第四子 毒
『王妃と他側室、食中毒にて倒れた』
その知らせを受けたのは、早朝の時であった。
使者から伝えられたその知らせに、ふーん何か貝にでも当たったのか?としか思わなかったが、アレでも一応は王妃であり私の上に当たるので何か見舞いを出さなければとはおもった。
「菓子か何かでも持って……」
そう適当に側仕えに伝えようとしたとき……。
「伝令です!王妃のユリア様と側室の3人が只今死亡しました!」
一人の召使いがそう伝えに現れた。
「いや、早くないか?確か食中毒になったのは今朝だと聞いたぞ」
「どうも……かなり具合が悪くなったようです」
召使いの少年はシレッとそういってきた。
……食中毒で死亡ってそんなに早くなるものなのか?私はこの方、体が丈夫すぎて食中毒になったことはないが、村の人達が死ぬ時はもっと時間がかかっていたような……。
「母上!会いに来ました!」
扉を開けてギルガが現れた。
あいも変わらず可愛らしい笑顔でこちらへと抱きついてくる。
「えっと……ギルガ?なんで?」
なんでここにいるのだ……。
「母上に会いにきたかったので!」
「あぁ……うん、そうか」
可愛らしいことをいってはくれているが、正直鬱陶しいし早くゲルモとハルトの所へと向かいたい。
誰かどうにかしてくれと周りを見るが全員しらんぷりである。
「母上!これで母上は僕と父上のいる所へ移り住んでくれるのですね!?」
ギルガはそれはそれは美しい笑顔でそういってきた。
……一瞬、ゾッとしたのはきっと気のせいなのだろう。
「ギルガ……私の事を慕ってくれるのは嬉しいけれど、人の死を喜ぶような発言はやめなさい」
なんて、お母さんぶった言葉でギルガを諭すフリをしてはぐらかす。
「すみません……それで、移り住んでくれるのですか?」
全然ダメであった。
どうしようというのであろうか。
なんて悩んでいると……
「あと……どれだけの人が消えれば……母上は僕と一緒にいてくれるのですか?」
「なんて言い出して来たのよ」
私はゲルモの部屋にて、ハルトを膝の上に乗っけながら今日の話をした。
ハルトはすやすやと眠り、ゲルモは何処か苛立っているようだった。
「ギルガが殺したんだろ。お前と住みたいがために」
「いや、ギルガがそんなことをするはずないわ』
あの子は品行品性で母上思いの優しくて優秀な子だから。
「そう思うなら俺に聞くんじゃねぇえよ!!」
ゲルモは叫ぶようにそういってきた。
「何で怒るのよ」
「テメエが何も分かってないからだろ!?普通、別の奴の子供の話なんかするかよ!?世継ぎの母になったなら大人しく筆頭側室になっとけばいいだろうが!」
その言葉に私はムッとした。
「ギルガはただの子供だし、私はゲルモとハルトを一番愛してる!」
「こんな俺と……俺に似た子供だぞ」
「だから好きなんでしょ」
ゲルモが自分をどう思っているか知らないが、私はゲルモの全てが好きだ。
「いい?ゲルモ」
私はゲルモを抱き寄せていう。
「私は確かにギルガは愛しいし、ネテロ様も嫌いじゃない。けれどこれは子を産んだ以上はもう仕方のないことなの……情は芽生えてしまうの」
ゲルモやハルト以下とはいっても、ギルガは私の腹で育って産まれ、ネテロ様も優しく尊敬にあたいする人だ。
情が芽生えてしまうのは……もう仕方がない。
「けどね、本当に愛しているのはゲルモとハルトなの……分かってよ」
「分かったよ」
ゲルモは私の頭を撫でて抱き締めてくれた。
よかった……幸せだ。
大丈夫だ。大丈夫、この幸せはきっと続くと酔いしれていた。
しかし、運命の歯車というのは本当に早くすすむものであり。
一ヶ月のうちで側室たちが次々と死んでいき、ハレムが崩壊した。そのことに疑問をもつ暇もなく、回りは淡々となんでもないように処理をし気がつけば私だけが残った。
なんだコレと状況が可笑しいにも関わらず、何がどう可笑しいのか、そしてその証拠も原因も分からぬままに……
それはまるで蜃気楼でぼんやりと姿を隠した毒がゆっくりと浸透していくように……
ゆっくりと、じっくりと確実に蝕んでいき……。
1年の月日がたったある日……ハルトがしんだ。