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新たなる伝説の勇者の誕生

「ここは……」


 気が付くとハッサクは、金の異次元空間にいた。金魔王の魔力の全てを注いだ脱出不可能の空間であるこの場所はエクスカリバーでなければ切り裂けない。周囲には、千のドラゴンがハッサクを待ち構えていた。


「おいおい……とんだ歓迎だな。エクスカリバーじゃなきゃ出れない空間か……エクスカリバーは現実空間のアルトが持ってるしな。まずはあのドラゴン達を黙らせるしかねーようだ」


 襲い来るドラゴン達を倒してから、ここから脱出する方法を考える事にした。


「行くぜ! ドラゴン共!」


 ハッサクはドラゴンの群れの中で勇者のチートパワーを全開にし暴れ回る。火を吹くドラゴンの攻撃も、鬼神の如きハッサクの前には無意味であった。すでに三十以上のドラゴン達が倒れるが、ハッサクの顔色は優れない。


(俺はエクスカリバーに認められていない……このままじゃ、勇者のチートパワーがあるわけじゃねーアルトがいつまでもつかわからん。この空間で答えを――)


「答えなんかないわよ」


 と、ハッサクの考えを見透かしたかのように一匹のドラゴンが言う。人間の言葉を話すドラゴンに驚いていると、他のドラゴンも金魔王ユコレーナの声で話し出した。


「貴方は本物の勇者じゃない。本物の勇者は剣に魔法に全てに対して万能なの」


「だから、貴方は先代勇者を越えられないまがい物」


「拳だけの、哀れな子供」


 赤いドラゴンに取り囲まれるハッサクはユコレーナの顔に見えるドラゴン達に口撃された。動揺を隠せないハッサクはグリーンのオーラを集中させ、巨大な玉を頭上に生み出す。


「――シャイニングエメラルド・ボム」


 その玉は千のドラゴン達を一気に消し去った。敵が消えて安心し、息をつくハッサクは金の空間を夢遊病者のように歩き出す。すると、目の前の光景はまた同じドラゴン千匹が待ち構えていた。


「……おいおい、今倒したばっかだろ?」


「残念だったわね。ここは私の全魔力を込めて作った空間。エクスカリバーでなければ出られず、永遠にドラゴン達と戦ってもらうわよ。この空間にアルトがいない以上、脱出は無理よ。アハハハッ!」


「……! ユコレーナっ!」


 ハッサクの叫びも虚しく、再度現れたドラゴン達はハッサクに襲いかかった。



 現実世界にいるアルトはユコレーナに招かれ、道を歩いていた。

 金魔王の間の奥にある廊下に出ると、一直線に赤い絨毯が引かれていて道なりに進んだ。

 その先には闘牛場のような広場があり、金髪の魔王がゴールドソードを持ち、たたずんでいた。


「ユコレーナっ!」


 アルトは絨毯の上を駆け抜け、エクスカリバーを構えて決闘上の中に入った。

 床の上は冷たく、血の匂いが鼻につく。ふと、温かいものがアルトを包み込み、何気なく決闘上の上の方を見つめ微笑んだ。

 そして、アルトはユコレーナの前に立つ。


「千年前に犯した俺の罪は償う。だからソードランドを巻き込むのはやめろ。サタラもクロコもお前の娘なんだぞ?」


 聖なる輝きを放つエクスカリバー構えつつ、二人の魔王の父親の遺伝子を持つアルトは言う。


「黙れ、私と貴方は愛しあうはずだった……それを性交ではなく遺伝子だけを与えて私の元を去った。それが私は許せないのよ」


 千年前に勇者アルトは金魔王ユコレーナをハントし、世界の平和を手に入れた証拠として互いの子供を産む事にした。しかし、その行為はユコレーナを死においやる結末となる事を知ったアルトは勇者のチートパワーを使い、二人の子供を産み死ぬはずのユコレーナの命を救った。そして、その時に生まれた次元の狭間から地下迷宮へとユコレーナは姿を消し二人は離れ離れになった。


「俺が死ねば……サタラもクロコも助かるのか?」


 そう言うアルトの問いにユコレーナは答える。


「全ては灰になり、ソードランドは金魔王の城として再生するのよ」


「……ユコレーナ。最後に一つ言っておこう。男は女、女は男としか一つになれないぜ」


「戯言を……」


 心のグラつくユコレーナにエクスカリバーをアルトは繰り出した。すぐさまユコレーナもゴールドソードを繰り出した。かつての恋仲の二人の剣劇はまるでワルツを踊っているかのような攻撃だった。


「もう千年前のことなんて忘れろ! 平和を求めていたのはお前とて同じだろ!?」


「私はあのまま魔王として死ぬ事が望みだったのよ……子供の顔を見て死ねれば永遠の喜びを得られたまま死ねたのに!」


 キィン! キィン! 剣と剣が交差する。


「そんな死に方で喜びが得られるか! 闇にのまれても、力を失っても生き続ければいいんだ。俺が勇者じゃなくても、お前が魔王じゃなくても俺はアルト、お前はユコレーナ。それでいいじゃないか!」


「私は魔王として死に、貴方を勇者としての力を残したままにしたかっただけなのよ! 貴方が中途半端に力を使って次元の狭間で生きながらえてしまった時からずっと、復讐の為だけに私は強い意思で貴方の力の残りを使い生きて来た……無駄な優しさが私を独りにした。ずっと独りだった、この苦しみが解ってたまるものかぁ!」


 ユコレーナがゴールドソードを一閃させた瞬間――。

 アルトの手にあるエクスカリバーが光り輝き、空中に浮かび消えた。そして呆気に取られながらも笑うアルトは斬撃を浴び倒れた。うめき声を上げ、絶対絶対のアルトは言う。


「勝ったぜ。エクスカリバーが俺の手から消えた以上、お前負けだユコレーナ」


「……何を言うかと思えば、バカげた話ね。エクスカリバーが消えた以上、貴方が勇者として認められなくなりこの世界は私のものになるという事よ」


 笑うユコレーナが、ゴールドソード振り上げた時、緑の輝きがその場を包んだ。

 すると、一人の少年が現れた。


「久しぶりだな、アルト。それにユコレーナ」


 聞き覚えのある声が、ユコレーナの耳に届いた。


「……勇者ハッサク」


 黄金結界に閉じ込めたハッサクとの突然の再会に、ユコレーナは立ち尽くした。そして、カランッ! とゴールドソードを落とした。そして真の勇者に覚醒したハッサクはぼろぼろの先代勇者に言う。


「どうしたアルト、イメチェンか?」


「……ほっとけ」


 汚れた金髪をかきアルトは笑う。

 その光景を見つめるユコレーナは怒りをためた。

 グリーンの清浄なオーラを纏うエクスカリバーを持つ少年は歩き出す。

 完全に勇者として覚醒するハッサクの身体からは異様な魔力と、聖なるオーラがあふれ出ている。

 先代勇者は現代勇者の背中を見送る。

 歴戦の伝説の勇者の如き、頼もしき背中を。


「とっとと終わらせろ。みんなの勇者」


 アルトの呟きと共に、千年戦争の最終幕が切って落とされた。

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