9.歓迎のごあいさつ
「改めてよろしくな、ヒナ。……そうだ。ホントにあそこは人の村なのか?」
「はい、人間特有の微弱なマナを感じます。さほど大きな群れではないようです」
「いや群れは何かおかしいからやめような」
言い回しが独特。かなり賢くなったけど、あまり人前で発言させない方が良さそうだな。ふむ、規模が大きくなさそうとはいえ、村にはそれなりに人がいるっぽい。
「となると……逆に俺らの方が異分子になるのか」
ヒナによると、あそこは完全に人間だけで暮らしている村らしい。そんな風に集まったコミュニティが、異種族を受け入れる可能性は限りなく低いだろう。
「あ――…やっぱ泊めてもらうとか無理かなー俺なんか悪魔だしなー」
魔神様から力(?)を授かっておいて申し訳ないが、今のところデメリットしかないぞ。空中に投げ出されたときは助かったと思ったけど、逆だ。多分羽があるからお空の中に放り出したんだろうな。
「せめて羽と角を隠せるような服だったら……!」
「エルは、魔の力を抑えておきたいのですか?」
「んー、どうにもなんないけ……ど、ってなになになに、ヒナ、どした!?」
突然ヒナに真正面からハグされたんですけど!!!
無論、この両の腕は情けなくも宙に浮いている。
どどど、どうすりゃ良いんだ? うーわー、すっげーあったかいしイイ匂いだしやわらか……ってなんかまた光ってないか、ヒナの体。
呆気に取られていると、光の収束と共にヒナは俺から離れた。
「これで多分だいじょうぶです、私の力とエルの力は調和がとれています」
可愛らしくちょっぴりドヤるヒナを見ると、さっきまで背にあったはずの翼が消えている。ひょっとして……おお! 角が消えてる! 背中も……クリア!
ぺたぺたと手で触りながら確認してみたが、俺の体から悪魔的な特徴は見当たらない。すげーな、ヒナ。
「よーし、これなら堂々と乗り込めるな!」
まぁ、実質は低姿勢で一宿一飯の許可を求めることになるのだが。
「はい、精神体ではなくなったのでエネルギー源を供給しなくてはいけません。幸いここではそういったものを育てているようです」
なるほど、近づいてみて判ったけど、農村か。木でできた低い塀にぐるりと囲われた、こじんまりとしているがなかなか趣きのある村だ。ヨーロッパの田舎の風景に似てる気がするな。荷台、樽、果物畑にはたわわに実ったリンゴっぽい果物……。小さいけど活気はありそうだ。
これはアタリの予感、農業は人の手があって困ることはないだろうし、何かしらの手伝いを申し出れば助けてくれる可能性が高い。
意気揚々と村の門を潜ろうとしたその時、村人とおぼしき集団がぞろぞろと姿を現した。
まさかの大歓迎だ。……悪い意味で。
「おかしな真似はするなよ余所者」
集団の中のひとりが敵意もあらわにそう告げた。
彼らの表情とそれぞれが構える得物を見比べながら、俺はゆっくりと両手をあげたのであった。