ナイト・クロソーズとの戦い
壊れた産廃で建てられるスクラップ城の頂上を目指してハッサクとサタラは進む。
「結構疲れるわね。あと半分くらいかしら?」
「そうだな。今は十階だから後、半分て所だろう」
スクラップとなった黒士隊の横でシートを広げ、ハッサクとサタラはサンドイッチを食べながら休憩していた。
ジャーッとサタラが出現させたカルピスの原液をカップに注ぎ、水で薄めてカルピスを作った。サタラのFカップの胸は次元の胸であるオープンパイという能力がある。それはアイテムを次元の彼方から呼び出せるが、胸が縮んでしまうというものであった。それをそーっと見るハッサクは何かを食べるとFに復活する胸を見て学生服越しながら驚く。
(すごい能力だな……それにカルピスの原液を飲んでるし!)
サタラの趣味に呆れつつカルピスをズズーッと飲むハッサクは、
「この塔はクロソーズ以外の強敵はいるのかな?」
「たぶん、いないでしょうね。スクラップ城は黒士隊の数の多さで警護しているだけだし、支配者と部下との力量が一番離れている城としか思えないわ。じゃなきゃ、この裏迷宮として存在するほどじゃないもの」
「じゃあクロソーズまでは、地道な戦いが続くんだな」
薄めたカルピスを全て飲み干し、ハッサクは周りの物を片付け始めた。
そして、二人は次の階に向かった。
※
クロソーズとヤカサンは、スクラップ城の入口にいた。
ヒュゥゥーウ……。
乾いた風が吹き抜ける入り口には、黒士隊のスクラップが転がるのみである。
侵入者の姿は見当たらない。
クロソーズは黒髪を揺らし、少女らしからぬ鋭い眼光で言う。
「奴等はどうした?」
「もしかしたら、途中ですれ違ってしまったようですね……」
「馬鹿者が!」
ガスッ! とクロソーズに蹴られたヤカサンは、黒士隊のスクラップに突っ込んだ。
黒いマントをひるがえすと、クロソーズは甲冑を揺らし城を登り始めた。
「クソッ!ハッサクとかいう勇者……。クロソーズ様にケチョンケチョンにされてしまえ」
ずれたV字サングラスをかけなおし、ヤカサンも城を登った。
※
スクラップの城最上階。
「やっと着いた……。クロソーズはどこだ?」
ハッサクは、スクラップと切られたケーブルが散乱する最上階を歩いた。
だが、人の気配も機械の気配も無い。
「クロソーズは外出中のようね……」
赤い髪の前髪を直すサタラがそう呟いた瞬間――。
「待たせたな、俺がクロソーズだ」
突如、後ろに長身の日本刀を帯びた薄い胸の狼のような少女が現れた。
クロソーズは真黒百式を抜刀し、構えた。
素早く拳を構えるハッサクは言う。
「お前がクロソーズか。黒魔王へのゲートはどこにあるんだ?」
「それを知る前にお前達はこの裏迷宮で死ぬのだ」
刀を掲げ、クロソーズは言った。
「オッケー。お前はいわば中ボスだろ! 前座のザコさ!」
「口先だけになるなよ」
ヒュン! とハッサクは一瞬で間合いを詰め、拳で殴りかかった。
「温いな」
左手で拳を防がれたハッサクは、さっきの休憩で余ったカルピスの原液をぶちまけた。
「ベトベトのドロドロだろ?」
「つまらん手をっ!」
マントでカルピスの原液を防ぎ、ハッサクに斬りかかった。
ジジジッ! サタラのフレイムソードが、ハッサクに迫る真黒百式を防いだ。
刹那、ビュン! ビュン! ビュン! と斬撃が無数に別れサタラを襲った。
「何っ!?」
突如現れた斬撃に、サタラの右腕は皮膚が少し切れ、血が出た。
「大丈夫か!? サタラ!」
「問題ないわよ」
左手にフレイムソードを持ち替えたサタラは言った。
そして、魔王としてのパワーがこの裏ダンジョンでは通じない敵がいる事を知る。
「中々強い敵のようよハッサくん。流石は私の知らない裏迷宮らしいわ」
「そうみたいだな。強い方が丁度いいさ――」
スッ……と動いたハッサクはクロソーズの前で止まり、刀の振りを促した。
その隙を一気に叩く。
「ガラガラガラーーーーーっ!」
ガガガガガッ! とクロソーズは打撃を浴びる。
打撃を浴びつつ、黒髪の女騎士は先ほどから飾りとして存在するハッサクの背中の剣を見た。
「……勇者の割には背中の剣は使わないようだ。使えないのか?」
「だ、黙れ!」
意識が硬直し動きに隙が生まれ、直撃を浴びたハッサクは後方へ飛ぶ。
そしてサタラはフレイムソードで一気に攻める――。
「クロソーズ!」
「ククッ、奴がまがい者の勇者ならまずは邪魔なお前から黙らせるか」
クロソーズは殺気を全開にし、構え剣を受けた。
激烈な一撃を浴びせ、サタラは叫ぶ。
「ハッサくんは勇者だ!」
「そうか。ならばそれを剣で証明してみせろ! でやぁ!」
キンッ! キンッ !キンッ! キンッ! サタラとクロソーズが激しく剣を激突させる。
フッと鼻で笑いつつ、クロソーズは、
「乱れ刃」
たった一回の斬撃から、無数の刃が放たれた。
「同じ手など!」
フレイムソードのエネルギーを前方に炸裂させ、後方に勢いよく飛んだ。
入れ替わるようにグリーンの閃光が飛び出し、鋼の剣が伸びた。
「これが勇者の剣だ!」
と叫び、クロソーズを突いた。
鋭く伸びた鋼の剣はクロソーズの左手につかまれる。
「お前は剣に関して素人だな? 今、あの強烈な拳でこられていたら負けていたよ」
バッ! とクロソーズは跳躍し――黒い閃光が発生した。
「メテオボムズ!」
一閃された刀から、黒く圧縮された負の塊が雨のようにハッサク達に降り注いだ。
ドドドドドドドッ! という爆発と共に二人は爆発に呑まれた。
シュゥゥ……と煙が立ち上がり、辺りは静かになった。
ハッサクとサタラは床に倒れている。
その姿を見たクロソーズはニッと笑った。
「流石は俺の技だ。床が無数に陥没してしまったな……。早急に直さねば転ぶ危険性がある」
クロソーズは、まだ頂上まで登ってこないヤカサンを呼びに行こうとした。
「? まだ生きて……」
カランッ……と鉄クズの音が後ろからした。
クロソーズは後ろを振り返ると、ハッサクが立ち上がろうとしている。
ゆっくりハッサクが立ち上がり、床に落ちた鋼の剣を背中に収める。
「こいつはちょっと痛いな。やられる前に剣を手放して良かったぜ」
ハッサクは素手になるとチートになる能力を生かし、クロソーズの攻撃に耐えた。
そして、赤い髪を振り乱し立ち上がるサタラの様子がおかしい。
「陥没……陥没って言ったわね……。私の陥没乳首の秘密をどこで知ったかは知らないけど、貴女はもうブッ殺すわ!」