1.よくある突然の訃報?
一瞬だった。それはいつもの、大学からの帰宅途中の黄昏時。
秋の気配が近づき始め、外灯の少ないこの通りはあっという間に暗がりに包まれていた。今現在は俺のスマホの明かりだけがぼんやりと浮かんでいる感じだ。さびれた商店街を抜けでたこの通りの先は住宅地や公園だけなので、人通りも少ない。
まぁ、慣れた通学路でなんの感慨もない。しいて言えば腹減った。Twitterをだらだらと眺めながら、今日は豚バラと舞茸のカレーだよ♡ と毎度美味しそうな手料理の画像をアップする社会人(独身男性、ゲーム繋がり)の呟きを見て無性にカレーが恋しくなった。ついでに、手料理を振る舞ってくれる彼女欲しい。むしろそっちが本命。
煩悩にまみれる俺の、危機管理のなさが招いた結果とでも言うのだろうか。
たたた、という靴音が後ろの方から駆けてくる。まっすぐ、こちらに向かって。
ランニングでもしてんのかな、と頭の片隅でそう思い、意識はツイログのカレーのレシピへと戻った。自分で作って一人で食うのだ。悲しい……。
くだらない感傷にふけるさなか、ドン、と鈍く重い衝撃が背中に響いた。
え、なんだこれ、熱い。
背中が、しびれ、る。
僅かに振り返った目の端に映ったのは、黒に近い藍のレインコートをまとった人物と、その手に光る血塗られた刃物。
足の力が抜け、ぐらりと世界が回り、視界が狭くなる。どくどくと脈打つ体から、命が流れ出ていくのを自覚した。
あー、くそ、まじか。俺、死ぬの? 平々凡々な田舎者が、大学に通うために街に出て一人暮らし。せっせとバイト(と、勉学も多少)に励みつつ真面目に平和に生きてきただけなのに。通り魔に刺されて享年十九歳彼女無しとか、幸薄すぎて自分で自分が気の毒になるわ。可哀そう過ぎる、いったい俺が何をした。
「……ざ、け…な」
ふざけるな。怒りが込み上げ、思わずこんな運命を押し付けた神を罵りたくなる。やっぱり死にかけてまともな思考が出来なくなってるんだろうな、刺した犯人じゃなくて神様が憎い。俺の人生にハイライトなんて無かったぞこんちくしょー!! 天国へ召されたらぐーで殴ってやる!!!!
渦巻く怒りと混濁する意識を抱えながら、俺はこんな言葉を耳にしていた。
『よぅし。その喧嘩買った』
……なんか知らんが、聞き覚えの無いジイさんの声が、良い(碌でもない)事思いついちゃったーとでも言わんばかりに浮かれていた。