ハント完了! ナイト・クロソーズ
猛然と赤い髪を振り乱しサタラは魔獣のように襲いかかる。
「? 陥没乳首とは言っていないぞ……。待て、人の話を聞け!」
鬼のような形相で、サタラはクロソーズに向かって歩いていく。
その迫力にクロソーズは押された瞬間――。
ガスッ! とハッサクの右膝がクロソーズのアゴをとらえていた。
「ぐはっ!」
動きに反応出来なかった為、受身も取れずに床を転がった。
「なんて動きだ……私の動体視力を上回るとは……」
刀を突き立て、立ち上がる。
ファイティングポーズを構えたハッサクは、クイクイッと右手で来い……と命令した。
「いいだろう……。絶望の一撃を貴様に!」
バッ! とクロソーズは飛翔し、刀を振りかぶった。
「メテオボムズ!」
圧縮された無数の悪意が、ハッサクに降り注ぐ。
瞬き一つせず、メテオボムズを見つめ、
「おおおおおおっ! ガラガラッド・ガラガーーン!」
ブオッ! と最大出力になったグリーンのオーラで、自分に降り注ぐ黒い黒球の群れを焼き払う。
ズバッ! ……ドンッ! と床に落下したクロソーズにハッサクは近寄る。
「この女もハントできんのかな?」
パアァァァ――とグリーンの輝きが体から発して、ハッサクとクロソーズは突如苦しみ始めた。
「ぐあああああっ!」
「きゃああああっ!」
ハッサクは全身の身体の熱に耐え切れず、のた打ち回っている。
「ハッサク!」
焦るサタラはこの現状に魔王ながら対処できない。
額から油汗を流すハッサクはサタラに、
「お、俺の左手を……クロソーズの手に……」
言われたサタラは、必死にハッサクの左手をクロソーズの左手に合わせた。
シュパァァァ! とクロソーズの生命オーラの輝きが、ハッサクの心にシンクロした。
やがて輝きが収まり、ハッサクのレディリストにナイト・クロソーズが刻まれた。
「はあっ、はあっ……これでクロソーズゲットしたぜ……」
息を切らしながら、ハッサクは立ち上がった。
「やったね、ハッサくん♪ 記念すべき一人目の裏迷宮レディゲット!」
「まったく、処女膜破られるくらい痛かったぜ。ま、次はこんな痛みは無いだろうけど」
「処女膜ってこれの――」
「見せんでいい」
スカートの中のパンツを下げようとするサタラにハッサクは必死で止めに入った。
モンスターから人間に転生したサタラは自分の身体に興味があり、生々しい神秘的な身体を調査するのが趣味であった。そんな二人の感覚に、違和感が走る――。
『――!?』
すると、階段の方に物音がした。
「ゲッ……遅かったか。オマエらは俺が倒してやる!」
今更現れたヤカサンは、両手のミサイルを放った。
二人は左右に飛び、ミサイルを回避した。
ドゴオッン! 壁に大きく開いた穴から、外の光が流れ込んだ。
それを見たサタラは言う。
「丁度いいわ。ハッサくん、退却よ」
「ちょ、アーレー!」
ブンッ! とサタラは開いた穴の外にハッサクを投げた。
そして自身も――。
「とうっ!」
と、飛び降りた。
「ゲッ、逃げやがった! でもここは、二十階建ての城だぞ。助からないだろ」
ヤカサンは落ちていく二人を見てV字型のサングラスをくいっと上げて言った。
※
スクラップ城の頂上から落下するハッサクとサタラはただ重力にのまれて落下する。
ハッサクはアンカーを射出して城の外壁に引っ掛けるが、ガラクタの山では安定して体重を支える場所は無かった。
「パンパカパーン! ここで登場サタラちゃんの新兵器! いくよーっ、ポチッとね」
微笑むサタラはフレイムソードを変形させ、ブンブンブンブンッ! とヘリコプターのプロペラが如く回り始めた。悠々と降下するサタラにハッサクは、
「おいっ! ハッサク! 俺はどうすればいいっ!」
一人だけ悠々と落下するハッサクにサタラは言った。
「あっそうだ。腰のポーチの下のボタン押してみ!」
「ポーチの下?」
ごそごそとハッサクは自分の黒いポーチの下のボタンを押すと、
ブハアッ! 激しい炎が噴出し、その推進力で一気に黒士隊と出会った広場方面に加速しながら飛んで行った。
「ぐはっ! これはサタラの魔力をこっちに還元して使うブースターか? グアーッ!」
キラーン☆ とハッサクはサタラの視界から消えた。
「ハッサくんが寝てる間に改造したかいがあったわ。どうせなら、私も入口まで運んでほしかったな」
星になったハッサクを見つめ、サタラはそう呟いた。
そして、この黒の迷宮の入口広場ではナイト・クロソーズと話し合いをしていた。
ハントしたクロソーズはハッサクと主従関係にあるが、それは完全な主従ではなかった。
クロソーズは元々黒魔王の部下の為、ハッサクと契約した時に痛みが伴ったらしい。
この事は無論、黒魔王にも感覚を通して知られている――。
「残念ながら私を倒しても、黒魔王様が貴様達を屠るだろう……」
「ガーン! そういえばまだ黒魔王がいた!?」
少々苦戦したクロソーズの存在で黒魔王の出現を忘れていたハッサクは頭を抱える。
そして目の前の帰還用の紅玉を見たハッサクは言う。
「よし、一度出直すぞ。新しい魔王が出たならギルドに知らせる必要もある」
今までのレディハンター達が攻略していた魔王をクリアすると、魔王がいなくなった事により迷宮世界は新たな段階へ進行した。新しい魔王が現れた為に、一人のハンターとしてギルドに報告する義務があった。これは最重要事態でもある――。
「……よし、この地下にある黒魔王は次の探索で調べる。一度帰還しよう」
そのハッサクの声に、サタラは反応しない。
「地面が振動してるわ……地震?」
サタラとクロソーズは目が合い、クロソーズは瞳を逸らす。
突如、足元の地面が崩れた。
「うおおおおっ!?」
そのまま、ハッサクとサタラは落下し黒魔王戦へと向かう事になった――。