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まどろむ大地 -夢追狐ー  作者: ましまろ
旅に出よう
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こんな酷い怪我は病院に、が普通だろ ★

「セル!なんだって奴隷なんか買ったんだよ?」

 避難していたリウが、まともに歩けない奴隷をつれてきた私を見つけ駆け寄って来た。

「ほら弓だろ?だから前衛か囮がほしくって」

「したって、どう見ても今日明日死にそうな・・はっきり言ってゴミじゃないか」

 まぁ確かに死にそうだよな。

「でもほら。果実一個分の価格だったし」

 そういう問題ではない気もするが、リアは眉をひそめたまま「そういうもんかね~」と呟いた。

 何とか、男をそのまま裏手の川まで引き連れ、マント兼万能袋の中から先ほどついでに買った石鹸を取り出す。

 石鹸は高価な贅沢品だ。なかなか入荷しないので、露店で見つけた時は歓喜してしまった。

「これで体を洗えって。臭すぎてこっちにまで匂いが移りそうだから」

 そういいながら手に持たせるが力なく落とすのを見て、溜息つきながら拾った。

 気力がないのか、それとも力がなくなってるのか。

「リア。頼みがあるんだけど」

 後ろで困った顔をしているリアに振りかえってお願いする。が「まさかそいつを洗うの手伝えっていうんじゃないよね?」と怪訝そうに言われた。

「違うよ、こいつに見合った服買ってきてほしいんだよ」

 リアにお金を手渡すと「といってもなぁ」といかにも嫌そうに顔をしかめながら

「適当でいいんだよね?」と念を押してきた。

「服の上下に靴もあれば、お願い」

 人の町を襲った時の戦利品があちこちに流れて売っている。比較的小柄な犬猫鼠族がたまに買うらしい。それなりに需要はあるし、今日はお祭り気分で露店も多い。ただサイズが分かりにくいかもしれない。

「まぁ買ってくるわ」

 どんなに不機嫌そうでも頼みをきちんと聞いてくれる、リアは貴重な友人だろう。

 リアがひとしきり自分の身長と比べて、それから走りだした。

 私は男を川の中に座らせ身体を洗いだす。

 問題の右腕の大きな傷口にはびこるウジを押し出すのが容易ではなく、男もそのたびに噛みしめた口から唸り声を上げている。

 ただ鳴きわめいたりしない分だけ、助かる。

「膿みもついでに出すからね。死ぬほど痛くても我慢だよ」

 実はやってる私の気分的には激痛モード。

うげぇ~~・・。ヤバイ。めちゃくちゃ気持ち悪ぅ

 洗いながら他の怪我も確認していく。

 尻や肛門付近、更には性器までただれて膿んだ箇所まであった。それでも男はなすがままにされてて、時折痛みで顔を歪めるが嫌がる素振りも見せなかった。

 すでに心は疲弊しきってて、羞恥心すら残っていないのか・・。

 私のほうがいたたまれない気分がしてきた。


 死なせたくないなぁ。

 これではあんまりだと、泣きたくなってくる。


 貴重な石鹸一個丸々使い切る勢いで男の体をきれいにし、焚き火の炎で焼いた短剣を洗い出した傷口に押し当て、更に薬を塗りこみ布で覆っていく。

「こんなんでいいか?」

 両手に荷物を抱えてきたリアから受け取る。

「ありがとう」

 服を受け取り男に渡そうとしたが無反応で、二人で顔を見合わせた。

「仕方がないなぁ~。着せてやるか」

「手伝うよ」

 二人でふらふらな男を支えながら着つける。

「ここまでしてやって、明日死んでたら笑えないぞ」

「うん」

 リアの言うことはもっともだ。それも分かってる。

「今日はありがとう。もう帰るわ」

「またな」

 何とか服を着せた男を連れて住処である洞窟へと戻ることにした。



 身体を洗ったら随分と見られるようになった。

 生気をあまり感じさせない目、痩せた身体。だが素体は十分イケメンと呼ぶに相応しい容姿を持っている。

 洗った時に気付いたのだが、両手のタコは多分剣ダコではないかと思われる。

 最初見たときから、その辺の村人とか商人とかではなさそうだと直感的にそう感じたからだ。

「おい・・?!」

 やっぱりというか。

 男は森の手前で力尽きたらしい。幾許も進まないうちにぐったりと倒れてしまった。


 男を背負って洞窟まで戻った。

 痩せている癖に意外に重かった。骨が太いんだろうなぁと思われる。

 まぁあの牛のような鹿のような獲物に比べたら軽いから全然問題ないけど。ただ、背負ってみてはっきりと判った。

 男はすごい高熱を出していたからだ。

 いきなりゴシゴシ洗ったせいで風邪でも引いたのかもしれないし、元より膿んだ怪我のせいかもしれない。

 とりあえず枯葉をひきつめ布で覆った簡易ベットの上に寝かせ、万能マントをかぶせて様子を見ることにした。

「消化の良い食べ物といっても果実と卵しかないけど、潰して与えるとかでもいいかなぁ?」

 飲み薬も買ってある。

「これが化膿止めと傷によく効く塗り薬。こっちが熱さましの飲み薬。これが化膿に効く飲み薬で・・」

 買わされた大量の薬を分けながら整理していると、背後で時折男が身を捩り、苦しそうな息をあげていた。

「ほら。薬飲んで。水も」

 沢で汲んできた水は一回煮沸消毒してあるから、きっと大丈夫だ。

 少し状態を起こし支えるようにして薬を飲ませ、汗を拭っては絞った布で額を冷やす。

「脇の下も冷やすといいんだっけ?」

 こんな酷い怪我、はっきり言って持て余す。

「普通緊急で病院搬送だよなぁ、これって」

(なんで病院がないんだぁ!)

 文句の一つも言いたくなる。

 果実を探しに森に行き、獲物を捕っては村で薬と衣服や布を調達する。

「何だ、まだあの奴隷生きてるの?」

 リアの言葉に苦笑するしかない。

「まぁ、なんとかね」

 持ってる薬の山を見て、呆れた顔をさせた。

「放っておけばいいのにさ」

「苦しんでいるのを放っておけないよ」

「お人良し」

 リアに言われなくても、自分でそう思う。

「まぁ。もう少し様子みるよ」

 ニカって笑うと、軽く小突かれ「がんばれ」と言われた。


 熱のせいか塗り薬はすぐに乾いてしまう。剥がす時ベリベリと嫌な音を立て膿みを透明な液が流れ出し、見るからに痛々しくて眉が寄る。

 何度やっても慣れそうにない。薬を塗った葉(これも化膿に効果があるらしい)を切り裂いた布で巻き付けては縛り、薬も飲ませた。

 そして水はほしがるだけ飲ませて、潰した果実や溶き卵のスープも与える。

 汗をぬぐい、服も着替えさせた。

 男は朝と言わず夜中でも苦しがって身悶えていたので、休まる暇もないのだ。

「はぁ・・・」

 疲れないわけがない。でも男はまだ生きている。

「こんなに頑張ってるんだから死なないでね」

 この祈りは届くのだろうか?

 挿絵(By みてみん)

ビーラットのイラストですw 某ピ○チューじゃありませんww

 大陸全体に生息している体長30~50センチ。兎と鼠を混ぜたような生き物。平地や森の中、穴を掘って生活。保護色は緑や茶色の混ぜ混ぜ~。可愛い顔してますが尻尾の棘には麻痺性の毒を分泌しますので、要注意!

 美味しさ★★★(セルシオ基準!)

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