アルの観察日記 ところで治癒魔法ってチートなの?
少し生活環境が変わった。
昔は森で果実収集+狩り、その足で村に直行。日に何度も往復していたが今は余り村に行くこともなくなった。
アルバートのおかげで獲物の解体が住処で行えるようになったのが大きい。後、変転による狐四足歩行で山での狩りが簡単に出来るようになったことだろう。
食糧確保もスムーズで毎日狩りをしなければ困るということもなくなり、休みなく動いていた私にもようやく「休暇」が取れるようになったのだ。
そこで。
毎日私がいない間、日中アルバートがどんなふうに過ごしているのか、心の中で観察日記をつけようかと思い立つ。
傷口は順調に回復してきていて、最近では新たな肉も盛り上がり薄い皮がしっかりそれを覆っている。薬の効果か温泉の賜物か、はたまた本人の高い自然癒治力のせいか。
しかしね。ここん所毎日、小さな擦り傷とか作ってくるんだよ。
もちろん大怪我とかじゃないんだけど。
なのでここはきちんと行動チェックをすべきだと思った訳だ。
朝。
たぶん6時前後。
私とアルバートは並んで、いつもの日課のラジオ体操をする。
最初は「なんだそれは?!」と怪訝そうに見ていたアルバートだったが、音痴でうにゃららら~~♪と誤魔化す私の歌に合わせて体操をするようになっていた。
しかも今ではすっかり「これをやらないと頭がすっきりしない」とアルバートに言われるほど定着している。
それから顔を洗って朝ごはん。支度と食事タイム合わせて、まぁ1時間ほどではないかと思う。
その後のアルバートの行動。
盥も持って沢で洗濯をし、絞った衣服をその辺の枝に引っ掛けて、終了。
そのままの足で森の中に入り木登りを始め、果実や卵を取ってくる。
いつもの擦り傷はどうやらこの木登りにあるらしい。なるほどなるほど。意外に
不器用なのかな?
お昼前に戻ってご飯の支度を始めたが、隙間隙間で腹筋を始めた。
私が知っている(?)普通の腹筋より難易度高そうな腹筋である。なんというか、フィットネスとか軍隊とか?さすが騎士様である。
「用意出来ましたよ」と呼ばれてご飯にする。
もぐもぐ・・。
食べ終えたら食器を洗いに沢に行き、そのあとまたぞろアルバートは運動を始めた。
もしかして騎士って奴は、身体動かしてないと死んじゃうような呪いでもかかっているのかしら?
横に座って黙って見ていると「面白くないですよ」と苦笑いを浮かべていたが、いやいやどうして。全然面白いよ。うん。
何かの武術のような?あ、体術か。そんな感じ。
動きが洗練されてて綺麗で驚く。ただ時々足元がふらつくのはご愛嬌ってやつだね。
それも数回続けてやると、またおもむろに森の中へ。
う~~ん。後をつけていったらさすがに嫌そうな顔をするよね?
ん????
何か変な植物抱えて戻ってきた。
「これはウルグの木という。堅くて重いので役に立つ」
何に役に立つのかと思えば剣の練習にだそうな。しかし奇怪な姿をした木だよね。
根っこは大きな丸い球根のようで、まっすぐ伸びた木は先に行くほど細くなり、先端に大きな葉が2枚付いているが、そこを切り取って使うのだという。
切り取るのに私から短刀を借りていった。面白いのでじっとその作業を観察していると、やっぱりアルバートは困った顔して「落ち着かない」とぶつぶつ言っていた。
へへへ。私は面白いぞぉ~
なんかすぐ出来ちゃったようで。
それを正眼の構えで持ち上げ、ブンと勢いよく振り下ろす。
おお・・。さすが騎士様だ!めちゃくちゃかっこいいではないか。
でも3回振ったらたたらを踏んで、前につんのめった。
・・ごめん・・吹いちゃった
「これは重いんだ」
気恥ずかしそうに言うアルバート。そんなに必死に言い訳しなくてもいいのに。
初めて出会った頃に比べてあばらの浮きがなくなり、随分しっかりした身体に戻っていた。それでも本人曰く『身体能力の低下は思った以上深刻』なんだそうな。
特に利き手の右腕。ざっくり切られた上に化膿までしたせいで失った筋肉はなかなか元には戻らないらしい。怪我の程度に因っては騎士を引退する人もいるんだとか。
「私も持ってみていい?」
「どうぞ」
渡されて、がくっと落としそうになった。
「何これ。30キロ以上あるんじゃ?ありえないし」
というか。こんな物振りまわす意味でもあるのか?剣ってそんなに重くないはずだろぉ?え?違うの?
「剣自体はこれの半分以下の重さだが、戦場で数時間振りまわせるだけの体力がないと死にますからね」
騎士って想像以上に過酷だ。
「鎧とか装備の重さだけでも30キロあったりするし」
へぇ~~~~
「足の筋力低下は何とか戻せると思うが・・。腕は元のようにはならないだろうな」
仮に戻せるとしても相当な時間を覚悟しなくてはならないと言う。
「王都フォルスレーゼには治癒魔法の大魔導師がいたが。あの方なら完全に治せるかも知れないが」
「そんな人いるんだ?」
「生死は不明だし、あわよくば生きておられても。凄い守銭奴らしくってね。地方貴族の三男坊ではとてもじゃないが払えない。まして今や奴隷の身だ」
「どうやってやるんだろ~?」
ウグルの木をアルバートに返しながら、ふと、訊いてみた。
「詳しくは知らないが、傷に手を当てるだけだと聞いたぞ」
「こんな感じかなぁ」
面白半分遊ぶ半分の軽い気持ちでアルバートの腕に手をかざす。
治れ~~治れ~~
発端はどうであれ、十分気持ちを込めて念じてみると体中が熱を帯び始めた。
すると両手に向かって熱が流れ出し、魔法の矢を作る時のような光の粒子がぐんぐんとアルバートの傷口に集まりだす。
そしてひときわ輝きを増した後、何事もなかったように光は一瞬で終息した。
「・・・あれ?」
「・・・」
えっと・・。
腕の傷がきれいさっぱり消えちゃってますが?!
その時のアルバートの、脱力し切った様子。一言では語れません。
というか。私だってへこんでるんだぞ!
嬉しいけど、嬉しいけど・・。
「私の使った薬代どうしてくれるんだよぉ!」
それより看病疲れで倒れそうになったあの苦労の一週間もついでに返せ、コンニャロ
アルバートの観察日記は思わぬところで頓挫してしまったが、これで一気に旅に出るメドがついてしまった。
orzを地で行っているアルバートの肩を叩いて「剣見に行こうか?」と話しかけたけど、結局夕飯まで洞窟の片隅でじっとひざを抱えている姿があった。
「・・・」
まいったねこりゃ。思わず耳の後ろ、ポリポリ・・
なんか変なのでてきたぞ。
ウグルの木(仮:剣)
鉄のように硬く重たい木。
通常の形状は根が球体、枝分かれのないまっすぐ伸びた木で、先端に向かうほど細くなっていく。葉は50センチはあろうかという2枚のみ。
成長すれば3メートルは越えるものも。
切って少し手を加えるだけで、鉄球付きの棍棒のような形になる。
かなり重いので扱いには要注意。長さは自分の好みである程度調整できる。