私はこうして妻を殺害した
「と言う訳であなたの奥さんを殺したのは……」と、机の向うの刑事が言った。「あなただ! 」
「私にはアリバイがある」と、私。
「その件なら、あなたのお友達は先に私が説明した事をいい、“偽証すると事後共犯になる”と言ったらあなたに頼まれ偽証していた事を認めました」
私は肩をすくめた。相変わらず頼りにならない友人だ。
「でも、分からないのはあなたが三十年一緒に生活してきた奥さんを殺した動機です? 」
「三十一年九ヶ月と二日だ! 」私は刑事の誤りを訂正した。
「三十一年九ヶ月と二日、一緒に暮らしてきた奥さんを何故殺したのですか? あなた達ご夫婦は近所でも評判の仲のいい夫婦だった」
観念した私は言った。
私は高校を卒業して四十二年間、結婚してから三十一年間、私なりに一生懸命働いてきた。退職してからは妻に言われて週に一回風呂場と玄関の掃除をするようになった。それから、妻がB市に住んでいる孫娘の世話で忙しくなったので(二人目の孫ができたが母親の体調がよくなかった)、食後の食器と鍋洗い自分から言ってするようになった。家中を掃除機もかけるようになった。でも、それらは私とって苦痛ではなかった。台所のシンクに食事の後の汚れた食器がそのままになっているのが苦痛だったが、自分でするようになって長い間の苦痛がなくなった。こんな単純な解決方法があったのなら初めから自分ですればよかったと思ったくらいだ。
ここまでは良かった。でも、妻の要求は限がなかった。
私に料理をするように言い出した。「もし、私が病気になったり、死んだらあなたは何も作れない」と妻は言った。まさに“正論”だった。完璧な正論だった。で、私は時々、食事の用意をすることになった。
で、気づいた。私は料理を作るのが性に合わない!! 物凄く、それが苦痛だった。
でも、妻はそれを強制した。それどころか“時々”だったのが“一日、一回”と言い出した。
私には耐えられない苦痛だった。
で、私は三十一年九ヶ月と二日一緒に暮らしてきた、その間ずっと愛していた(決して嘘ではない)妻を殺した。
私の話を聞き終えた刑事は言った。「心配しなくいい。こらからは三食、きっちり支給される。刑務所で! 」
私は肩をすくめた。
<追伸>
また、あの刑事は誤りを言った。
私は刑務所で仲間数百人の食事をつくる羽目になったのだ……。