表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1人でなければ生きてける!……多分。  作者:
第一章  異なる世界と彼女の話
7/9

第7話

 

 ちょっと元現代日本人としては暴力的に過ぎるかもしれない言動を平然とした顔で言ってのけたウェールズさんに引きつつ、しかしそれをあまり引きずっても仕方が無いので、とりあえず近くやらなければならないことがある、と話題を転換してくれたアイリ様には感謝している。


 が。


「聞いてないですけども、なんでこんなハードスケジュールなんですか」

「貴方達が想定外だったからに決まってるじゃない。もっと急がせなさいよ」

「既に私の可愛いペガサスさんから最高速度なんですけどって思念が伝わって来てるのですが!? 《レビテート》使って揺れないようにしてるんで速度出てないように思えるだけです! この街道道なりでいいんですよね!?」

「そうよ、頑張りなさい」

「誰か私に暖かい言葉をくださぁぁぁい!!」


 まさか話し合い終わったらそのまま馬車で目的地まで出発させられるとは思わなかったよね!!

 急ぎとのことで仕方なく、私のスキル《召喚(サモン)・ペガサス》で翼の生えた白馬を呼び出し、《レビテート》という、人や物に浮遊状態を付与するスキルで馬車を浮かせ、空飛ぶ馬車を簡易的に作って街道沿いに大空を大爆走しているのが現状。地上を走らないのは、速度を出すと振動がキツいからです。

 どこに向かっているのか、と言えば我々がお世話になるヴァレントリア領のお隣、ダンバート伯爵領らしい。どうやら、そちらの方には今王子と王妃が遊びに来ていて、そこからヴァレントリア領に来る王族様方をお迎えに行くらしい。

 なんでいきなり、と私も思うのだが、実は元々行く予定だったらしく、その道中で私達がアイリ様の下に転がり込んでしまったのだ。うん、そりゃ申し訳ねぇ。てことで、こうして全力疾走の最中なのである。

 やったことは無いけれど私が召喚した子が引いているので、という理由で何故か御者の真似事もやらされているが、これに関しては私もはや手綱持ってるだけで何もしていない。最初に街道沿いに走って欲しいとお願いしただけで走ってくれてる。優しい召喚獣を持てて私は幸せです。

 自分に当たる風は風魔法系統の《エアロック》という周囲の風を安定化させて風魔法をある程度まで防げるスキルで和らげている為、御者台に座ってても特に強風にあおられることも無く、案外快適にお座り生活をしている。

 街道が迂回している森の上を突っ切っていると、少し離れたところに大きな人工物のようなものが見えた。多分壁か何かだと思うので、もしやこれが目的地か? ととりあえずこの世界出身のどちらかを……いや、アイリ様を呼ぶと心折られそうになるのでローエルさんにしておこう。


「ローエルさん、ローエルさーん!」

「はい、何でしょうか」

「なんで主従揃って躊躇無く窓から顔出せるんですかね……あ、街っぽいのが見えて来たのですが」

「……本当ですか? 通常、丸一日は……いえ、なんでもありません。恐らくそこが目的地だと思われますので、そろそろ地上を走らせるのは如何でしょうか」


 ある程度の曲がり道も何のその、街道が迂回している森やら何やらをすっ飛ばして目的地へ出来る限り一直線で来たので、早く着いたのだと思うが、普通は使えない道だから時間を見誤るのも無理はない。丸一日馬車で走らなきゃつかない道を四、五時間程で着くってのはまぁ、普通に考えてもおかしいしね。どれだけ空路が便利なのかが分かる。

 地上を走らせるのは理由があるのだろうか? 正直揺れ皆無で快適なのでこのままお空飛んでいたいという思いが強い。返答しない私に対し、ローエルさんが困ったように説明をしてくれる。


「普通、ペガサスに馬車は引かせられません。そこまで高度な召喚術を使える者がおりませんので。目立ちたい、と仰るならそのままでも良いとは思いますが」

「あああああ、ごめんなさい降ります! 降りて降りて、普通に馬車引いて! でもどうしましょう!?」

「普通の馬は居ないのですか?」

「……アンデッドホースとかどうでしょうか。羽も角も無いですよ?」

「ふざけてませんか?」

「ごめんなさい」


 ふざけ半分なのは本当なので、大人しく謝る事とする。しかし、これは困ったな。私が契約登録している召喚獣には馬が少ない。見た目要員のペガサスさんに、三人乗りが出来るアンデッドホース、マジで急いでる時用の八本足の神速馬、スレイプニルだけだ。この中でランクを付けるとしたらペガサスさんが一番下で、そんな一番下でさえ目立ってしまうという半ば死刑宣告を食らってしまった為、全てが使えない。

 それ以外で馬車を引けるような召喚獣となると、最早ドラゴンに頼るくらいしか無いのではなかろうか。それでも最下位のレッドドラゴンですらこの世界では災害レベルの敵として認識されてしまっている為、尚タチの悪い事になりそう。

 えーと、かくなる上は、全部騙すしかないかなぁ。バレた時が怖いけど、バレなきゃ平気だよね。


「ローエルさん、幻系統のスキルってどんな感じですか?」


 何をやろうとしているのかは伝わったらしいが、ローエルさんさんが、微妙な顔をしているのでおすすめ手段では無いのだろうか。とりあえず、彼の話を待つ。


「中々、希少なスキルだと言えると思います」

「やったぁ」

「まず、適性を持つ者が少ない」

「はい」

「次に、極めないと有用でない点から、所得する者が少ない」

「はい?」

「最後に、例え極める程にまでポイントを割り振ったとしても、決して魔物は騙せない為、更なる所得者の減少を招き、私の知っている範囲であっても幻系統のスキルを有する者は居りません」

「あぁ〜!! 知ってました〜!!」


 この世界でも仕様が同じことに驚いた。

 そうだよ幻系統のスキルはゴミなんだよ基本的に。敵に使用しても幻惑状態として、一定確率で攻撃が外れるってだけしか効果が無かったし、その確率があまりにも低くて毒麻痺眠りとかそっちの方が使えるとゲーム時代から言われてきていたスキルだ。所得するのは自身のキャラの設定として、とか各種魔法スキルをほぼコンプしたので暇つぶしに、とかそういった人達だけである。ちゃんとスキルをマスターする──割り振れる最大ポイント、二百ポイントまで割り振ることである──まで育てている人を私は一人しか知らない。


「ま、人さえ騙せれば良いですからね。《姿写し・馬》」


 つまり、私だ。

 お狐様と言ったら化かすのが得意なものだろう、という何とも些細な理由でマスターしてしまいました。後悔はしていない。ほんとだもん。ゴミスキルだけど。


 使用感がよく分からなかったのでメニュー画面から使用したが、何やらペガサスさんの足元を濃い霧が覆い始めた。霧は意志を持つように動き、どんどんとペガサスさんを撫でるように上へと上がっていく。そして霧が通った後には栗毛の毛並みが。

 翼はどうなるのかと思えば、一気に覆われて、霧が散り、完全に見えなくなっていた。それでも飛んでいるので、無くなった訳では無いはず。いやはや、自分で幻と現実の区別がつかなくなってしまいそうだ。


「ローエルさん、これでいいですかね?」

「………………はい、もうそれでいいと思います」


 結構間を開けられたな! しかも良い笑顔なのにめっちゃ遠い目!

 ねぇローエルさん、知ってますか!? ストッパーは大事なんですよ!! 貴方に諦められたら私はとても困るのですが!


「人の目を誤魔化せる程の《姿写し》を使えるとなると……」

「二百ポイント割り振り済みになりますので! さぁペガサスさん、そろそろ大地を走りましょーか!」


 考え込むローエルさんには適当に真実を暴露し、半ばヤケ気味にペガサスへと声を掛ける。これだけで下降してくれるのでこの馬車、御者の意味が無い。多分手綱の意味すらも無い。

 と、ここで《レビテート》の効果時間の残りを確認。まぁそこまで効果時間の長いスキルな訳でもなく、掛けた後は30分で切れる。前に掛けたのは二十五分前なので、後五分と四十三秒。それなら急がなければ街に着くまでには切れているはずだ。

 バフの効果時間計測は常識なので皆様覚えてくださいね。

 これで私が間違っていたら、街に微妙に浮遊する不審な馬車が入る事になってしまうので結構重要な事だったりするのだ。


 完全に地面に降り立ち、聞きなれない車輪の音と案外かつて無いほどの振動に見舞われながら、街道らしき道を遅めな速度で走っていく。

 花のJKは車に詳しくないのだが、こういった異世界系の小説は沢山読んでいたから知っている。サスペンションとか言うのを付ければ良いと。

 ただしそれが何なのかは全くもって知らないけどね!


「サスついてねぇのかこれ」

「何よそれ」

「懸架装置。振動をある程度吸収してくれんだよ。ねぇの?」

「ローエル」

「……いえ、聞いたことはありませんね。王家が使用する様なものや、貴族が見栄を張る為に金銭を掛ける馬車には魔法が掛けられておりますので振動もほとんどないため、こちらでは機構による振動の除去が発達しなかったのかと思われます」

「そっちかよ……」


 馬車の中で仲良くお話してるのが聞こえる。ぼっちは寂しいから是非とも混ぜて欲しい。そろそろ拗ねて蛇行運転するぞ。


「あー、馬車の中の方々〜。もうすぐ着きますよ〜。これ、検問とかないんですかね」

「あるに決まってるじゃない。ただ、私が来ることは伝えてあるし、この領の貴族とは交流があるの。軽いものになると思うわ」

「護衛三人とご主人様と執事さん、よーし不自然じゃない!」

「馬車を引くのがペガサスで、五人のうち四人が異世界の人間で、そのうち三人は恐らく世界最高レベルなのを除けばね」

「言わないでくださいアイリ様ぁ!! 内情暴露はいけません!!」


 大人しくしていればひとつもバレることは無いはずの内部事情だ。迂闊な言動は避けて欲しいという意味で言ってくれたのだろうか。だとすれば効果抜群である。


 さて、少しだけ進むと近付いてきた壁。あれに囲まれているのが街らしい。

 大きな門の前には何か行列が出来ているが、恐らくあれが中に入る為の検問の行列なのだろう。つまりあれに並ばなければならない。ブレーキもないこの馬車どうやって停めようかと思案していると、ローエルさんからお声がかかる。


「アユズミ様、あちらの人の少ない方へ向かって頂けますか? お嬢様の訪問は伝えてありますし、貴族用の扉から入ります」

「特別扱いですね、了解です!」


 扉とは聞いたが馬車が通れるような大きさであるとは聞いてない。こちらは門ですら無かったことに驚いたが、向こうの行列が出来てる方なんて門に付いてる扉から出入りしている。ちょっと待て、何故門を作ったのか。

 いやまぁ、流石に予想は付く。門開いて人に魔物に雪崩込まれても困るからだろう。一度に沢山の人が通る時、それこそ軍を動かす時なんかに開くはずだ。

 私が門に関してあれこれ考えているうちに開催されていたローエルさんの常識講座によれば、基本的に領主の貴族が居るような街は魔物対策の為壁に囲まれているのが基本らしい。

 入るのにお金がかかることがあるのだが、出るのは無料。勿論ではあるが、街の中に住む市民は出入り無料。代わりに毎月収入に応じた額を税金として納めなければならない。

 あとは、冒険者や旅商人なんかは基本的に無料でどの街、国にも出入りが出来るようだ。どちらもスパイの可能性とか無いのだろうかと思うのだが、そこはしっかりとギルドという組織が管理しているらしい。それぞれ冒険者ギルドと商人ギルドと所属する組織が分けられており、そこから発行される身分証を所持していれば出入りは自由、ということ。彼等はギルドに毎年税金を納めたり、いろんな取引の仲介料として報酬から差し引かれたりはするが、基本的に国、領に対する税は掛からないのだと。

 聞いた事あるようなシステムだなぁって思ってはダメですかね。ダメですよねそーですよね。

 あら、話の途中ではあるが順番が来てしまった。めっちゃ並んでる向こうの列より圧倒的にこっちのが早い。

 貴族様待たせるとうるさそうだもん、隔離するのは当然か。

 しかし外と話せるのは私しかいないんですが、私がそこの厳つい兵士さんと会話するのでしょうか。ローエルさんが馬車から出てくる気配もないので仕方ない、やるしかない。


「主人は?」

「アイリ・ヴァレントリア侯爵令嬢様です。先に伝わってませんか?」

「少しお待ちを」


 二人いる兵士さんのうち一人が手に持っていた紙を見て、そして直ぐに顔を上げてこちらへ向く。


「ありました。どうぞお通り下さい」


 金銭要求されたら助けを呼ぼうと思っていたのに、無かっただと。ちゃんとローエルさんの説明聞いたのに騙された?


「今回は事前に使者に持たせています」


 ローエルさんは私の心が読めるようになってしまったのだろうか。そんな深い仲になった覚えもないのに早すぎはしないだろうか。しかし私のモヤモヤ解消には助かった。

 馬車が通り抜けられる程に大きく作られた扉を兵士さん達が押し開け、どうぞ、と声を掛けてきたのでペガサスさん(が化けた普通の馬)に指示を、うん。


「ようこそ、ダントールへ。ごゆっくり観光をお楽しみください」


 する間もなく歩いてくれたよね! 指示しようと思ったら既に兵士さんにご挨拶頂いてましたね!

 うちの子優秀〜〜!!


 さて正気に戻って。ここをダントール、とか言ってたなあの兵士さん。街の名前すら聞いていなかったがそんな名前だったのか。せめて目的地の名前くらい聞いて出てくれば良かった。

 がらがらと音を立てながら、馬車はそのまま、レンガが敷かれた広い大通りをゆっくり進んでいく。


「鮎炭」

「なんでございましょうか、お嬢様」

「お腹が空いたわ、早く宿に向かってちょうだい」

「んな無茶な」


 場所も知らん宿屋に向かえと仰る。

 せめて場所くらい教えてください、と言おうと振り向こうとしたら、既にローエルさんが隣に居た。全然全く気配を感じなかったんだけど、忍者だったっけ?


「道案内致します」

「御者を代わるという選択肢ないんですか」

「……いえ、あの馬ですので、私ではどうも操れる気がしません」

「御者ごっこ続行!!」


 ローエルさん自身はレベルが低いらしいというのは聞いている。なので、ペガサスさんに反旗を翻されたら溜まったものじゃないということか。

 私だったらそんなことされた日には恐らく一瞬で消し飛ばすね。周りへの被害を考えるのであれば対象だけ氷漬けにしてから砕いたりとか。他にも魔法スキル使えばやりようはあるし、何ならちょっと良い武器持てば物理でも勝てる。

 うん、私がやってた方が良いかもしれない。恐怖政治? 知ったこっちゃないのですよ。


「当然ではありますが、高級宿ですので中心の領主の館に近い場所にあります。そこの大通り、右に曲がってください」

「はーい。よろしくお願いしますね、ぺ……ん、えっと……シロさん!」


 流石に大声でペガサスと呼ぶわけには行かない。しかし自分からペガサスに思念を伝えるなんて技術、残念ながら現在は使えない。てことで、あだ名を付ける。唐突だがペガサスは反応してくれたのでこれから彼はシロさんで良いか。


「安易な名前が聞こえたな」

「一部の愛好家に殴られそうね」

「そんなやべぇ奴が居るのかよ……」

「まぁ、魔物と言うよりも、幻獣……信仰の対象に近いものがあるから」

「「へえ」」


 だぁから中の三人!!! 何を仲良く喋っ……て、ウェールズさんは私を罵倒しなきゃ気が済まないんですかねえ!? そろそろ泣きそうです!!


「アユズミ様、もうすぐで着きます。そちらの左手側の建物です」


 私の荒れた心なぞ何のその。ナビをしているローエルさんはしっかり目的地を指し示してくれた。ありがとうございます。


「シロさ……うん、知ってました。何せ私に聞こえてる言葉君には全て聞こえてますもんね。勿論完璧に宿の前で止まるなんて朝飯前ですよね。ありがとう」


 止め方も知らないこの馬車が完璧に止まれるのは確実にシロさんのお陰なので、とりあえず私以外の全員も感謝した方がいいと思う。

 ローエルさんと私は御者台から降り、ローエルさんさんはお嬢様の執事として彼女が降りる準備をし、私はチラチラこちらを見てくるシロさんの頭を撫でてやる。

 シロさんが嬉しそうなので良かった。馬なんて撫でたことないので、どこをどう撫でればいいのか分からないから。

 周囲の目を気にせず愛馬と戯れていると、入口の方から綺麗な女性の声がした。


「……あら、アイリちゃん!」


 ()()()()()()

 おいおい、いくら常連でもそりゃ無いでしょうよ。何せそのアイリちゃんは侯爵家の長女様なんだから。常連だかどうだかは知らないけども。

 なんて無駄な正義感に駆られた私が入口の方へと合流すると、お嬢様は雰囲気は緊張させながらもとびきりの笑顔を披露していた。


「……ごきげんよう、王妃様!」


 ()()()

 ちょっと何を言っているのか分からない。そんな人がこんな所にそんな無防備に居るわけないでしょう。

 そんな訳ないですよね?

 誰かそうだと言っていただきたい。割と真剣に。

ようやく五人パーティー以外の人が出て来ました!(一人)

色々これから……動いて始まる……はず。

と言うかローエルさん貴方喋り過ぎじゃあありませんかね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ