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まどろむ大地 -夢追狐ー  作者: ましまろ
旅に出よう
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いいもの見つけた!ここ掘れワンワン え?何?狐じゃん

 アルバートの容態は日に日に良くなっていった。

 驚いたことに、意識が戻ったあれから3日も経たずに起き上がり、薪を拾ってきたり洗い物したりと精力的に動き出す。別にこちらから頼んでいないのに率先して仕事を見つけようとする辺り、どんだけ苦労性なんだ、騎士ってやつは!

 まぁたいしてやることもないんだけどね。

 それにまだ身体は細く、失った筋肉すら戻っていない。

 時折痛む傷に顔をしかめながら、自分の手足をさすり、状態を確かめては険しい表情を浮かべている。

「申し訳ないセルシオ。まだ何の役にも立てそうにない」

「薪集めて火をくべてくれるだけでもありがたいって。っていうか、アルってば魔法使えるんだ?!」

 夕飯の支度にとりかかっている。

「まあ、この程度なら」

 人は持つ魔力にかなりの個人差があるらしい。そこは獣人も同じだが、総じて獣人の魔力は低い。

「もう病人食はいいよね?そろそろお肉が恋しくなったし、これ村でさばいてもらってきたんだ」

 焼き肉だ!

「セルシオは肉をさばきに態々村まで行くのか?」

 はい、白状します。笑われるのはもう慣れたからね。

「さばけないんだよ、内臓ドバーっとか。絶対無理」

 アルバートの腕の傷の洗い出しさえ、死ぬほど辛かったのだ。

 大げさにジェスチャー交えて告白すると、やはりアルバートは腹を抱えて笑いだす。期待通りの反応ありがとう。血抜きぐらいならできるんですよ?悪いか!

「狐の、狩人・・が・・解体もできない・とは」

 そこまで苦しそうに笑わなくてもいいじゃん。

「アルはできるのかよ?」

 鍋の中の野菜のスープがコトコト言い始め、如何にも夕餉らしい香りが洞窟内に充満する。

「できる」

「近衛騎士なのに?」

 一応笑いは収まったらしい。アルバートは少し遠い目をする。

「士官学校時代は野外訓練も数多くこなす。食材はほとんど現地調達だから嫌でも覚えるのだよ」

「へぇ~~。王様とかも子供のころは士官学校行ったりするわけ?」

「ああ」

「じゃぁ王様も獣さばけたりするのか!」

 まずい、自分どんだけへたれやねん!(つい関西弁

「いや。それはさすがにないな」と笑いだす。「きっと回りの者がさせないだろうさ」と言われ、そりゃそうかと納得した。



 さて、ついに来ました。今夜も熱いバトルのゴングが鳴り響く!

「だ~~かぁ~ら!ベットに寝ればいいんだよ!ちょっと狭いけど!」

「いや、俺がそっちに寝れば」

「怪我人を地べたに寝かせるわけにはいかんでしょ!って毎回同じこと言わすな!でもって私も地べたに寝たくないから、だから一緒に寝るって。そんだけのことじゃん」

 寝床の枯葉はとりあえずどこからでも拾ってこれるのだが、問題はシーツである。露店ではなかなか売っていない入手困難な高級品だ。

 枯葉だけでもいいが、寝起きは全身枯葉だらけ。これが気持ち悪いしうっとおしい。

 しかも残念ながら我が家にはベットと呼べるものは一つしかなかった。

「枯葉の寝床でも俺は構わないが・・」

 アルバートは食い下がる。だが私は認めない。

「傷口ふさがってもいないのに、枯葉まとったらバイキン入ってまた化膿するに決まってる!そんなことは許さんぞぉ!」

 あの苦労をもう一回経験なんかしたくない!そこは譲歩出来ないので睨み返すと、アルバートは溜息をついた。

「どこの世界に主と奴隷が一緒に・・。ああ、なんだ。犯したいのであれば好きにしろ」

 なんでそこに行くんだ!

「言っとくけどね、獣人には発情期というものがあるんだよ!(リア談)万年発情期の人と一緒にすんな!」

 叫んでから、自分でそこじゃないだろ!とツッコミたくなった。雄同士で何させる気なんだよ。しかもビジュアル的には逆じゃね?い・・そこも違うか!

「まさか!アルはそっち系の人だったとか!?」

「断じて違う!が、望まれたら答えないわけにはいかないだろうが!俺は奴隷なんだぞ!」

 顔を真っ赤にして憤るアルバートに、思わず疑いの白い目で見てしまう。



「じゃぁ・・寝よか」

「分かった・・やむ負えない」

 これはもう一種の呪いの儀式?

いいけどね・・。

 毎回精神的にも疲れるので、すぐ寝れるからさ。


 アルバートの傷に触れないように、そしてベットからはみ出さないよう、細心の注意を払って横になった。




 うにゃららぁ~うにゃら~♪

「それ、1,2,3!」

 今日も今日とて一人ラジオ体操続行中。

 歌詞は知らないがメロディは頭の中に流れている。そして動かす身体もなぜかそれを覚えている。問題はそこに記憶がないことだ。

 いつどこでそれを聞いたのか、知ったのか、やっていたのかなど、さらさら分からない。

 どうでもいいが自分が狐であることさえ知らなかったのだから、気にしない方向で!といっても色々障害はついて回る。

   

 毎朝眼が覚めるとアルバートにしがみついている。そのせいでいろんな誤解が付きまとって、呪いの儀式になるわけだが。

 やましいことは一切ないからね!

 きっとママが恋しいんだ!・・・記憶のどこにも存在しないママだけど。

「さて。狩りの時間だ」

 サクッと朝ごはんを済ませ、私は森に突入する。アルバートは今しばらくお留守番だ。

「今日はもう少し北側に回り込んでみるかなぁ」

 近辺の果実はほとんどなくなり、獲物の数も激減した。もっと山の奥のほうまで足を延ばさなくてはならなくなってしまったのだ。



 さすがに遠くに来たものだ。

 万能マントにはすでに果実がぎっしり詰め込まれている。これは食用にもなる上、換金もできれば物々交換にも使える、まさに万能『金のなる実』。マント同様役に立ちまくってくださる、ありがたぁ~い一品(品種はばらばらだけど)

 さて帰ろうかなぁと思ったその時、思わず足を止めた。

「クンクン」

 鋭い嗅覚が、風に乗って微かな硫黄の臭いを捉える。

(これはもしかして!)

 帰るのを急きょ取り止め、取り合えずその臭いの後を追っていくことにした。

 洞窟のある山のさらに奥の後ろの山の中。

 臭いはどんどんきつくなり近づいてきたと確信するが、ただ、あまりにも悪路なのだ。気分は登山に近い。

「うわぁ~・・ちょっとこれ、やばくね?」

 道どころか足の踏み場も怪しい崖っぷち。と、左足を置いた石がぐらついて、一瞬で滑り落ちた。

 ひぃ~~!

 死の恐怖が一気に襲いかかり、頭の中で黄色点滅。

≪・・・変転せよ・・・≫

「変転?」

 その刹那、身体と精神がぐるりと回転する感じがした。

「うぉ???」

 なんと自分は四足で、崖を飛ぶように跳ね上がっていたのだ。

はぁはぁ・・。

 荒い息とともに、崖を見下ろす。

 みればあっちこっちに自分の服やら靴やら弓やら、果実をつつんだ万能マントに至るまで落ちていた。

「え~っと・・」

 獣人である私が本物のケモノになっただけということなんでしょうか?

「・・そういう事もありなんだ?」

 獣人というか狐族の神秘について全く分からないので、疑問符の答えは存在しない。

「とりあえず、だなぁ。拾ってこないと」

 そして華麗に駆け下るのでありました。


 この姿だと危険な崖も楽々移動。

 四足の安定度、万歳!

 更に嗅覚その他もろもろ。かなりスキルアップするようだ。さすが本家の獣、面目躍如といったところか。

 自分の服やあれこれ一式を口にくわえて目的地まで来てみた。

 そこはまさに地獄谷。硫黄の臭いに咽ながら、源泉の湧きと川のちょうどいいところがないかと調べて回る。

「ここ理想的じゃん」

 端のほうで一か所かなりいい場所を見つけた。ポコポコと湧き上がる源泉のそばに、川。多少流れ込んでいるお湯のせいか、川底はレモンイエローに染まり何やらテカテカしているが、水といってもいいくらいの温度だ。

 ここ掘れワンワン!

 四足最強伝説第二弾かも?!

 川縁の尖った堆積物を、人の手で掘り起こすのは無謀で時間がかかりそうだが、狐の前足は器用にざっくり掘り掘り出来てしまう。更に後ろ足で土を外に掻き出せる、まるで高速シャベルカー。

 僅か数十分で、望み通りの穴が完成した。

 だがここからは無理だろうなぁ。

「・・変転?」

 自信無げに口にすると、ぐるりと視界が回って、人の姿に戻っていた。

「うー、素っ裸だよ」

 脇に置いてあった服を身につけると、大きめの石を運んであ掘った穴を整える作業を開始した。

「こっちから掘っていって・・」

 川から水を引き込む溝を入れ、反対側から源泉を引き込む溝を掘っていく。温度調整にかなりの時間を要したが、苦労の末、何とか完成に至った。

「源泉掛け流し露天風呂、完成!」

 何か頭の中でビフォー○フターのBGMが流れているような?

 気にしない気にしない。

 さて。服を脱いできちんとたたむと、万能マントを広げ果実の上に置き、また包み直した。

 今度こそ自信を持って言おう。

「変転」

 綺麗な夕日を背負い、私は猛ダッシュで帰路につく。

 だってお腹がすいたんだぉ~~・・



 陽が沈む前に何とか洞窟の入り口まで戻ってこれた。

 すでにアルバートが夕餉の支度をしているようで、さすが苦労人!と感心したり。

 とりあえず、その背中に「ただいま」と声をかけるとアルバートは私を見てよほど驚いたのか、手にした木製のお玉を構えて臨戦態勢に入っていた。

 さすが騎士様だ、その反応速度、パネェーーー!

「私だよ、アル」

「・・・!」

 そんなに睨むな。っていうか。あれ?私より頭一つ分背が高いはずのアルバートの目線位置が同じなんですけど?

 しかし。お玉って。どんだけ動揺してるんだよ。怖いことにサマになってますけどね。

「セルシオだって」

「あ・・ありえんだろう」

 理解を深めようと「変転」とつぶやいて人の姿に戻す。まぁ、素っ裸になるんだけど。

「・・・」

 おもむろにマントを広げ、転がり出た果実をよそに上に載っている衣服をさっさと着こんだ。

「夕飯の準備ありがとね~」

 茫然自失状態のアルバートに感謝を告げると「ああ・・」という返事がきたから、まぁきっと大丈夫だ。


 気持ちは判るけど。とりあえずそのお玉、必要なのでください。


 さぁご飯の時間だ。


だんだん疲れてきたんですけど・・。

 誤字脱字変換ミス等、もうすでに標準仕様。。。気になった方はお知らせくださるとありがたいです><。

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