プロローグ 全ての始まり
私、キヌエの職業は仮腹だった。
文字通り、仮の腹。正式な母になったことは一度もない。
そうなった原因は私が産まれたのは閉鎖的で男ばかりで若い女性が圧倒的に少ない村だったのだ。
そうなると必然的に女性は多くの子を産むことを求められるようになった。
「お前は女なのだから沢山の子を産むんだよ」
「父母のいないお前の食い扶持を養ってるんだ。いうことは聞け」
「東洋の訳のわからん血を引き継ぐお前の唯一の役目だ」
私の父は早くに死に、産んだ母は東洋の女だったらしいが死んだ。
故に女性が少ない中で……更に立場の弱い私が仮腹の役目を押し付けられたのである。
「いいか?子供を産むだけだ。母を気取ったり、妻を気取ってはいけない」
そういわれ続け、私は10の頃に処女を失って11の頃に初めて出産した。子供はすぐに取られ、孕める体と分かった途端に色んな男と交わされた。
悲しい気持ちは無かった。幼い頃からそう教育されれば、そういう価値観しか持てないからだ。
「いいか?お前の価値は子供を産むことだけだ。幸い、お前は子供が出来やすいから良かったが……」
そう、私は子供が出来やすい体質だったのだ。
全員健やかに産まれ、あるときは双子や三つ子まで産み、毎年のように年子を産み落とした。
男女会わせて18人程の子を私はこの村で産んだのである。
しかしながら、そんな無茶な妊娠と出産を繰り返したせいで24になる頃には……流石に子供は出来にくくなっていた。
「私はどうなるんだろうな……?」
子が出来ないで約2年……そろそろ子供が出来ない私を許容出来る年は過ぎているし……18人も産んだら流石に役目は終わっただろう。
それでもまぁ……こんだけ子供を産んだのだから流石にそこらへんに捨てるということはないし、仮に子が産めなくなっているのなら……性欲発散くらいの役目は持てるだろう。
「あ~……笑える」
腐った畳の上で寝転がり、自嘲とも嘲笑とも呼べない何かを笑っていると……。
「ここが仮腹のキヌエの家か?」
誰かが家に入ってきた。
また村人かと思ってた視線を向けると……全然違った。
ここの村人なんか比べ物にならない綺麗な騎士服を身に纏い、顔はこの世のものとは思えない程にゾッとする整っていた。
間違っていても、こんな汚い村の……汚い小屋にくるような人種ではない。
「えっと……私がキヌエですが何か?」
ぼんやりとした頭で答え、何のようかと聞いたが彼はそれに答えることはなく、無言で私の頬を擦った。
「……ふむ……うん」
ほこりだらけで煤こけた私の顔をこすり、少し悩むように顔を覗き込んでくる。
「顔は悪くないし……化粧をすれば更にはえるな……体は痩せてるが……まぁ、これは食べさせればいいだろう」
ブツブツと彼はそう呟き、何かを納得したように頷くと……。
「仮腹のキヌエよ……私とともに王宮に来い」