気がつけば洞窟。自然は素晴らしいね- ★
セルシオsied
重たかった瞼がゆっくりと持ちあがっていく。うすぼんやりとした視界。意識もなんだかはっきりしなかった。
「・・ん」
ここはどこなんだろう?
地面の上に投げ出されたらしい身体はひどく硬く、節々がまるで油の切れたロボットのようで動かし難い。
首をゆっくりと左右に動かし辺りを見回す。そのわずかな動きでさえ体の関節から軋む音が聞こえる。
どうやら薄暗い洞窟の中、らしい。
所々光苔の淡い黄緑色の光に照らされ、ぽたりぽたりと落ちる水滴の音と白い石筍があちらこちらに浮かび上がって見えた。
なぜこんなところに?
まるで鉛の棒をのみこんだように重く、固まっている身体で何とか身を起こす。なんだか死後硬直のようだと頭の中で苦笑して、そっと自分の体に触れてみた。
「死んでたとか?」
まさかね~と乾いた笑いを浮かべながら、己の体温の低さに我ながらぞっとする。
死んで・・・。そうだ。
いきなり死んだ時の記憶がフラッシュバックする。
ああ。車にはねられて宙に舞う感覚が。
(?)
記憶の中に「車にはねられて吹っ飛んだ」という意識がしっかりあるのに、今いるこの洞窟とは結び付かない。その上、車そのものは理解できるのにでは自分は何だったのか。それさえ思い出せないのだ。
怪我なら気づくのは病院のはずで、決して洞窟ではない。
「私は・・・誰だ?」
自分のことはわからない。霞かかっていて思い出せない。
「ここは、どこなんだ?」
上がり始めた体温のせいか、急に寒さを覚えて身を丸め頭を抱え込んだ。
微かな空気の流れをたどって、なかなか言うことを利かない体を引き摺るように歩を進める。右も左も分からず真っ暗な洞窟はどちらに向かっているのかさえ不明だ。
いくら目を凝らしても闇しか広がらず、幾度となく足を捉えられてはその度に転ぶ。ただ肌に当たる空気には時折鼻をくすぐる緑の臭いが、必ず外に向かっていることを告げていた。
「もうすぐだ」
きっともうすぐ外に出れる。
何時間さまよっているのかさえ分からなくなってしまったが、あまり残されていないであろう体力を無視して、己を鼓舞する。
「あ」
小さな明かりが見える。濃厚な青臭い匂いも鼻をくすぐる。外だ。
ふらふらしながら、ひたすらまっすぐその光を目指した。
目の前に突如と現れた緑の洪水。緑豊かというより、まさにジャングルのような様相が広がる。密集した木々に生い茂る下生えの草。姿は見えないが賑々しい生き物達の声。
何より冷え切った身体に降り注ぐ暖かな日差しが嬉しかった。
「・・お腹がすいた」
安心したら一揆に襲いかかってくる空腹感。これが生きている証しだと思わず失笑してしまう。
「現金なものだなぁ~」
とりあえず果物とか探してみようか。これほど緑豊かなのだ。探せば見つかるはずだと、安堵のあまり萎えてしまった身体を起こして、森の中へと進んだ。
両手にこぼれ落ちんばかりの『食べられそうな果実』を抱え座り込んだ。
見たこともないものばかりで、一応一回かじっては確認済のものだけをチョイスしてある。大きな葉を敷物代わりにして置いた果実を一心不乱に頬張った。
「やっと生きた心地がするぅ」
そうして落ち付いてみてから、初めて己のことに目を向けられた。
手も足も指だって綺麗に存在しているからには人だろうと思うのだが、問題は座ってみてから気づいた。どうも自分には尻尾があるのだ。
それも太くて長い毛がもっさりと・・。
「モフモフだぁ!」と喜べない。何しろ自分の体の一部なのだから。
しかも純白である。
毛先のほうは半透明に近く、銀色にも見える。なんだかとても高級そうに思えた。
「これって耳とかは?」
記憶の奥深くにいる自分の耳位置辺りに手で触って確かめる。真横というより少し上のあたりにふさふさした温い大きな耳を発見した。たぶん尻尾と同じ色なんだろうか?
そのまま前髪をつかんで目の前に持ってくる。少し青みを帯びた白っぽい銀色の髪を見て、やっぱりそうなのかと溜め息をついた。
白い犬か?
または白い長毛種の猫か?
それの人型? だと、あれ。獣人ってやつだろうか?
ただ、男であることはわかった。・・それだけである。オスとも言えるかもしれないが。
だが、何かが違う。遥か遠い記憶の中の自分ではない気がする。よくわからないけど、今はこうなってしまっているのだから。
「考えても分からないし、気にしない方向で!」
あばらが浮くほど痩せてはいるが食欲もある。しかも実綺麗な衣服もきちんと身につけていた。
目の覚めるような空色の上着は金の刺繍で草花をモチーフにしたレリーフに縁どられ、コバルトブルーのマントも同様な刺繍が施されている。白いズボンに機能性も高そうなショートブーツもしっかりした作りだ。
数多とすっ転んであちこち汚れてはいるが、何やら貴族のような出で立ちである。
そう思ったのも、腰の革ベルトには30センチほどの短剣というか、肉厚のナイフのようなものも携帯しているのだが、悪趣味極まりないほどごてごてと装飾されているからだ。
(金と宝石つけまくればいいというものじゃないよ!)
ああ。あれだ。もしかして獣人の王子様とか?!
「いやいや~~。ありえんだろう」
記憶が全くないという自分はこの先何をしたらいいのかさえ、さっぱりなのであった。
(とりあえず、生きていくための生活基盤を作らなくっちゃ!)
出てきた洞窟を勝手に住処に決め、色や形や味に記憶のないものだが食べられる果実と不器用そうに木登りをして鳥の巣から卵も拝借できる。
ただ。
「お肉食べたいなぁ~」
そう思って小動物を追いかけるがあっさりと逃げられてしまう。罠を仕掛けたくてもやり方が分からず、本能に任せて追いまわしても捕まえられず。
犬や猫系ならすばやく捕まえられそうな気がするのだが「人型だからだめなのかなぁ」とぼやいては、
手近に落ちていた石を投げてみる。
「あははは・・。ノーコンすぎ。しかも非力で全然だめじゃないですか」
笑うしかない。
獣人のお得感が全く感じられず、へこむよ・・。
森の中をうろうろしていると、竹によく似た植物を発見し、なんとなく閃いた。
「弓とか作れないかなぁ」
短剣を使って何とか作ってみたものの、形だけであった。所詮素人の思いつき。うまくいくはずもないわけで。
「ええ~~い!クソ」
腹立だしさにその辺の石を拾って森に向かって投げてみた。あれ?今「ギャン」的な声が聞こえたけど?
いそいそと草むらを分け入ると鼠のような兎のような生き物が転がっていた。
「なんか成功?」
弓では無理だったが。
短剣を出して、獲物を。
「首切るの?ええ?さばくってどうやって?」
はい。さばけません。
結局どうしたらいいのかずいぶん悩んでいるうちに獲物は目を覚まし、脱兎のごとく立ち去って行ったわけで。
「はぁ・・。肉食べたいよ」
はたして、私は犬なのでしょうか?猫?というか。獣人?
山腹の洞窟を起点に森の中を元気良く駆け回る。木に登っては果実や卵を取り、岩肌を駆け回っていた。
鈍いと思っていたが、実はかなり身体能力は高いのだと最近知った。どうやら意識と身体がうまく繋がってきたような感じがする。
気がつけば木登りも楽々こなせるし、石を投げれば小動物も倒せる。さすが獣の人。面目躍如である。
ただ、木の上で空に向かって「お肉食べたーい」と叫んでしまうのは如何ともしがたい。
情けないやつですみません。
掴みが悪い分イラストで誤魔化そうと・・(コラマテ
時間かかっちゃった@@; こんなのやってないでさっさと小説かけよ!
とほほ・・。