憤怒の英霊ゴルトミー
第一の勇者英霊を突破したハッサクとサタラは第二の空間を歩く。
第二の相手は憤怒の英霊らしく、今度こそは戦闘だろうとハッサクは意気込んだ。
赤土色の洞窟の岩盤には多くの穴が空いている。
ハッサクは敵の気配を探りながら空間全体を見渡す。
「……何だこのモグラが出てきそうな穴は? 隠れてないで出て来やがれ憤怒の勇者英霊!」
「うっせー! すでに貴様の後ろにいるわボケが!」
憤怒を司る勇者英霊ゴルトミーはその名の通りに怒り心頭でブチ切れていた。
青くきらめく逆立つ頭を振り回し、叫ぶ。
「ぶっ殺す! お前の弱さをぶっ殺す! シャーハー!」
「いいねぇ。そうこなくちゃな」
ハッサクはヘッと笑う。
そして、地面に横になるサタラはお腹を抱え呟く。
「お腹いっぱいだから寝る。後、よろしく」
「え? サタラ? もう寝てやがる……まぁ、第一の戦いで頑張ってくれたからいいか。今回は単純にいきそうだしな」
すかさずゴルトミーは蛇のように動き、ハッサクに迫った。
「何が単純だボケー!」
「くっ! 変な動きしやがって! だが、いいねぇ!バトルで来るのは楽でいいぜ!」
「余裕があるのは今の内だけだぜ」
カウンターで蹴り返したハッサクは息を吐いて構え直す。背中のエクスカリバーに手をかけずに勝てる相手だと確信しつつ、ゴルトミーを見据えた。幾度かの攻防があり、ハッサクは言う。
「お前の強さは大体把握した。今の俺には勝てないだろう。憤怒の怒りで攻撃力を上げても無駄だぜ。暴れ過ぎるとこの空間そのものを壊すはめになるだろ?」
「意外に冷静だなボケぇ! そんな事はどうでもいいんだよ! シャーハー!」
「お前がそんなんだから俺が冷静になるのは当たり前だろボケ」
勇者と勇者が激しい戦闘をすると擬似的に作られたこの空間は壊れてしまうだろう。それを懸念してハッサクはゴルトミーに降伏勧告をする。体力の温存を図りたいハッサクの意思は無論無視される。そしてゴルトミーは他の提案をした。
「モグラ叩きを知ってるか?」
ピコピコハンマーを持つゴルトミーを見た。ゲームでの戦闘を望んでいるらしく、ゲームならば簡単に決着がつくと考え投げられたピコピコハンマーを受け取る。
「よっし! モグラ叩きといこうじゃねーか!」
「俺はモグラじゃねぇ!」
「モグラだよ――」
シュン! と動いたハッサクは穴から出現するゴルトミーに一撃をかました。
だが、それは岩壁だった。
「早いな。自分の得意な空間だからか?」
「叩かれてるだけがモグラじゃないんだよ! シャーハー!」
「ぬう!?」
ガスッ! とハッサクは背中にダメージを負う。
「こいつ……気配が無い?」
常に死角をついてくるこのゴルトミーの攻撃に四苦八苦する。
どの穴から出てくるかも予想が出来ず、苦戦した。
「いてて! 足が痺れた!」
「演技してんじゃねーゴラァ!」
「うるせーな。血圧上がるぞ?」
「そうなったらこうだ」
「うへ?」
突如、ハッサクは暗闇に視界を奪われる。
ゴルトミーは空間の明かりを消失させたのであった。
「おいおい……暗闇かよ」
言いつつ火炎魔法で灯りを照らす。
しかしそれは自分の居場所を教える諸刃の剣でもある。
(これに引っかかれば俺の勝ちだぜゴルトミー……)
ハッサクは火炎を灯した場所から離れ、そこに殺到するゴルトミーを始末しようと構えていた。
「ぐはっ!? んだと?」
しかし、火炎の罠にはかからずハッサクは背後を攻撃された。
蛇のように相手の体温を感知して動く為に暗闇でもゴルトミーはこの穴倉を自由自在に動けた。
「俺は相手の体温を感知できるんだよ! そんな俺がこの空間で負けるとでも思うのかボケぇ!」
「なら俺もやってやるぜ。お前の嫌な作戦をな」
「何だと?」
うおおおおおっ! とハッサクは叫びながらゴルトミーのいる無数の穴の中にもぐり込んだ。
その意外な行動に出るハッサクにゴルトミーは驚く。
「俺もこの穴倉を攻めればいいのさ! 待つのは性に合わないからな!」
「ここは俺のテリトリーだ! この穴で俺に勝てるわけがない! ボケがぁ!」
「うっせボケがぁ! 尻を触ってやるぞ! 尻をな!」
その吹っ切れたハッサクにゴルトミーは驚きを隠せない。
「ぬぁんだとぉ!?」
ゴルトミーは相手の恐ろしさで漏らした。
男が男の尻を狙うというのがゴルトミーには信じられなかった。
スピードを上げて逃げるゴルトミーは言う。
「男の尻を追っかけて何が楽しい!?」
「楽しくは無い。お前が驚いて動きが乱れれば俺の勝ちなんだよ」
「確かにそうだ……なら俺はお前の上を行く!」
「穴に上も下もねーだろ?」
「思考の上だボケがぁ! あの寝てる魔王を先に倒してやる!」
バッ! とゴルトミーは自分の穴から中央の空間に飛び出た。
すると、目の前にはグリーンのツナギを着た少年が立っている。
くそー! という顔のゴルトミーは叫ぶ。
「計ったな貴様!」
「おうよ。じゃーなゴルトミー」
ピコピコハンマーにてハッサクはゴルトミーを倒した。
そして目覚めるサタラは赤い粒子の反応を感じた。
「……? ハイレグ女来たよハッサ君」
「そうだな。無駄毛処理は完璧みたいだぜ」
ククク……とワープで現れる女王フェイは第二の勇者英霊を倒したハッサクに言う。
「第二の勇者英霊も倒したようね。中々やるじゃやない。けどこれからは厳しいわよ。新しいおたんこなすもここに来てるからねぇ」
「新しいおたんこなす? 誰の事だ?」
「この場所には勇者と魔王。そしてこの特異体質の私しか入れない場所。ならば誰かはわかるでしょ。足手まといになってもここまで来る根性だけは認めるわ」
「まさかクロコか? あれ、身体が落ちる?」
ハッサクは第三の勇者英霊の間に落ちた。
ほへ? という顔のサタラはハイレグ女を見る。
「罠を仕掛けたのね?」
「一人で戦うのもいいんじゃない? 次の敵に勝てば合流できるわよ」
「へぇ……その前にアナタを倒すわ」
サタラはマグマドラグーンを放った。
しかし、フェイは赤い粒子を残しワープしてしまう。
第三の勇者英霊とはハッサク一人で戦う事になった。