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まどろむ大地 -夢追狐ー  作者: ましまろ
旅に出よう
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第一村人発見!・・て。いっぱいいるじゃん ★

 困ったことが起きた。

 近場の果実はあらかた取り終えてしまい、行動範囲を広げざるえなくなったのだ。それでも迷子になることだけはないと思う。何故なら木に登れば高くそびえた

洞窟のある山が確認できるからだ。

 とりあえず朝から何も食べていないので果実探しを始める。

「おお。ここらはまるで宝の山だね」

 たわわに実る果実を見つけては、いそいそと木に登り無心にもいではかじり付いた。

 ふと見降ろすと、左側の眼下に村らしき集落を発見した。

「もしかして人がいる?!」

 木から滑り降りると、先ほど見えた集落の方向を目指して駈け出していた。



 森を抜け草生えの広い場所に出ると、轍の残った路面を見つける。左右を確認し左手のその先にバラックのような建物がいくつか見えた。先ほど木の上で発見した集落に違いない。

 村のようでもあるが、囲みもなくそのまますんなりと道が家の立ち並ぶ場所へと続いていた。

 なんだ?

 多くの人に賑わっていたが、ただし全て獣人のようだ。

 2足歩行で人のなりはしていても毛耳と尻尾を持ち、中には毛深すぎる体毛に覆われた獣じみた人もいた。

 圧巻なのは熊系の人だろうか。

 3メートルにも及ぶ身長と筋肉隆々の体躯、眼は鋭く凶悪な容姿をしている。他には猫やら犬やら兎、鼠といった多種多様な獣人がたむろしていた。

 何故か私は『獣人はモフモフで可愛い』と意味のわからない感想を持っていたようだが、実際はそんなものは微塵のかけらも感じられない。

 第一獣人の女性は美人だけどおっぱいが4つもあるって・・。

ああ・・獣は多産系だもんなぁ~~。

 そう思えばなんか納得できる。しかも腹や背中辺りの体毛はかなり残ってて、想像(?)とは全く違った感じだった。

「おまえどこから来た?」

 じろじろと見ていたわけではないが、場の雰囲気に飲まれ呆然と立ちすくんでいると、声をかけられた。

「山の奥から」

 そういいつつ、背後を振り返りながら山の方角を指す。

「そうか。ここは初めてか?」

「はい」

「ゆっくりして行けや」

 そう言って小柄な熊族の男が笑った。笑顔はまるで怒っているような感じでかなり残念である。

 しかし。

 どの家もまるで掘立小屋のような出来でとても生活に適した状態には見えない。獣人だから人のように居住性を重視しないのかも知れない。

 ただ露店は出ている。

「あ・・肉」

「いらっしゃい」

 猫族の女性がにこやかな笑顔で声をかけてきた。

「鮮度のいい肉がいっぱい出てるよ。何がほしい?」 

 そう言われたがあいにくお金の持ち合わせはない。しかも期待していた「にゃ~」という語尾もつかない。なんか残念。

「これでいくらするの?」

 一番小さな塊を指すと

「200ルトだね」

「お金ないです」

 正直に言うと女は笑って「物々交換でもいいよ」と言う。

 マントを折り籠のようにして果実を抱えていたので、それを見せると「そっち5個で交換」と言われて嬉しさのあまりに尻尾がパタパタと揺れた。

「お願いします」

 夕飯用にと大量に取っておいたのが功を奏した。

「じゃぁこれね」

 肉の塊を受け取ると大事そうにマント籠にしまう。

「あんた狐族だろ?珍しいね」

 立ち去る寸前にかけられた声で思わず足が止まる。

え?キツネ族?

「珍しいんですか?」

 自分が狐族だとは知らなかったし、更に珍しいとも思っていなかった。

「狐族は大陸の南西にいる極少数部族だって聞いてたからね」

 なんということか。

「そ、そうなんですか」

「そうなんだよ」

 猫族の女は目を細めて笑ってる。

あ。やっぱ猫っぽいや

「それにしても狐族ってやつは、どうしてそんなに人みたいな服を着たがるんだろうねぇ」

 自分の着ている服を眺めてしまった。

 よくよく見渡せば、周りはほとんど裸体に近い。腰回りを覆う布に革ベルト。自分の背丈程ある長剣を背中に下げていたりする。それも鉄の棒を平たくつぶしたような『叩き潰す』用途の剣だ。

 女性もあまり胸を覆ってはいない。

 ほぼ全員極貧乳だ。覆う必要性があまりないのかもしれない。

「なんででしょうかねぇ~」

 困ったように笑って見せる。

「まあ、なんにせよ。狐族は線が細いから人の服も着れるからかもしれないね」

 通りを歩いている猫族の男を見ても、自分とあまり変わらないのではないかと思う。しかしあまり服は着ていなかった。

 それにしても線が細いって言う割に猫族のみなさんかなりの筋肉質なのね。

「そうそう。肉や果実の持ち込みは買い取るからね」

 言われて頷き返すと、そのまま家の立ち並ぶ裏手に向かった。そこにはゆったりとした川が流れている。その河原で枯れた小枝を拾い集めると火を起こそうとして、悩んだ。

 どうやって火をつければいいんだろう?

(ライターとかはないし・・)

 座り込んだまま山にした枯れ枝をじっと見つめていると、ひょいっと兎族の男が顔を出してきて驚き、そのまま尻もちをつく。

「な?」

「ごめんごめん、驚かせちゃった?」

「・・いや」

 少し照れたように言うと相手も笑っている。

「火をおこすのに「魔法は?」かとおも・・」

 かぶってきた言葉に驚く。魔法?今魔法っていったよね?

「こうやってー」

 うさ耳の男は枯れ枝に向かって指を差し「ファイア」というだけでぼっと火が上がった。

うわわ~~マジですかぁ!

「想像と体現。魔力は誰にでもあるからさ。そんなことも知らないのかぁ?」

「・・ありがとう」

 知らないと言ったら笑われる。多分。

「俺リウっていうんだ。君は狐族だろ?初めて見たよ」

 自己紹介されて返さないわけにはいかない。が・・。

「私は・・・」

 名前は何だ?なんだろう・・。困った。分からない。

「?」

 リウは小首をかしげて、促してくる。

(セ・・セ・・・う~~ん・・)

「セ・・。セルシオ」

 微妙に違う気がする。何か手に届きそうでつかめない感覚というのか。

「セルかぁ。魔法使えないの?」

「それが。頭強く打って。・・なんかよく思い出せないことがいっぱいで」

 事実だ。但し頭を打った記憶もないけどね。

「そうか。戦争いっぱいやってるしね。たまにそういう奴もいるって聞いたことがあるよ」

 あるのか。うん。ならとりあえず安心だ。

「で。火をおこして何したいわけさ」

 笑顔のリウに、マントの包みからさっき交換したばかりの肉の塊を出した。

「これ焼いて食べようかと思って」

「じゃあおれも家から持ってくるから一緒に焼いていいかな?」

「ああどうぞ」

「ついでに塩も持ってくるよ」

 言うが早いか、リウは脱兎のごとく走り去って行った。さすが兎だけのことはあると感心して、その後ろ姿を見送った。


 リウは肉以外に金棒と塩も持参して戻ってきた。金棒に肉を刺し、二人で並んで焼き始める。

 焼きあがるまでの暇な時間、意外に物知りなリウとの会話が弾む。自分はこの世界のことが全く分からないので随分助かると思う。

「でね。人との戦いはもう10年近く続いているらしいんだ。知ってた?」

「・・いや」

「大陸のほとんどを人が占めてて、獣人はあっちこっちの森の奥に散在してたらしい。でもって人は獣人を捕まえては奴隷にしてたんだって。その扱いがあまりに酷いから、怒った獣人たちが決起したのが始まりだと聞いたよ」

 そうなのか・・。

「今じゃ大陸の半分は俺たちのものになったって。人は西のほうにどんどん追いやられているんだ」

 リウが荒い砂の地面にざっくり大陸の絵を描く。大雑把だが実に分かりやすい説明で、人がどんどん端に追いやられているのがわかる。

「すごい高い外壁に囲まれた大きな街を攻め込むのは大変だって言ってたな、ガイさんが」

「ガイさんって?」

「この村の英雄さ。大熊族のガイって言ったら知らない者はいないよ。背負った大剣一振りで、人なんか十人以上吹っ飛ばすんだってさ。すっごく強くてさ、とにかく格好良いんだよ!」

 リアは頬を染め熱く語る。相当憧れているのが分かる。

「その点俺なんか・・」

 反動か。重い溜息を吐いて項垂れる。兎族のリウはお世辞にも逞しいとはいえない。自分よりも背が高くどこかひょろ~ンとした印象を受けた。但しかなり美形の部類だと記憶の底の知らない自分がそう感じている。

「やっぱ男は筋肉だよね。強力。そして覇気!」

 獣人のモテ度は全てそこの一点に集約するらしい。

「俺はもう終わったよ・・。どうやっても筋肉付かないし・・」

 そういいながらリアはこっちをじっと見ている。

「一生独身組だね、お互いに!いやぁ一人じゃないってなんだか嬉しいよ!セル!」

ええええ?

 涙を浮かべながら嬉しそうな笑顔で両手をつかまれた。思わず振り払って、流れの弱い川に這って行き、川面に己の姿を映して確認する。

 すっごい美形だ。無駄に色白の美少女系だ!男なのに・・。そして間違いなく脆弱だ。

 でもって。獣人のイケメンはマッチョで確定。

 踊る筋肉、飛び散る汗、豪放あげる口元に、覗く牙がキラリ

(究極の体育会系・・・とか?!)

「仲良く独身謳歌しような!」

 リアの声は自虐的に楽しそうだった。


 なんだか人生終わったような気がしてきた。始まったばかりだというのに。

 焼けた肉を頬張りながら、それでもいろいろ話をした。

「そういえば、それ弓?」

「うん」

 そのつもりで作った自作品だ。かなり不格好だが・・。

 食べ終えて河原を元に戻す。火種が残らないように水もしっかり掛けて消した。

「自分で作ったのか」

 笑われてるのが分かるため、かなり悔しい。

「露店で弓打ってたよ。人が使っていた奴だけどね」

「いくらするのかなぁ?」

 お金の持ち合わせがないので、また物々交換でも出来たらいいなぁと思うのだが。武器は高そうだ。

「聞いてみたら?」と言うリウの言葉に頷く。

 早速この後露店巡りを始めた。


 なかなか弓は売っていない。

 そして何とか通りから少し奥まった場所の小さな露店でやっと見つける。

「なんだい?」

 商売する気がなさそうな犬族のおやじが胡乱気に見上げてくる。しかしそんな態度でもリアはいたって平気らしい。

「その弓、いくら?」

 積極的なリアに、自分は思わず尻ごみしてしまう。状態もかなりいい、如何にも高そうな弓だ。

「これか?・・そだな・・」

「剣ならともかく、弓なんて売れないじゃん。安くしてよ」

 リアの言葉に少し驚いた。弓って人気ないのか?

「これなぁ・・。もう4年近く売れ残ってるから。いいさ。好きにしろ」

 おおお! 思わず身を乗り出す。

「じゃあ」

 マントの中の余っている果実を全部出した。

「これと交換してください」

 勢い込んで言うと、おやじは「いいよ」と言って弓を渡してくれた。果実6個と交換とは・・。

「な。昔から売ってるの知ってたから。いい加減手放したくなってきてると思ったんだ」

 リアさまさまである。

 本物の弓を手に入れて意気揚々と帰路についたのであった。



 弓の人気のない理由は至って簡単だ。

 要するに獣人は力勝負で体力自慢。長く大きな剣を振るって自他共にその逞しさを誇示するからである。弓はそれこそ『女子供の玩具』みたいな扱いなのだ。そして更なる問題があるわけで。

 そう。消耗品である矢がほとんど供給されない事だ。

 獣人は自ら何かを作ったりとかはほとんどしない。そういう技術もなければ根気もないという。

 弓があっても矢がなければ武器としての意味もないというわけだ。

そりゃあ・・売れるわけないよね。


 それにしてもあんまりな偏見だよね。

 攻撃魔法には劣るかもしれないけど、弓だって立派な後方火力のはずなのだ。

たぶん。きっと。・・矢さえあれば。

 決して自分が非力だとは言いたくない。


 ところで疑問。

 獣人に貨幣の必要性ってあるのだろうか?

 物々交換で十分な気がするんだけど。

 やっぱりよく分からないや・・。

挿絵(By みてみん)

みなさん、想像力を100%駆使でお願いします><。(他力本願)


 

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