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そこだけの笑顔
大阪から東京に出てきて、5年。
きっと仕事はそこそこ順調なのだろう、
この歳になって、ちゃん付けで呼ばれる従業員がいったい世の中にいるのだろうか。
『いつも元気だね!』
『会いにきたよ』
作り笑顔の接客で迎える私には居場所がここにしかなかった。
傍目には休日もしっかり満喫していると映るのだろう。
いや、そう演じるのに必死だった。
現実の休日といえば、
溜まった洗濯さえ終われば、
誰とも会話することなく、ただ明日を待ちわびる自由旅行。
この特別な思いなどない、箱庭に放り投げられて、内気な猿はただバナナを頬張るだけ。
(このままじゃダメだ)
そう思うこと、きっと1211回目の自由旅行日にバイクを走らせた。
夢の中かテレビかネットだったか曖昧ではあるが、とても切り絵を見たことを思い出したのだ。
早速、文房具屋にいき、デザインカッターと画用紙を買って帰る。