第七子 洗脳
息子は……すくすくと大きくなっていった。
ギルガという男は私に似ないで酷く優秀で残酷で……この国を確かに栄えさせていった。
自国の特産品の確立から敵国への騙し打ちや税金制度の成立など、よくも悪くも彼は革新的で前衛的な政策をとっていった。
人々はそんな彼を信望するようになる。
見た目麗しく、文武両道でカリスマ性があり、まるでペテン師のように人々を魅了していく……。
そして私は……何も考えれなくなっていた。
「母上!一緒に食事をいたしましょう!」
今日も息子、ギルガはそういって私の元へと来てくれる。
随分と成長した体は私より大きくなり、オーラも凄まじいのに未だに私の所へ来てくれるのは嬉しいものだ。
「えぇ、そうね」
私は息子につれられて、一緒にテーブルについた。
柔らかくて甘いパンに新鮮でシャキシャキとした野菜、肉汁溢れる肉、暖かいスープ……仮腹時代には考えられない食事だ。
ギルガには感謝しないと。
「いただきます」
手を合わせて、私は口をあけてギルガに食べさせてもらう。
「あーん。美味しいですか?」
「えぇ、美味しいわ」
食べつつ……私はとある話題をだした。
「ねぇ、ギルガ……そろそろ正室を迎えないかしら?側室でも構わないけれど」
「はぁ?」
「それと……いくら生母とはいえ私みたいなババアがずっと傍にいるというのはダメなんじゃないかしら?だから……」
だから離れよう。
その言葉は息子の冷たい視線につき殺されて続けることが出来なかった。
「母上はそのような事は気にしなくていいのです。母上は母上らしく、僕の傍にいてくれればいいのです」
「え、ぇっと……でもねぇ」
「母上、怒りますよ?」
「ごめんなさい」
私はすぐに謝る。彼の怒りは怖い。
一度、一緒のベッドで寝るのはもうやめた方がいいのでは?と言った時に怒りを買い、足を折られたことがあった。
今度怒らせたら切断するから。と言われてからギルガの怒りを買わないようにしている。
「僕こそすみません。母上は頭が弱い部分があるからもっと分かりやすくするべきでした」
「あ……いや」
ヤバイ……コレはあれだ。
「いいですか?母上は頭が弱い上に体も弱くて何も出来ないんです。それをちゃんと自覚して下さい。僕がいないとダメなんですから……まったく、何年もいるのにまだ分からないんですか?」
「その……えと……」
「いいですが?この暮らしが出来るのは僕がいるからなんですよ?それを正室を迎えろ?何をバカなことをいってるんですか」
「バカじゃ」
「何年も何年もじっくり教えてあげているのに……どうして母上はそう頭が悪いんでしょうか?本当にその美貌を失ったら何も残りませんよ」
「えと」
「でも安心してください。僕は母上が大好きですから決して見捨てたりはしませんよ。僕だけはちゃんと母上を愛してます」
「……」
いつからだろうか……息子の言葉一つ一つを恐ろしく感じるようになったのは。
私の尊厳が一つ一つ奪われるような……いや、そりゃあ小さな村の薄汚い仮腹をしていたのだから尊厳なんて元からないに等しいが……。
この子の場合は、ないものすら奪ってくるのだ。
「ギルガ……わ、私は……」
「母上、口答えするような愚かしい人だから……ハルトが死んだのでは?」
「……っ……」
ハルト……あぁ……ハルト!!
「それとこれとは……別じゃ……」
「どう別なんですか?母上がダメで愚かでバカだったから死んだんでしょ?それを否定出来るならば、今すぐしてみてください」
「……ぁ……っ」
「はやく」
「その……」
「さあ、早く」
思考が回らない。
呂律が回らないし、心臓がいたい。判断材料がみつからないし、頭が動かない……あぉぁあ!!もう考えたくない!
「ほら、ハルトが死んだのは母上の愚かさのせいです。反論できないということはそういうことです」
「あぁ……うん」
もう……それでいい。
「しかし、僕ならば母上を導くことが出来ます」
「うん」
「母上は何も出来ないですから、本来ならば一人で歩くことも寝ることも着替えも入浴も排泄も何もかもしてはいけないんですけど……自由にしてあげてるでしょ?」
「うん」
「これは、僕が母上を愛してるからです。だから母上、分かってくれますね?頭の悪い母上でも、僕が何年も教えてあげたんだから」
「あ……うん」
「よくできました」
そういって彼は頭を撫でるが……私にはもう何も分かっていなかった。
思考が殺されているようで……死んでいるようで……もう何も考えたくなかったし、疲れていた。
もう何年も……何年も……もういやだ。
もういいや……と全ての考えを捨てようとした時……。
「ギルガ様!!」
一人の小姓が中に入ってきた。
「一体なんだというんだ?我は今、母上と時間を過ごしているのだぞ」
この世の地獄かと思うくらい冷たい声を響かせるが、小姓はそれにめげずに大声を張っていった。
「謀反です!!ゲルモが謀反を起こしました!」
その言葉で……私の死んでいた思考が生き返った気がした。
ギルガは最初は些細なことからコツコツとキヌエを洗脳していきました。