騎士すげぇ!手にしてるのが乙だけど ★
うにゃらぁ~~~♪
「それ、1,2,3」
毎度恒例のラジオ体操の時間でございます。
「いやぁ清々しくっていいやねぇ!」
隣で体操していた不景気面のアルバートをよそに、私は今日も元気ハツラツ。
昨晩はあの勢いのまま、奴隷の焼印もすっかり消してしまった。あれも「火傷のひとつだしぃ~~」と試してみたら案の定ってやつだ。
「これで奴隷じゃなくなったね」
些か反則的だが、結果オーライということで。
しかしアルバートはそれを絶対に認めない。断固として「俺はセルシオの奴隷だ」と言い張る。まぁどっちでもいいよ。
その代わり毎晩繰り広げた呪いの儀式は終了を告げることに。
怪我もなければ枯葉の寝床で十分だと言うアルバートに、私は静かに悲しそうな眼を送る。
冷たいよアル。
そんなに嫌だったんだ、アル。
・・・酷いよ、アル・・。
目は口ほどに物語る心情。ついでに耳も尻尾もしょんぼり。
すると軽く首を振り、アルバートが溜息とともに「・・一緒に寝るか・・」と告げた。
呪いの儀式はこれで終わった。
譲歩してくれたアルバートのおかげで今朝もすっきりと目覚めた次第。その分何やら疲れた様子のアルバートは、この際横に置いておこう。
「ご飯食べたら剣買いに行こうね!」
「わかった」
「ついでに短剣も買う?」
顔を洗い朝食の支度を始めたアルバートの背中越しに尋ねてみる。
毎朝私のところから短剣を借りてひげそりしているからね。いちいち「貸してほしい」と頼むのも、面倒じゃないのかなぁと思ったし。
「セルシオの短剣は切れ味いいからなぁ。見た目は趣味悪いが。まぁどっちでもいい」
やっぱ言われたよ。悪趣味、だよね。
「あったら便利じゃない?」
あまり気乗りしてないアルバートに「さばく用にも、もう1つあると便利だよ」と念を押すと「そうだな」と軽く頷く。
では、買い物メモ。剣と短剣。
「ああ・・。それと。盾があれがほしいのだが」
振り向いて珍しく要望を口にする。
剣に短剣に、追加、盾。
お金足りるかなぁ?一応確認しようと、懐の財布を取り出す。
ジャラジャラ・・。
「ん~~ん」
お金はまったくと言っていいほど使っていなかったのでかなり残ってはいる。ビバ!物々交換!
それでも剣は普通よりもかなり高い。はっきり言って獣人の主力人気商品だ。いきなり「100金」とか言われたら無理すぎて涙目だろう。
だが、そこは物々交換だ。
「今日鹿もどき1頭狩りして持っていきたいけどいいかなぁ」
「あれはクーリィというんだ。・・そうしよう」
それを丸ごと交換でたぶんいけるはず。獣人の誰もが大好物だからだ。
あっと。あれはクーリィという動物なのか。さすが物知り。
(クーリィ、クーリィと)
ところで。
「ご飯まだ?」
このところすっかり料理しなくなった自堕落な私である。
「少し待っててくれ」
うん、いくらでも待てるよ、アルバート。
それにしてもアルバートはその容姿に似合わずお料理上手だ!騎士でありながらまさに宮廷料理人に匹敵するぐらい料理上手だ!さすができる男は一味違う!
私だってな、調理器具が揃ってて味噌と醤油、出し粉さえあれば極上のものは作れるんだ!悔しすぎるぞ!この!この!
「・・セルシオが下手すぎるだけだ」
「な?テレパシーまで使えるのか?!」
マジ勘弁。 驚く私に苦笑を浮かべるアルバート。
「テレ何とかは知らんが。さっきから口に出してるぞ」
・・・あらぁ?!
ようやく自分探しの旅に出られるかも知れない興奮で、妙なテンションのスイッチ入っちゃってましたか。
買い物する前に狩りに行こう!
初めてですよ、二人で狩りとか。これで何が起こっても大丈夫!
ところでアルバート。いくら剣がないとはいえ、なんでそのウルグの木(仮:剣)持ってくるのだ?
まさかそれを剣代わりにする気?
まぁ素手や短剣よりはましだろうけど・・。
とりあえずこの辺は巨体狼もどきが時々出没するから要注意だ。前にそれに囲まれて逃げるのに苦労したんだよね。でかい、怖い、数多い。
「お・・クーリィ発見」
岩肌の上でどこか遠くを見ている大型のクーリィを見つけ、背中の弓を取り出し、すでに狙いをつけて構えていると、アルバートが「待て」と私を押し止どめた。
「?」
「ガドーがいる」
目の前のクーリィはしきりに周りを見回し大きな耳をせわしなく動かしている。
ところでガドーって何?知らないよ?
顔に大きく「?」でも書いてあったのだろうか。身を低くしてアルバートは草を分け、視界が少し開けた先を顎で指した。
例の大きな狼もどきが数匹、やはりクーリィを狙っているような動きを見せている。多分その気配を感じてか、クーリィはしきりに足を動かし辺りを警戒していた。
「あれがガドーっていうの?」
声を押えてすぐ隣にいるアルバートに尋ねると微かに頷き「面倒だな」と呟いた。
「諦めようか?」
今までで一番大きな獲物だけど、危険を冒してまでほしいわけじゃない。
「クーリィまでの距離。届くか?」
ざっと50メートルか。
「うん、大丈夫だと思う」
二人で草むらに隠れてこそこそ打ち合わせをする。風下だからクーリィもガドーもこちらを気づいていない。
「じゃぁ行く」
「ガドーは任せろ」
アルバート。言ってることはかっこいいけどウルグの木だよ?それ剣じゃないから。そんなので本当に大丈夫なのか?まぁいいか、考えても仕方がない。
その言葉を信じよう。
私は弓を構えて、一呼吸の後矢をイメージしながら弦を引く。光の粒子が集束し、矢の完成とともに一気に打ち放った。
ビィン
弦の小気味いい音と共に、前方50メートルほどのクーリィの頭を吹き飛ばした。と同時にガドーの数匹がこちらに気づいて振り向きざまに向かってくる。
恐怖で顔が引きつる。絶対私より一回り大きい!
思わずしゃがみこんで身をすくめてしまった。
ブンという風圧、ガシュッと重いものがぶち当たる音と同時にギャンというガドーの悲鳴が上がった。ほんの一瞬の出来事。
「?」
アルバートが私をかばって例のウルグの木(仮:剣)であの巨大狼もどきガドーを一振りで倒してしまったのだ。強烈なフルスイング。
ホームラン王も夢じゃないぞアル!
「す・・すご・・」
感嘆している私の頭を小突いて「次、来る」とすぐさま構える。
騎士というのはどんな武器(へんてこな球根付きの木だけど)でも、構えも振り回す姿もさすがに決まっている。う~~ん、かっこいいね。その背中踏み倒したくなるけど。(嫉妬ですよ分かってますよ)
向かってくるガドーをドッカンドッカンと派手にぶっ飛ばしている。だが決定打を浴びせられず、すぐさま立ち上がっては襲いかかるガドーとの攻防戦が繰り広げられていた。
私も加勢して1匹倒したその時、ちらっとアルバートがこっちを見た。
思わず反射的に腰の短剣を引き抜くと、構わずアルバートに投げる。間違ってアルバートに刺さったらどうするんだよ!と独りツッコミを入れたくなる無謀な行為だったが、アルバートは飛んできた短剣をすんなり受け取る。
そしてウルグを盾代わりに使って、飛びかかってきたガドーの懐に潜り込むと刹那、その腹を短剣で引き裂いた。
うへ~~。。。
こっちに転がってきたガドーの腹から内臓物が飛び出しているんですけど!(涙目)
しかも息も絶え絶えながら私を睨むその目が怖い!
ひぃぃ・・。
思わず激しい吐き気に襲われた。
修羅だ!アルは鬼だ!うへぇ~~・・
「・・終わったぞ」
涙ぼろぼろの私は口を押えたまま、アルバートを仰ぎ見る。
いや~すごいわ。7匹のうち1匹は倒したけど、残り全部一人で倒しちゃったんだね。凄い、凄すぎる。
達成感からか頬のほんのり紅潮させ肩で軽く息をし、倒したガドーの群れを見下ろしているアルバートに称賛を贈ろう。ぼろは着ててもさすが騎士だ!
・・内臓ドバァーさえなかったら、更に嬉しさは増すんだけどね。
「それにしても」
私の手を取り立ち上がらせながら「よく分かったな」と言って血に濡れた短剣を返してくる。
「・・感、かな」
「助かったよ」
アルバートは破顔した。
はい、素晴らしい笑顔をありがとう。吊り橋効果というんだっけか?相手が女性だったらナンパ率100%だったろうにね~。私には効果がなくって残念だ。
「っていうか、さばかないの?」
「血を流しすぎた。他の獣が集まってくるぞ」
なるほど。
と、言うわけで。二人で岩肌がむきだした山の斜面を登り、倒したクーリィを担いで村に行くこととなった。
この重さじゃ私一人では担げないしね。アルバートが元気になってくれて本当に良かった良かった。
・・・・でも・・重い。
重すぎるぞぉ、これ!
誤字脱字、変な文章等ございましたら、お願いします^^;