第六子 息子
母はとにかく……とにかく美しいひとであった。
物心ついた時から、僕の初恋は母でありずっと恋い焦がれていた。
「母は……なんて美しいのだろうか」
切れ長の目に赤く薄い唇、シルクのようなきめ細かい肌に漆黒の髪色は艶やかであった。
東洋の血を引き継いだ母の容姿はこの国ではかなり異質であり、歳を取らぬいつまでも子供のような姿は魔女だとさえ言われた。
「いい?アレはあくまでも腹であって母じゃあないの」
「何あの容姿……気味が悪いわ」
周りの女たちはそういった。
王妃のユリアとかいう奴も乳母も側室たちも母の悪口をいっていた。
中でも一番言われていたのが……
「何より学がないのよ」
「頭が悪いのよ」
「頭がおかしい」
母の学の無さであった。
確かに母は驚くほどに学が無かった。
食事のマナーはかなり悪く、手づかみでご飯を食べる。
綺麗な鳥がいるからと、泥だらけになって追いかけ回す。
教養がなく、簡単な計算や文字すらも読めない。
それはかなりの問題らしく、公の場では母は手降り人形化していたし、母は僕の養育が認められずに文字通りの『仮腹』として過ごしていた。
「あぁ……なんて可哀想な母上なんだ……」
僕と母上は両思いなのに……母は僕を愛してるのに……なんて可哀想なのだ。
本当ならばもっと高い位にいる筈なのに。世継ぎの母としての地位とするならばあまりにも不当だ。
父が病でほとんど寝たきりになっているせいで母を守れていない。
「僕が……僕がキチンと守ってあげますからね」
だから手始めに王妃と側室の何人かを毒で殺した。
威張り散らしても所詮は王宮の中では王と王子の命令が絶対。父はハレムを消し去りたかったみたいだから、シェフに毒を仕込ませるのは楽だった。
周りには『野菜に似た別の毒物を誤って入れた』といった。
王宮内での……しかもハレムでの殺生沙汰などよくあることなので少々騒がれただけで終わった。
しかも、適当に側室の一人を犯人にして無理矢理自害させたので事件は解決したように見せた。
「コレで母上も僕の傍にいてくれる!」
しかしながら、そうはいかなかった。
理由は母上が僕を産む前に関係を持ったゲルモとかいう奴とハルトとかいうクソガキのせいだった。
母は……あの二人を僕と父以上に愛していたのだ。
「何故だ!?どうして!!」
意味が分からなかった。
ゲルモとかいう奴は力以外何も取り柄のない、ハゲで毛深くて脂まみれで図体のデカイ豚の化物みたいな奴だ。
ハルトとかいうクソガキは豚鼻にデブで目も小さい少年だった。兄に当たると思うだけで吐き気がする。
なのに……なのに母は二人にいうのだ。
「私が愛しているのはゲルモとハルトよ」
僕に見せたことのない笑顔で……そういうのだ。
「なんで!?どうしてあいつらなんだ!?なんでよりにも」
意味が分からない意味が分からない。
僕ならば見た目は父親ゆづりの美しさといわれるし、頭もいいほうで今の年齢にして国をある程度納める権利をもっている。剣道も出来る。
何より……何より母上の自慢の息子になるために血ヘドを吐くような努力をしたのに。
これは……なぜ?
「分かった……母上はバカだから……頭が悪いから間違えたんだ」
あぁ……きとそうだ。
可哀想な母上。
きっと、最初の子を愛するべきと間違えたのですね。
頭がバカだから、一番いい選択肢が分からなかったんだ。ならば仕方がない。
それに……それに母は優しすぎるからあの哀れな姿をしたあいつらを哀れんでしまったのですね。
「大丈夫ですよ……僕が……僕がちゃんと正しい道に進ませてあげます」
まず、手始めにハルトを殺すことにした。
息子を失えば……もう僕しかむすこはいないからだ。
医者を抱き込んでヒ素の毒を使った毒殺は思いの他長期戦で、一年以上かかったが……なんとか死んでくれた。
そして母上は発狂……いや、正常になった。
「ぉぉ……お前は何処にも行かないよな?ずっと……ずっと傍にいてくれるよな!?」
泣きじゃくりながら僕にしがみつく母はとても可愛らしい。
「は、離れたらダメだぞ!?お前は私の息子なんだから!ギルガ……ギルガ……ギルガ……ァァア……」
そういって……母上はとてもとても可愛らしく泣いていた。
それからというもの、母上は俺にベッタリとひっつくようになった。
「ギルガ……どこにいくの?いかないで」
「私も一緒にいていい?」
「お願いだから目の届くところにいて」
「ギルガ……一人にしないでね」
あぁ……母上のなんと可愛らしいことよ。
孤独を恐れるがあまり、残った息子である俺に依存する姿ほ本当に可愛らしい。
本当に三十路を越えているなかと疑問に思うような子供のような態度に頭の悪い発言。
俺が成長しているのに母上は相変わらず歳をとらないから、二人でいると姉弟……いや、兄妹にみえる。
母上と一緒にいるのはとても嬉しくて幸福なことであったが……。
「あぁ……母上と結婚したい」
成長した俺はもう、息子としているだけでは我慢が出来なかった。