暴食の英霊ミートガイン
暴食の英霊であるミートガインの間にハッサクとサタラはたどり着く。
そこは広い食堂の空間であり、肉汁が滴るような良い香りが二人の鼻腔をくすぐった。
長いテーブルの奥に座る巨漢である暴食の英霊ミートガインは肉まんを食べながら言う。
「ぷくくぅ。我は暴食の勇者英霊ミートガイン。お前がハッサクか。まだ若いな」
「さっき見ただろーがよ。こっから七人も相手にしなきゃなんねーならとっとと戦おうぜ。もう腹ごしらえは済んだだろ」
「まぁ焦るなハッサクよ。戦いが全て拳で解決すると思うなよ」
「何だと?」
さっきからただ肉まんばかりを食べているミートガインに勇者と魔王はおかしい奴だと思った。
その感覚は二人にとって難しい形で現れる事になる。
「この戦いは簡単だ。食うか? 食われるか? それのみ。我の有利な条件だからそっちはどっちかが勝てば、勝利としよう」
「要は大食い勝負か。やったろーじゃねぇか!」
「ハッサクよ。お前が負けたらあの赤髪の魔王は食うぞ。魔力のエネルギーもいいスパイスになるからなぁ」
じろり……と太い指をサタラに指して言う。
ひゃ! と胸を抑えながらサタラは驚く。
すると、テーブルの上に大量の肉まんが現れた。
ミートガインは好物である肉まんで勝負する事にしたのである。
「ルールは互いより多く食う事。そして吐いたら負けだ。いくぞ」
「よっしゃ! 腹は空いてるからけっこーいけるぜ。この肉まんは肉汁がスゲー美味そうでどんどん食えそうだ」
「当然だ。この雅屋の肉まんはミートガインの好物なのだからな。隠し味にりんごを加えているのだ」
「カレーじゃねぇんだからりんご入れても仕方なくね?」
「フン、味オンチめ。あの魔王の肉まんも食ってやるから覚悟しとけ」
「それはさせねーぞ! 俺だってまだ食べてないんだ!」
立ち上がり叫ぶハッサクにサタラは、
「おっぱいは食べ物じゃないよ?」
『すいません……』
何故かミートガインもサタラに誤り、二人の大食いバトルは幕を開けた。
ガガガガガッ! と味を味わう間も無いように二人は大量の肉まんを食う。
両者の勢いはほぼ互角で、ハッサクの善戦にサタラは感心した。
「ハッサくんガンバレー! 私はゆっくり食べるー」
言いつつ、サタラはパクリと肉まんを食べた。
そんなゆっくり食べる余裕も無いハッサクは次第に同じ味に飽きを感じ始め、まだまだ余裕なミートガインに問う。
「おいミートガイン。味を変えてもいいのか?」
「あぁ、構わんよ。あんまんだろうがピザまんだろうが好きにするがいい」
「じゃあピザまんで頼むぜサタラ!」
「あいよー」
シュパ! とサタラは魔法で味をピザまんに変えた。
そしてハッサクの食べるスピードは加速する。
それを横目で見るミートガインは呟く。
「肉まんは肉まんだからこそ美味いのだ。他のまんなど惰弱な者が食べる粗悪品よ」
「うっせ! そんな考えだと視野が狭くなるだけだぜ」
「新しいものが全てを良くするわけではない」
「確かにそうだな。でも人それぞれでいいんじゃね? あんだろうがピザだろうがイチゴだろうがな」
「イチゴが入ってるのはイチゴ大福だろう!」
ズガガガガ! とミートガインは更に肉まんを頬張りハッサクを恫喝するように食らう。
それに呼応するようにハッサクもペースを上げようとするが、流石に胃に限界がきだした。
それを感じるサタラは言う。
「ハッサくん……無理しなくてもいいよ。私達は相棒。だからどちらかが勝てばいいの」
「サタラ……」
一瞬、ハッサクの手が止まる。
しかし、勇者として最後まで諦めるわけにはいかない――。
「だけど男は負けられないんだ!」
二人は最後のデッドヒートになった。
だが、十皿の差をつけられハッサクは敗北する。
「……くそっ」
「ハッサくん……」
善戦するがハッサクは敗北する。
元より勝てる相手では無いのである。
まさかここまで食うとは……とミートガインは驚きを隠せないでいた。
「私はまだあと百は食べれる。時間さえあれば私に勝てる者はいないのさ」
「……そうかよ。でもまだこっちにはサタラがいるぜ?」
「この魔王では勝負になるまい。さて、食らうか」
ミートガインはガバッ! と大口を開けた。
シュオオオッ! と吸い込まれるようにサタラは食べられた。
というより、飲み込まれた。
魔力吸収を目的とした捕食の為、胃に収める事が重要なのである。
呆然と何もせず自分を見つめるハッサクにミートガインは言う。
「……やけに静かだな? 仲間が食べられたのに」
「ん? 信じてるからな。相棒をよ」
「何を言っている。もう魔王は我の魔力の一部にな……何だ!? 腹がおかしいぞ!?」
瞬間、ミートガインの腹に異変が起こる。
しかし、そんな事も想定内であった。
「残念だったな。腹の中なら魔法で攻撃しても無駄だぞ。私の胃は無敵だ」
だが、ハッサクは笑う。
「だからサタラは魔法は使わないぞ。お前の胃の中のモノを食べてるんだからな」
「!? ぬぁ? ぬぁんとぉ!?」
サタラがミートガインの胃の中のモノを食べている事により、ミートガインは急速にパワーを落とし苦しみ出す。確実に弱るミートガインを見つつ、ハッサクは言う。
「どうしたよ? ミートガインさんよ? 顔が青ざめてんぜ? 下した?」
「このっ! くそ勇者がぁ!」
「お前も勇者だろうがよ。元勇者だがな」
そしてミートガインはゲロゲローと嘔吐してしまう。
そこから吐き出されたサタラは服を脱ぎ捨て全裸になる。
「水よサタラを綺麗にしろ! 元から綺麗だけど更にな!」
素早く水系魔法で洗浄したハッサクはサタラの帰還を喜ぶ。いやっぽう! とガッツポーズを決めるサタラはいつもの学生服を魔法で生み出し微笑む。
唖然とするミートガインは呟く。
「まさか魔王に敗北するとはな。本当に今度の勇者は歴代の勇者とは違うようだ……行くがいい。期待してるぞ……」
「おうよ! 俺が勇者の歴史を変えるハッサクだ!」
暴食を司るミートガインに勝利し、ハッサクとサタラは進んだ。
その通路の先には、金のマントに身を包むハイレグ美女が待ち構えていた。
フェイの出現によりハッサクとサタラは警戒する。
「第一の試練はクリアなようね、おたんこなす共。今の戦いは遊びみたいなものね。ここからが本当の地獄よ」
「そーかよハイレグ野郎!」
ハッサクは必殺の拳・ガラガラッドガラガーンを叩き込む。
しかし、フェイはワープして消えた。
近くに転移するフェイは赤い粒子を散らしながら言う。
「私はラスボスよ。まずは後六人の勇者英霊を倒す事。そうすれば私と戦う権利が得られるわ」
「なら出てくんなよ。無駄毛処理でもしてろ」
「私の処理は完璧よおたんこなす!」
キレたフェイはワープして消えた。
ハッサクとサタラは第二の勇者英霊の間にたどり着いた。