8.男はつらいむ
「どうすりゃいいんだ……このまま野宿……!?」
せめてアウトドアグッズでもあれば……!! って初対面の女の子と二人きりでキャンプとかそれも多分無理ですハイ。純情を抱えて爆散する。
「とうさま、こまってる?」
よほど俺が情けない表情をしていたのか、彼女もちょっぴり困り顔だ。可愛い……ってそうじゃなかった。そうだよな、不安なのはこの娘だっておんなじなんだ。俺が慌てたらイカンだろ、うん。
「ちょーっとだけ。でも大丈夫だ、ほら、あっちの方に森が見える、何か食べるものがあるかもしんないし、薪でキャンプファイヤーだって出来る」
なんせ口から火を噴けるからな! ……って、ん? 遠目に煙のようなものが昇ってる気がするぞ。それに、明かり? 一か所じゃなくて、まばらに見える。
「ひょっとして村かなんかがあるのか!? やった! 助かった!!」
いいかげんなG様にこの世界に放り込まれ、放任主義の魔神様にも置き去りにされたけど、無人の地でサバイバルさせるつもりは無かったらしい。はー、そこは素直に感謝して拝んどくわ。なむなむ……って、いや、まてよ。
「あそこってどの種族の村なんだ? 第一村人がヤバイ悪魔だったらどうすんだよ、感謝しといてなんだがまったく信用出来ねぇ」
感謝の念は保留だ。頼んでもいないのに悪魔に改造されたあげく、遠い世界にほっぽりだされた俺の心の傷は浅くないぞ!
「とうさま、にんげんがいます、たくさん」
「だから、俺はパパ上様ではなく……ん? 人? ……わかるの?」
こっくり頷かれ、俺はしばし熟考した。が、このまま野宿するわけにもいかないし、あそこの住人が神の救済であれ危険集団であれ、どのみち確かめたほうが良さそうだな。この世界の様子を知る必要がある。
「虎穴に入らずんば……ってやつだな。よし、初ミッション、謎の村への潜入!」
と、その前に。
「えーっと、俺のことはエルとでも呼んでくれ。君の名前は」
そういって彼女を見ると、ひたむきに俺を見つめる青い瞳とぶつかった。
……これはあれだ、まっっったく異性として見られてねーな。親を見る幼い子供のような、飼い主を見るペットのような、そんなカンジだ。まさに雛鳥の刷り込み。俺にも父性的なものが芽生えそう。
「君の名前は、雛姫、だ」
金の髪に青い瞳、童話に出てくるお姫様みたいな容姿をした、純真無垢な小鳥の雛。そんなイメージから名付けてみたが、なかなか良いんでないだろうか。とうさんは満足だ、娘よ。
名を与えられた雛姫は目を見開き、そして静かに瞼を伏せた。すると、彼女の全身から金色の光があふれだして、軽やかに羽ばたく音とともに背から真っ白な翼を顕現させる……!
薄闇の中の金色の光と、舞い散る羽と、微笑む天使。
幻想的な光景に息を呑む。心臓が、騒がしくはねっぱなしだ。
「私はヒナ。そう呼んでください、エル」
名を得たことで何らかの影響があったのか、幼子のような言動ではなくなり見た目と相応の女の子のように思える。トドメに可愛らしく、にっこりスマイル。
……アカン、父性的なものが速攻で瓦解しそう。かと言って、彼女の俺を見る目は親愛の情しか感じられず。
色んな意味で苦難の連続になるな、これ。