 その館は、エルドラド郊外にポツンと建っていた。


 石造りの二階建ての古い館だが、建築士がみれば 古く見せかけているだけで、実際は新しいと気がつくかもしれない。また、石壁の隙間に木材が挟まっているのも不信に思うだろう。



 地元では、「とある商家の隠居が亡くなってからは、死霊が棲みつく廃屋になった」、という設定であるが、実際はコウモリ伯爵の 趣味(さつじん)の館ということは有名であった。

 

 竜王の縄張り侵害と帝国への横流しをしていた昨日までは、領内の秘密を知られるのを恐れ、限られた取引商人以外の宿泊者は殺処分するのが伯爵領の方針であった。


 活きがいい旅人(えもの)や若い(おもちゃ)を見かけたら、町の住民が言葉巧みに誘い出し、伯爵に捧げて謝礼を貰う。


 それによって、伯爵から町の住民が狙われることもない上に、なかなかの収入になる仕組みだ。



 伯爵としても、わざわざ獲物を捕まえる手間が省け、旅人による情報漏洩を防げるメリットがあった。


 メインの街道でなくなったことにより実際は旅人なども少なく、来たとしても 「領内の宿や商店はボッタクる」 という風聞もあって、旅人は街の見物などせず一気に突っ切る場合が多く、皆殺しというほど苛烈かれつなものではない。


 ソドム達も、旅費を節約するため強行軍で通過するつもりであったが、無料飯無料宿(タダめしタダやど)に釣られて、現在進行形で罠にハマっている。




 昼下がり、馬に乗ったシュラと伯爵が、(くだん)の館に着いた。



 シュラはいつもの皮鎧に赤いミニスカート、武器はない。伯爵の好意で、武器庫の好きな武器を使っていいと言われたが、あっさりと断った。愛用の片手斧以外の不慣れな武器で醜態を晒したくなかった。


 鮮度次第であるが、皮膚や肉が崩れていないゾンビだったら、首の骨を折るか 手足の骨を折りまくって戦闘不能にするつもりでいた。新鮮じゃなかったなら、金剛聖拳の光をまとわせたグーパンで四散させるまでのこと。

 ただ、前回のスタミナ切れの教訓から金剛聖拳は最小限の使用に留めるつもりでいる。ゾンビ相手に吸血で補給はできないし、仲間たちに頼るわけにもいかないからだ。さすがのシュラでも、そのくらいは考えての討伐であった。



 金の盾鎧に赤マント、そして宝石が散りばめられた剣を腰に差しているハンドレッド伯爵は、

「本当にバカな(むすめ)だ・・」と、剣すら持たないシュラが少し哀れに思えてきた。


 シュラの後ろ姿を見て、「こんな娘を拷問死させて喜ぶ自分は、異常なのではないか・・」、などと躊躇がなくもない。


 

 だが、違うのだ。館には多数の罠が設置されており、それが連動して発動し、結果 いくつもの罠にハマって苦しむ様を観るのが、まことに楽しい。


 罠にはめた快感は、貴族のスポーツであるゴルフに似ているかもしれない。緻密な計算と技術で、ボールをカップに入れたときのような「ヨッシャー!」的な感じである。いや、憎たらしいヤツの ちょっとした不幸に「ざまぁ!」と思う感じだろうか。


 ともかく、刀剣による直接的殺害と違うのは、試行錯誤して罠の配置や威力を考え、被害者(えもの)を誘導して自発的に罠にハマめる点だろう。



猟師(ハンター)とは違うのだよ、芸術なのだ」 ハンドレッド伯談



 今回 配置した罠も、最大4コンボを狙える傑作なので、シュラの生意気さも(あい)まって、館に着く頃には良心は吹き飛んでいた。


 館の前で伯爵は馬を降り、


「ここです。皆は恐れて「死霊の館」などと呼んでおりますが・・」と、ふらつきながら説明した。


 足が短く、太ってる伯爵は、馬の胴を人一倍両足で締め付けないと転げ落ちるので、非常に疲れるのだ。それと、先日はソドム達に先回りするため連邦王都から馬を走らせ続けて、内腿ウチモモが擦り切れていて痛い。・・・・それでも、この小娘をいたぶる愉しみを思えば、どうということはない。


「よしっ!」と言って、勢いよく馬からシュラが降りた。


 自信満々なので、建物周辺の探索はしていない。もしも、していれば館裏の林にアウズンブラ達の馬がつながれているのに気がつき、待ち伏せを警戒したはずだった。


 シュラは伯爵に少し待つように言って、館の扉に近づいて調べ始める。鍵がかかっているか、罠はないか、内部に何かいないかなど、耳を当てたり手で押したりしてから戻ってきた。



「どうやら、鍵は掛かっていないわね。魔物の気配もないし、罠もなさそうよ」と、真面目な顔で護衛対象である伯爵に報告した。



「そうですか・・。ですが、お気を付けください」


「大丈夫、楽勝よ!あたしが先に入るから、後からついてきて」シュラは親指を立ててニッコリ微笑んだ。


「わ、わかりました」演技の上手い伯爵も、心配で・・・つい顔を引きつらせる。

(おいおい、中には大勢の兵が待ち伏せしているし、罠満載なんだが・・。こんな調子では・・・四連コンボ前に死んでしまうかもしれん)



 シュラは、両開きの木の扉をゆっくりと押す。鈍い音をたてながら開いた扉は、シュラが入ると自然にしまった。すかさず伯爵が、屋内から出れないように外で鍵を掛けた。

 これで、獲物は逃げることができなくなった。あとは、石壁の間にある板を外して「のぞき穴」を作り、小娘が動けなくなるまで観賞するだけ。

 戦闘不能になった所で、自らも参加して凌辱する・・という段取りである。



 館の窓は木の板で塞がれ、日の光はほとんど入ってこない。シュラは目が慣れるまで、その場でじっと待った。やがて、館の全容が見えてくる。


 薄暗い屋内は、カビ臭さに血肉のモワリとした生臭さが混じり、とても不快であった。


 所々にある吊り下げ式ランタンが油を切らしたまま ユラリユラリと隙間風に揺れ、羽虫が飛び交っているので、人が住んでいないのは明らかだ。


 もしも、冷静でいられたのならば、生活感のない間取りに戸惑うだろう。


 二階建てなのに吹き抜け構造に近く、二階部分は正面奥に少しあるだけの奇妙な造りで、そこに上がる手段は右壁伝いにある階段しかない。


 左の広間をみれば、十体の死体が転がっている。



 いざ来てみると、その不気味さに帰りたくなったシュラ。


 扉を開けようとするが、開かない。


 別に逃げる気じゃなかったと、自分に言い訳して、一歩踏み出したら、「カチリ」と音がして踏んだ場所の床が少し下がった。


「ん?ヤバッ!」と、後ろに下がる。


 床が罠発動スイッチだったようで、館の階段横の壁 数か所から火が噴き出た。


 その火は1メートル横に噴き出ると止まり、五秒くらいすると また吹き出す仕組みだった。


 階段を上ろうとする侵入者を火だるまにするつもりなのだろうが、タイミングを見計らえば簡単に通過できそうだ。むしろ、その火のおかげで中が良く見える。



 同じく連動して動き出したのが、階段の上を前後する「トゲつきの巨大な鉄球」で天井から鎖でぶら下がっているソレの大きさは、丸まった人間三人分はある。振り子のような単純な動きだが、ぶつかれば即死間違いなさそうである。

 これもまたタイミング次第で やり過ごせるので問題はないだろう。



 階段の下には、ガラス製の人を模った椅子?が見えた。


 意図はわからないが、様々な罠が階段に集中していることから、館の主が何人(なんぴと)たりとも二階に上らせたくないのは伝わった。



 シュラは驚きながら罠を見渡したが、案外チョロいと気がついた。


「・・・つまり、二階にお宝があるのね!」とシュラの闘志に火が付く。


 罠がある以上、取られたくないものがあるはず、だと。


 

 わざわざ罠に付き合うほど暇ではないので、階段を避けて正面の壁をよじ登って最短で二階に行くという作戦にでるシュラ。直進して壁に向かうと、手をかける場所を探り始めた。



 この非常識な行動に、製作者のコウモリ伯は肩を落としたという・・・。

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