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黒魔王・クロシュタイン

 黒の城最上階・黒魔王の間。

 そこは入り口付近のように静かで、とても美しい神殿のようなフロアだった。

 中央奥にライオン顔の彫刻があり、その口から水が流れている。

 フロアの左右には水が溜まっていて、人が歩ける道は真ん中しかない。

 水面に映る自分の姿を見つめた瞬間――バチャン! と突然ハッサクは、水面に映る自分を拳で叩いた。 ゆらゆらと揺れる水面から、ザバアッと黒い髪の少女が現れた。

 水が滴り落ちる髪をかきあげた少女は、パチン! と指を弾くと一瞬で体の水を吹き飛ばした。黒いセーラー服の美少女・黒魔王クロシュタインが現れた。


「お前が黒魔王クロシュタインか?」


 白い軍手がはめられた拳を構え、ハッサクは言った。


「そうよ。私が裏迷宮を支配する黒魔王・クロシュタイン」


 新たなる魔王を目の前にし、ハッサクとサタラは息を呑んだ。

 サタラとは違い、やけに落ち着いている黒髪の長い美少女は時折鼻を嗅ぐように動かしていた。


「クンクン。このクロシュタインに勝てるかしら?」


「クロシュタイン? 長いからクロコ」


 突然の名前決定に黒セーラー服の大人びた口調の少女は反論するように鼻を詰まらせ言う。


「んんっ、ダメよ。そんなあだ名」


「そうだよハッサくん。黒乳首さんに失礼だよ」


 何気なくブラックな事を言うサタラの声で黒魔王の魔力が増大した。

 ブオオッ……と明らかに変化する顔にハッサクは恐怖した。


「……私の黒乳首の秘密を知っているのは私だけ。冗談でも言い当て、それを知る貴方達には私が冥府に送る必要があるわね。メガネよこのクロシュタインに力を貸しなさい――」


 突如、クロコのメガネがキラリ☆ と光る――。


『――!?』


 ブフォ! とその怒りを具現化するようにメガネビームを放った。


「サイクロプスかお前!」


 憎悪の黒いビームに二人は回避行動に出た。

 ビー! ビー! ビー! と回避先を読むようにクロコは指先を天にかざしビームを撃つ。


「それそれそれっ!」


「くっ! 早いけど慣れてきたぜ。サタラ俺がこのビーム止めるから魔法で倒せ!」


 そう言ったハッサクは射出したアンカーをクロコの腰に巻きつけ黒魔王に突っ込んだ。


「オッケー! マグマドラグーンで決めてやるわよ」


 サタラは呪文を唱え炎を生み出して行く。

 両手を突き出しメガネビームに耐えるハッサクはクロコが指を上につき立てたまま微笑んでいるのが気になった。


「おいクロコ。一体何で笑っていられる……?」


「だって、私の勝利は確定してるからよ。剣の使えない偽りの勇者さん」


 クロコはふと上を見上げた。

 そしてハッサクとサタラも頭上の異変に気づく。


『あれは――』


 頭上にはいつの間にか水で生み出された黒の玉が浮かんでいた。

 それに気づいた二人は口が開く――。


「メテオレイン」


 クロコの冷たい呟きと共に、黒い玉の群れは地面に舞い降りる。

 ズババババババーーーッ! と地面が削れ、空間が騒音から静寂に移行した。

 煙から自分を水のバリアで守りながらクロコは言う。


「やはりクロソーズの時と同じで素手の時に攻撃はダメね。偽りでも勇者のチート能力はあるみたい。剣を持った時じゃないのが皮肉でしかないけど」


 スウッ……と煙が晴れる間に独り言を呟いた。

 確実にまともなダメージを受けていないハッサクと、ダメージを受けているサタラを見てクロコは言う。


「ガーン! 勇者なのに素手じゃなきゃチートじゃない!」


「……黙れ! 剣なんて使えるさ! サタラ手を出すなよ!」


 ジャキン! とハッサクは鋼の剣を抜いた。

 最後には拳を使えばいいかと思うサタラは頷いて指先で炎を描き遊び出す。


「じゃあ、剣に炎だけ纏わせておいてね」


 ブワッ! とサタラは鋼の剣を着火し炎の魔法剣にする。

 そのままサタラは胸元からマンガ本を取り出し隅に方に下がる。


「こいつは魔法剣か。これなら――」


 勢いづくハッサクは炎の剣を繰り出した。

 ズバババッ! と炎の突きを繰り出していく。


「フフッ、熱いのは絶対ダメよ。ハッサク」


 クロコは左右に溜まる水を集め、炎の魔法剣を防いだ。


「絶対ダメならこれで終わらせてやる」


 ハッサクは剣に集まる炎を吐き出すようにイメージした。

 ブオオオオッ! と放たれた炎がクロコをのみ込んだ。


「くっ――!」


 ドゴッ! と中央の口から水を流すライオンの彫刻に激突した。

 瞬間、周囲の空間に不愉快な水蒸気が噴出した。

 それを剣で切り裂くハッサクは、


「目くらましなんかで!」


「はあっ!」


 クロコは激突したひょうしにヘシ折れた、ライオンの牙をハッサクに投げた。

 スパッ! とハッサクの前で切れた牙は床に落ちる。


「クロコは案外怪力だな。それとも火事場のバカ力?」


 ザバッ……ザバッ……と水の中をハッサクに向かい歩いていくクロコは、


「私は自分の体が少しでも傷つくと、過剰な防衛本能が表に出るの。気にしないで」


 水の中から出たクロコはそう答えた。


「それは怖いな!」


 ハッサクは鋼の剣でクロコを串刺しにしようとした。

 ズッ……と剣は胸に刺さり、ハッサクは勝利を確信した。


「やったぞ。これで黒魔王を剣で倒したんだ……俺もこれで真の勇者になった」


 剣を握り自信を持ったハッサクはサタラに自慢しようとすると、目の前のクロコが揺れ始めた。


「何だ……これは?」


 そして、クロコだと思っていた人間が、パチャリと水になり床に広がった。

 焦るハッサクは後ずさり、


「この霧は……」


 いつの間にか、辺りは薄い霧に包まれていった。

 霧によって悪くなる視界にハッサクはイラつき、


「どこに隠れたんだクロコ!」


「どこだろうねぇ。ハッサク」


「!?」


 上下左右から聞こえる声にハッサクは動揺した。

 ヒュン! ヒュン! ヒュン! と何かが飛んで来る音がした。


「痛っ!」


 霧でよくは確認できなかったが、水のカミソリのような物がハッサクの腕をかすった。

 その数は次第に増え、三百六十度の方向から水のカミソリがハッサクを襲う。


「くっ、このっ!」


 最悪の視界の為、回避できずハッサクのグリーンのツナギが赤く染まっていく。

 この状況から抜け出す為走り出したが、ガコッ! と段差につまずき水の池に突っ込んだ。


「ブハッ! 不味い……!」


 水の中から顔を出した時にはもう遅く、水の重みで体が動かなかった。


「ウォーター・テリトリー」


 どこからともなく聞こえるクロコの声と共に左右に溜まっていた水が空間に溢れ、やがて天井にまで達した。


(ぐ……ぐぬぬ……!)


 ゴポゴポッ! とハッサクはもがいている。

 だが、クロコの支配下にある水の力はハッサクの体を縛りつけ、まともに動く事は出来なかった。


(くっ、もうダメだ……)


 ハッサクは剣を手放し、水中を浮かんだ。

 しかし、剣を手放した事によりチートパワーが復活し溺死をする事はなくなった。

 その力を利用して連戦で疲れているハッサクは仮眠を取ろうと考えて、寝た。



「ハハハッ! ようやく意識を失ったか。しぶとい奴だったよハッサク」


 メガネをかきあげるクロコはそう呟き、モニターに映るハッサクから目を離した。

 そう、今のクロコは最上階にある隠し部屋のモニタールームにいるのである。

 艶やかな長い黒髪がどこからか流れる風に揺れ、クロコは焦った。


「隠し部屋でのうのうとし、自分自身が戦わないとはね。卑怯な奴だよクロコちゃん」


 突如現れた赤い髪の魔王サタラは、ブンッ! とフレイムソードを一閃させ、黒魔王クロコを斬った。


「があっ! なっ、何故サタラがここにいるんだ!?」


 吹き出る胸の血を抑えつつ、クロコは言った。

 その傷口を蹴り上げ、巨乳を揺らすサタラは答え始めた。

 ハッサクが剣で一人で戦うと言った為に、漫画を読むのに静かな空間を求めて最上階の入口付近にいたサタラは、偶然隠し扉から出てくるクロコを見かけた。

 クロコはライオンの彫刻に激突した際に分身のみを残し、自身は水が流れるライオンの口の中から離脱していた。そのクロコの後をつけ、黒の城の心臓部であるモニタールームに辿り着いた。それを知るクロコはやれやれと呟く。


「……そういう算段か。作戦は成功したようだけど、最後のツメが甘かったようだね。ハッサクはもう溺死しているよ」


 そしてメインフロアへ逃げる。

 その背中を見つめるサタラは微笑み言う。


「それは、どうかなー?」


 クロコの精神力が弱まった為、ハッサクのいる最上階・メインエリアの水は一気に引いていた。

 そして仰向けで倒れているハッサクが、青白い顔で目をつぶって寝ていた。

 ピュー……とハッサクの口から、水が上がった。

 そして起き上がるなり、


「あー寝た! よっしパワー全快だぜ!」


「ハッサク……いいタイミングで剣を手放していたか。結構煽ったつもりなんだけどダメだったか……」


 黒いセーラー服のスカートの裾を揺らしながら、クロコは後ずさった。


「勇者はチートなのさ」


 拳を突き出し、自慢気にハッサクは言った。

 そしてガスッ! とハッサクはクロコの腹部を叩き黒魔王を倒した。

 黒魔王クロコのなかなか大きい左胸に手を当て、主従契約を結んだ。

 心臓の無い黒魔王の心音が聞こえ、黒魔王クロコをレディハントした。


「よしっ、二人目のレディゲット!」


 ハッサクは大きくはしゃぎながら、勇者としての自信を深めていた。

 これで手持ちのレディは赤髪ロリ爆乳・巨乳黒セーラーメガネ・貧乳黒百合の騎士の三人になった。

 そしてサタラに起こされたクロコは言う。


「私が火が苦手だとよくわかったわね」


「まー、元の世界は火と水は相性悪いのは当たり前だしお前のダメよって台詞がサタラに似てたからな」


 ふと、サタラは否定した後に受け入れている自分の口癖を思い出した。

 その事をハッサクは説明する。


「ダメよ。はよくて、絶対ダメよはダメ。って事だな」


「……よくわかったわね」


「お前は思慮深そうだけど案外単純だしな」


「ウルサイわよ」


 クンクン! と匂いを嗅いだクロコは完敗を悟る。




 そして三人組みになった勇者と魔王の二人はここを脱出して地上へと帰還する。

 赤い髪の魔王と黒髪の魔王はどちらが強いかについてもめていた。

 やれやれといった顔をし、先に歩く二人の方へハッサクは向かった。


「ちょっと待ってくれよ二人共……」


 とハッサクが言った瞬間――。

 背後から嫌な感覚がし、首を右に曲げた。


(……!)


 後ろから現れた両刃の剣が左の頬をかすめている。

 ツツーと流れる血の感触から意識を取り戻し、ハッ! と振り返ると顔は見えないが茶髪の男の剣は消えていた。


「今のは、一体……!?」


 突然の出来事にハッサクは驚きつつも、その後何も起きない為に黒の城を出た。

 黒の城を出た後も、不気味で嫌な感触がハッサクにまとわりつき離れなかった。

 切れた頬の傷痕がジリジリと痛んだ。 

 新たな敵の予感に、ハッサクは不思議と気分が高まって、勇者としてやる気がすごくみなぎってきた。

  

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