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都市童話

幸福都市ヘイパイネス

作者: 滅天使

 あるところに、ヘイパイネスという街がありました。


 ヘイパイネスはとても平和な街でした。


 人々はみな笑顔で、喧嘩することもなく、他の街とのいさかいもなく、災害や天気に困ることもなく、食事や仕事にあふれていました。


 朝起きれば、

「今日は平和な一日になりそうだ」

 と言い、昼になれば、

「今日は平和だ」

 と言い、夜寝る前には、

「今日も平和だった」

 と言うのです。


 あまりにも平和なため、人々は誰かを疑ったり貶めたりするようなことがありませんでした。


 そのために、別の街からやってくる人々に騙されてお金を奪われたり、怪我をしたり、時には命を落とすこともあります。


 それでも人々は笑っていました。


 そうして人々は平和だと言うのです。


 ある日、別の街から仕事にやってきた人が言いました。

「何故悪いことにあったり怪我をしたり死んでしまうことが平和なんだい? 痛いし苦しいしつらいでしょう?」


 人々はそれに対してみな一様にこう答えます。

「だって、お金を奪う人がいるということは、私が他人からお金持ちの幸せ者に見えていたってことでしょう? 他人から見ても幸せなのだから、私は相当の幸せものだわ」

「怪我をして痛みを感じるのは、普段の僕の体が健康体で痛い思いをしない生活が当たり前になっているからじゃないか。それはとても素敵なことじゃないか。不健康でぼろぼろの体では、きっと体がどんな危険に遭っていても気づきやしないさ」

「きっと他の街のみんなは知らないのね。死ぬって、そもそも生きていないとできないのよ。そして、生きるためにはまずこの世に生まれなければいけないの。私が生まれるためには、両親が出会って愛し合わなければいけなかった。もっと言えば、その両親が出会うためには生まれていなければいけなくて…………ほら、世界が広がって見えるでしょう? だから、死ぬことはとても素敵なことなのよ」


 それらに対して更にこう聞きました。

「不幸の裏側には確かに、そういう幸せが成り立っているからかもしれない。でも、騙されたり怪我したり、誰かが死ぬその時その瞬間は悲しいだろう」


 そう言うと、人々はまた答えました。

「我々が悲しいということは、他の誰かが幸せということです」

「不幸の裏側が幸せなら、我々がその裏側にいるのなら、表には幸せがあって、その幸せをかみしめている人たちがいるということです」


 それだけ聞くと、理解できないものが世の中にはあるんだと、その人はその場を立ち去ろうとしました。


 しかしその直後に別の誰かが続けて言いました。

「むしろ、我々が不幸になっているおかげで誰かが幸せになっているんじゃないか」

「ええ、確かにそうとも言えるわ」

「他人を幸せにできる我々は本当に幸せものだ」


 他人の幸せを自分のおかげと言い切るなんてとんでもないと、その人は思ったのでしょう。


 離れようとした踵を返して彼らに言い放ちました。

「なら、あなた達がいま幸せであるせいで、他の誰かはいまきっと不幸な目に遭っているんだろうな」


 最後にそれだけ言い残し、その人はヘイパイネスの街を離れました。


 ヘイパイネスの人々は大慌てです。


 自分たちのせいで誰かが不幸になってるかもしれないなんて、幸せな毎日を送っている彼らにとっては考えもしなかったことだったからです。


 兎にも角にも人々は考えました。


 両者が幸せになる道はないものかと。


 しかしながら、今まで幸せと不幸は表裏一体のものだと考えてきた人々にとって、それを覆すものを考えることはとても難しいことでした。


 いよいよ考えることに疲れてきた人々のうちの一人がこう言いました。

「幸せを感じるには、いま生きていなければならない。生きるためには生まれなければならない。幸せと不幸が表と裏であるように、誰かが生まれて生きて幸せになるためには我々が命を絶てばいいんじゃないだろうか」


 人々はそれが正解だと言わんばかりに、他の街から毒になる薬を買いました。




 彼らの犠牲のおかげで、幸せなるべき命が生まれたのかどうか、誰も知るすべはありませんが、少なくとも、そうだと信じて死を迎えた彼らはきっと幸せでしたでしょう。


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