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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ぱーんち!

作者: 古澤深尋

今更な婚約破棄物をと思ったけど、ぶん殴りたくなって書いた。文才の無さは反省しているが、内容に後悔はしていない。


 その男は、絢爛たるパーティーにはいささか場違いだった。

 青々とした禿頭。

 聖職者の纏う僧服より更に簡素化されたような軽装。

 鍛え抜かれた、鋼のような肉体。

 長身の引き締まった武人の如き男が、パーティー会場の中央付近で立ち尽くしている。

 顔はまあ、美男子の類だろう。

 だが聖職者独特の雰囲気に加え、当人の持つ雰囲気が人を寄せ付けない空間を作りだし、貴族達の毒すら薄めていっそ清冽な空気を生んでいる。

 

(彼は何者だ)

(あそこで何をしているのか)


 周囲の雑音を気にすることもなく、男は立っている。

 その男が動いたのは、ラミトス侯爵令嬢マリーシアが彼女の兄マーキスにエスコートされて会場に入ってきた時だった。

 そばに寄ると頭を下げ、マリーシアは軽く頷いて通り過ぎた。


(ラミトス家の縁者か)


 貴族達は興味を失い、再び談笑し始めた。

 事態が大きく動いたのは第2王子イフリムが婚約者ではない女性をエスコートして入ってきた時だった。

 わざわざ壇上に上がり、人々の前で宣言する。


「我イフリムは、マリーシア=ラミトスとの婚約を破棄し、新たにアリア=ハリハトスと婚約する!」


 会場の反応は、微妙だった。

 イフリムが縷々述べた内容はつまらないものだ。

 マリーシアがアリアに散々嫌がらせをし、あまつさえ多数の男を侍らせ不貞を働いている、らしい。

 マリーシアが何か言って返すのか。

 貴族達は半ば呆れ、半ば面白そうに見守っていた。

 だが、誰にも予想外のことが起きた。

 

「罪を憎んで人を憎まずぅっ!」

「おんげろっぱぁ!?」


 人々の腹の底にガツンと響く力強い声と共に、イフリムが宙を舞った。

 周囲に飛び散った白い粒は、歯だろう。

 だが、もっと信じられないことが起きた。

 飛び散った白い粒が逆回転するかのように戻る。

 イフリムも同じように逆回転して飛んでくる。

 気が付くと、イフリムは先ほどと同じように立っていた。

 違うのは、顔に殴られた跡がくっきり残っていることだ。


「虚言を弄し、人心を惑わす!これ則ち、大罪なり!」

「ぶべらっぱぇ!?」


 次の犠牲者はアリアだった。

 頭頂部からいい一撃を貰い、まるでカニのようにひしゃげる。

 白目を剥き、鼻血を噴き出している様はそれだけで溜飲が下がる思いだが、更に先ほどと同じ現象が起こる。

 巻き戻されたかのように戻るアリア。

 但し、頭には大きなたんこぶが出来ていた。

 それなりに美人だが、たんこぶのせいで髪型がおかしなことになっており、妙に笑いを誘う容姿になっていた。

 

 殴り飛ばしたのは場違いな男性だった。


「我が神の威徳は世界を覆う!我が拳は神の拳!我が拳は人を殺さぬ!ただその罪を殺すのみ!」

「何者なんだ…」

「失礼いたした。拙僧は世界神教の末席を穢しておりますグレンと申す者」

「あ、貴方は、使徒様か!」

「市井ではそのように呼ばれることもござる」

  

 ざわざわと騒ぎが広がる中、取り巻きズがグレンに絡んだ。

 

「貴様!殿下に無礼であろう!」

「上意である。庇い立て無用!」

「は?」

「我が神より魅了の邪法を用いる姦婦を誅せよと神託をいただき、教会を通じてラミトス家に相談申し上げたところ、国王陛下に取り次ぎ叶い、事の次第を申し上げ、いろいろあってご裁可頂けたものである。こちらが命令書になる」


 王家の印があり、誑かした姦婦と誑かされた馬鹿をぶっ飛ばしていいよ(意訳)という命令が確かに国王名で書かれていた。


「改めて、上意である。手向かい無用!」


 イフリムとアリアは座り込んで泣きじゃくっていた。

 二人が泣きながら謝っている内容を総合すると、マリーシアを嵌めて婚約破棄し、国外退去させてアリアと婚約するつもりだったらしい。

 だが、グレンがぶん殴って全て台無しになった。


「はあ。分かりました。婚約破棄、お受けしますわ」


 マリーシアの密かな数々の仕込みは無駄に終わった。

 最悪、死を偽装して隣国でひっそり暮らすことまで考えていたのだ。


「ハリハトス男爵、どこに逃げようというのかね?」


 グレンは人ごみに紛れ込んで逃げようとしていたハリハトス男爵を捕まえ、顔面がへこむほどの右正拳突きをぶち込む。


「ブプッペぽぉっ!?」

「我が神、殴打神ナグール様の広き視野から逃れること能わず!全ての罪を明らかにし、大人しく罰を受けられよ!」


 貴族達は震え上がった。

 噂は本当だった。

 使徒グレンは、神の拳で性格を変えるのだと。

 変える先はただ一つ、正直者。

 殴られては、たまらない。


「マリーシア嬢、我は是にて失礼!」

「お世話になりました」


 グレンは滑るように会場を出て行った。


 パーティー後、帰宅した自室にて。

 マリーシアは思い出し笑いがこらえられなかった。


「ブプッ…クスクス…ウフフッ」


 お付きの侍女もドン引きである。


「お嬢様…」

「だって、ねえ。殿下のあの様…まさしくザマァ!な感じで」


 侍女もこらえ切れずに吹き出す。


「ミリアだって!」

「失礼いたしました」


 主従のじゃれ合いは続く。

 この『グダグダ婚約破棄、或いはバカ王子修正事件』を期にグレンとナグール様のことが知れ渡ったのは、ある意味当然のことであろう。



どっと払い

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― 新着の感想 ―
[良い点] こぶし! 殴打からの治癒?治療?からの性格矯正! 罪を憎んで、人を憎まず。 二度と犯罪を起こさない人へとチェンジ! 最高です! [一言] とても胸がすぅっとする良いお話でした。 グレン様、…
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