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連載になるかもしれない、ネタ集

連載になるかもしれない、ネタ。9

作者: 海野 真珠

 

 悪役の方が、書きやすい不思議。

 コレは続かないな、うん。




 太腿の上に散らばる金髪を梳くように頭を撫でる。

 眠ってはいないだろが、目の閉じられた顔はいつもよりも幼く見える。

 それでも十分整った顔は、万人が美形と称するだろう。

 この男の『職業』を考えれば、この顔も無駄なような気がするが。


「お姫様、オレの顔に何か付いてる?」


 じっと見つめすぎたらしい。

 視線が気になったのか、太腿を占有する男が声を上げた。


「いいえ。疲れているみたいだから、気になっただけ」


 うっすらと隈が出来ているのは本当のため、そう言いながら目の下に触れる。

 美形は、肌もキレイらしい。

 触り心地のよい肌に、遠慮なく指を這わせる。


「お姫様、誘ってる?」


 言いながら這わせていた指を取られ、口に含まれる。

 指先に舌を絡められる。

 そんな悪戯な舌に、爪を立てて。


「そんなハズないでしょ」


 悪戯するなら起きろ、と言いながら、それでも太腿を提供する。


「兄貴、何やってんの」


 戯れながらも穏やかな時間を過ごしていれば、頭上から降ってくる棘のある声。

 呆れよりも苛立ちを存分に含んだ声音に、顔を上げる。


「おかえりなさい」


 覗き込むように見下ろす、整った顔の男。

 軽く栗色に脱色した髪を短く整え、爽やかな印象の美形。

 外を歩けばそこらじゅうにポスターが貼られ、テレビをつければ必ず映る。

 モデル上がりのアイドルであるこの男は、外では軽く猫を被っている。


「ただいま。二人だけ?」


 ソファの背もたれに腰掛けて、後ろからするりと頬を撫でられる。

 くすぐるような指の動きに、こちらから擦り寄る。

 とたんに甘くなる男の顔は、決して外では見せない類のものだ。


「一兄様は緊急オペ。三兄様はコンクールですって」


 四兄様は、もう家にいる? と聞けば、返ってくるのは肯定。

 なら、今日は三人ね、と笑えば、


「兄貴、仕事いけよ」


 私ではなく、未だ太腿を占有する男に冷ややかな言葉を吐く。


「誰がオマエとお姫様を二人っきりにさせるか」


 チラリと片目だけを開いて弟を見据えるその眼光は鋭い。

 さすが本職、と変な賞賛を心の中でする。


 医者の長男(無表情イケメン)、ヤクザの次男(冷酷イケメン)、ピアニストの三男(甘いイケメン)、アイドルの四男(爽やかイケメン)。

 タイプの違う美形兄弟と、末っ子の私。

 でも、私と彼らの間に血の繋がりは無い。


 母子家庭で育った私。

 女手一つで私を育てていた母が事故死したのが、私が小学校を卒業する前の事。

 親戚付き合いの無かった母だったため、病院から連絡を受けた私は途方に暮れた。

 そんな時、駆けつけてくれたのが四兄弟の母親だ。

 四兄弟の母親と、私の母親は幼馴染だったという。

 自分に何かあったら、と、母は生前にお願いしていたらしい。

 葬儀から私の後見まで引き受けてくれた。

 ヤクザの家の養子など私の経歴の傷になると籍には入っていないが、夫婦揃って娘が欲しかったと言いながら、とても可愛がってくれている。

 四人の兄たちも、溺愛と言って良いほど可愛がってくれる。

 今住んでいるマンションも、兄たちが協議して私のために用意した部屋だ。

 最上階のワンフロアぶち抜きの、だだっ広い部屋。

 ココに、みんなで暮らしている。


 こんな、どこぞの少女漫画みたいな環境だが、ココは少女漫画の世界では無い。

 女性向け恋愛シュミレーションゲーム、俗称『乙女ゲーム』と呼ばれる世界である。


 攻略対象は美形四兄弟。

 誰を選んでも甘い言葉を囁かれ、これでもかというほどに愛される。

 恋愛漫画も真っ青なほどに甘やかされ、愛され、幸せにしてくれるのだが。


 ただ、この兄弟。

 みんな、病んでいる。


 愛情を惜しげも無く与えてはくれるが、病んでいる。

 でろでろに甘やかしてくれるが、病んでいる。

 浮気もしないし、ヒロインだけを一途に思ってくれるが、病んでいる。


 長男は、どこにも行くなと監禁する。

 次男は、全てを与えてやると支配する。

 三男は、近くに居てくれと束縛する。

 四男は、全てを叶えてやると服従する。


 何だ、この程度か、などと思ってはいけない。

 長男は、籠を用意する。

 次男は、衣食住の全てを支配する。

 三男は、手の届く距離に束縛する。

 四男は、自分だけにと服従する。

 共通事項は、『他者排除』。

 オマエさえ居ればいい、が合言葉だ。


 そんな危ない男たちの愛を一身に受けるこのゲーム。

 なんと、攻略対象にライバルキャラが存在しない。

 その代わり、お邪魔虫キャラが存在する。


 ヒロインを、誘惑する形で。



 長男を攻略しようとすれば、長男の先輩医師が誘惑する。

 次男を攻略しようとしれば、敵対する組の若頭に求愛される。

 三男を攻略しようとすれば、マネージャーが横恋慕してくる。

 四男を攻略しようとすれば、カメラマンが愛を囁く。


 うっかり受け入れるような選択肢を一度でも選んでしまえば、ヤンデレ一直線だ。

 何が怖いって、お邪魔虫キャラも漏れなく病んでいるところだろう。

 ストーカーが可愛く見えるほどに病んでいる。

 こっちの共通事項も、『他者排除』である。



 そんなゲームの世界に、私は『ヒロイン』として存在している。




「二兄様、四兄様。食事にしましょう?」


 太腿に頭を預け腰に抱き付く二兄様の頭を撫で、後ろから首筋に顔を埋める四兄様の耳をくすぐる。

 私の言葉には素直従うため、すぐに拘束は解かれた。


「お姫様、今日は何?」


 立ち上がると同時に四兄様に抱き上げられ、キッチンに連れて行かれる。

 対面式のソコは、私の希望通りの造り。


「今日は、和食なの」


 炊き込みご飯に、茶碗蒸し、ほうれん草の御浸しに、胡瓜の酢の物、お吸い物。

 軽めの内容だが、量はあるため問題ないだろう。

 他人の手料理は口に出来ないため、私は基本的に外食をしない。


「うまそう」


 温めなおした料理を配膳し、定位置に腰を下ろす。

 いただきます、と唱和して箸を付ける。

 うん、良い出来。




 この世界がゲームの世界に酷似していると気づいたのは、母が亡くなったとの知らせを受けた時だった。

 授業中に受けたその知らせに、記憶がフラッシュバックした。

 100%奪略系とか、ライバルキャラがいないとか、SFホラーとか、一風変わったシナリオで人気だった製作会社の絵師だった従姉妹。

 その従姉妹がイラストを担当したゲームをプレイテストしていた私。

 そこまで思い出せば、後は芋づる式に記憶が溢れた。

 今の私は、ゲームのヒロインである、と。

 従姉妹が描いたキャラクターが、そのまま現実世界に存在しているという違和感。

 自分も、そのなかの一人であるという事実に、眩暈がした。

 だが、ソレはまぎれもない事実で現実で。

 義母の姿を確認した瞬間に、色々と諦めた。


 ゲームの開始は、ヒロインが高校に上がる時。

 今までは義父母の本宅で暮らしていたヒロインが、一人暮らしをするところから始まる。

 高校から程近いデザイナーズマンションでの一人暮らし。

 生活費は全て義父母が払っているが、お小遣いぐらいは自分で稼ごうとアルバイトを始めるヒロイン。

 このバイトの選択で攻略対象との好感度の上がり方が変わる。

 ついでに、お邪魔虫キャラとの好感度も変わってくる。



「お姫様、明日の入学式は一緒に行こう」


 車を用意する、という四兄様。


「あ? お姫様はオレとだよ」


 オマエも学生だろうが、と言う二兄様。

 食後の珈琲を淹れて席に戻れば、何故かそんな言い合いが始まった。


「明日は、一兄様が保護者だと言っていたわ」


 日付が変わる前に戻ってくる、と言って出て行った一兄様の言葉を伝えれば。


「「あぁ?」」


 声を揃えて不満を表す二人。

 揃った声に、互いを嫌そうに見るのまで同じで笑ってしまう。



 本来ならば今から始まるこのゲーム。

 それを『私』は、書き換えた。

 ココは私の生きる現実世界。

 関わる相手が『キャラクター』でも、私はココで生きている。

 システムもシナリオも関係無い世界なら、私は自由を手に入れる。


 他者排除を望むヤンデレの攻略法方は、意外と簡単で。

 初めから『他者』を排除して、『身内』の認識を作ればいい。

 私と自分以外は必要ない、のではなく、私と身内以外は必要ない、に変えればいい。

 私が望む者を『身内』と認識できるように、私が彼らを誘導する。

 ほんの子供の頃からソウなるように立ち回り、今では、私は彼ら全員の『お姫様』だ。

 甘やかされて愛されて、私以外を見る事もしない兄様たち。

 愛されたい私と、愛したい彼らの望みは完全に一致して。

 こうして在ることが至高の幸せだ。


「みんなで、きてくれたら嬉しいわ」


 お願い、と微笑んで。

 私はこの世界で愛される。






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