傲慢の英霊・トルネフジ
グリーンのツナギをはたいて歩くハッサクは学校の教室のようなエリアに入る。
まるで現実世界に戻ったかのような錯覚をハッサクは覚える。
傲慢というには案外普通なエリアに拍子抜けした。
白衣を着た研究者のような男であるトルネフジは言う。
「ガーン! ここは学校か! つか、何で教室にいるの俺!?」
「さっさと席に着きなさいハッサク君。赤点にしますよ?」
「お、おう! そりゃ困るぜ……つか、勇者英霊先生の名前は?」
「傲慢の英霊・トルネフジです。では講義を始めましょう」
「やだね」
「さて、では講義を始めよう」
「……だからやだって!」
第三の間の勇者英霊であるトルネフジはハッサクを無視するように講義を始めた。
この第三の間は何故か教室であり、ハッサクはまるで現代に戻ったような錯覚と違和感を感じていた。
「ブレイブワールドの誕生は今から一万年前。宇宙より飛来せしエクスカリバーより始まる。その神秘の力はソードランドに勇者を誕生させ、この世界の安定を保つ存在を生み出した……」
「あのー先生? トルネフジ先生? この講義は戦いとかじゃないよね? てか聞いてる?」
「その聖なる力はやがて闇を集めるキッカケになってしまったのです。それは魔王となり……」
「うん、聞いてないな。だから傲慢なのか。納得だぜ」
傲慢さを貫き、ハッサクの意見はまるで聞こうとしない。
だんだんと混乱するハッサクはこの状況を突破する案を考える。
(ぐぬぬ……こいつはどうすれば攻略出来る? こいつの講義は頭が混乱する……)
学校の授業のような感覚でハッサクは混乱した。
「……この君にとっての異世界の歴史は途方も無く長い。魔王が生まれれば勇者が生まれそれを駆逐する。単純ではあるがその繰り返しの歴史の中で世界は大きく広がり、人間の営みは魔法と人の叡智によってそれぞれのランドに風習として根付き万を数える年月を経てここまで来たのです……Zzz」
「ん? おい、寝るな! 俺が寝てないんだぞ!」
「阿呆ですね。私は寝ていない。瞳を閉じたら意識を失っただけです」
「嘘こけ! お前は……」
「黙りなさい。講義の時間ですよ? それとも追試を受けたいですか?」
「ガーン! 追試はやめてゲロゲロ!」
異世界に来る前に学校のテストで赤点を取り、追試による追試でゲロを吐いた思い出のあるハッサクは頭を抱え過去の映像に酔う。しかし、胸を叩き声を上げる。
「そんなんで俺を混乱させられると思うなよ。単純なバトルでこないなら、お前に合わせて勝ってやるよ」
「私に合わせる? 君も講義でもするのかね?」
「あぁ。俺の過去の歴史ってほどじょねぇが語るぜ。寝たらお前の負けな?」
「……」
アクビをしようとしていたトルネフジは咳をしつつ、勇者の言葉に聞きいる。
ハッサクは自分の今までの人生――そしてそれに対する思いを語り出した。
すると、ガラガラッと教室に一人の黒いセーラー服の黒髪の少女が入って来る。
「クロコ……」
「クロコさんですね? 君も席に着きなさい」
トルネフジに促され、無言のクロコはハッサクの隣に座る。
そして、瞳に涙を微かに溜めるクロコは呟くように言う。
「ごめんなさい。ハッサクの考えを無視してフェイを暗殺しようとしたの……」
頭を下げたまま、クロコは動かない。
そのハッサクの反応を伺うが、ハッサクは瞳を閉じたままだった。
クロコの胃がキリキリと痛み、膝を強く握る。
そして、ハッサクが口を開いた。
「俺の考えを無視して、勝手に行動して失敗とは言語道断だな。簡単に許されと思うなよ」
「……はい」
クロコは頭を下げたまま、返事をした。
頭を下げ続けるクロコの顔を見たハッサクは、
「許されたければ俺のレディとしてこのブレイブワールドの危機を救ってみせろ!」
その言葉を聞いたクロコは頭を上げ、
「分かったわ! 必ず、この世界を救ってみせる!」
ハッサクはクロコの力強い顔を見て微笑んだ。
そして、ハッサクはこのソードランドに来てからの日々を語る。
ザコのレディハンターとしてダンジョンに侵入してから赤魔王サタラとの出会い。
裏ダンジョンの開放からの黒魔王クロコと部下のクロソーズとの戦い。
少しずつ勇者として認知され、数々のソードランドの事件を解決しレディをハントし、ソードランドの人間達はハッサクを勇者として認めるようになった。現実では何もできなかった少年が異世界で得た力を無理に変な方向に使わず、歪まずに成長した。
そして先代勇者のアルトと金魔王ユコレーナの愛を紡いだ戦い――。
殺戮の日々でしかない勇者の日々を、この少年は楽しく過ごしていた。
まるで今までの歴史とは違う少年の光のような明るさにトルネフジは敗北を認めた。
「君の過去の思いはメモしました。どうやら新たな勇者として道を切り開いていけそうですね。魔王と手を組み生活する勇者など言語道断だと思ってましたが、案外大丈夫そうです。時代の変化でしょう。面白いものを見せてもらいました第四の間に向かうといい」
「え? マジで? こんなんでいいの?」
「いいのです。戦いしか手段を選ばなかった勇者であった時の自分と、君は大いに違う。それだけで私は敗北しています」
「センキュー! 俺が勇者の歴史を変えてやるぜ! 行くぞクロコ!」
そして、ハッサクとクロコは手を繋いで第四の間のゲートをくぐった。
そこには、またもやハイレグ女王フェイが待ち構えている。
「どうやらトルネフジまで突破したようね。まさかあの傲慢さを突破するとはやるわね」
「当然だ。クロコも戻ってきたしな」
「黒魔王……生きていたの」
当然よ……とクロコは微笑む。
そして背後にいる赤い髪の魔王をつまんで差し出したフェイは言う。
何故かサタラはトランプを持ったまま半ベソだった。
「貴方達が第三の間にいる時にサタラは私にポーカーで三億負けたから後で払ってもらうわよ」
「ガーン! マジかよ! つか負けすぎ!」
「えへへごめんねハッサ君」
謝るサタラを許すハッサクはフェイを倒せばチャラになると思い、立ち上がる。
そしてフェイは金のマントをなびかせワープを開始しながら言う。
「本当の地獄はこれからよ」
『うっせ! バーカ! おたんこなす!』
「おたんこなすは貴方達でしょうが! ……私は……」
三人同時に言われてキレたフェイは何かを言いかけてワープした。
元の三人の戻るハッサク、サタラ、クロコの三人は第四の間に向かう。