金魔王ユコレーナとの戦い
ドラゴンランドの金魔王城が遠くに見える荒野――。
そこには総勢百のドラゴンがハッサクとアルトの前に立ちはだかる。
ハッサクは拳を構え、一気に仕掛けようとするがアルトの手が肩に触れる。
「こいつらは俺がやる。ここでお前に、エクスカリバーの力を見せておいてやる」
シュパッ! と抜いた白き聖剣は光の輝きを発し、ドラゴンの群れを写し出す。グオオオオッ! と鋭利な牙を剥き出しにし、ドラゴン達は襲いかかってくる。そして、ゴクリ……とハッサクが息をのんだ刹那――。
「聖剣よ……千年ぶりに勇者に力を貸せ」
大上段に構えたアルトは一気にエクスカリバーを振り下ろす。
「光よーーーっ!」
世界を照らし出す太陽のような極限の光に辺りは包まれた。あまりの眩しさにハッサクは瞳を閉じ、衝撃に耐える。
「……? これは!」
ハッサクが目を開けると、ドラゴン達は消えて一筋の長い亀裂が地面を切り裂いていた。
「さて、行くぜ。ハッサク」
アルトは特に当たり前の事をしただけだと言わんばかりに歩いて行く。
金ピカの建物である金魔王城内部はものけの空だった。
その為、ハッサクとアルトは一気に金魔王の間にたどり着いた。
金のウェーブがかる髪をかきあげながら、こちらを向いている黄色いワンピースを着た少女がいる。ハッサクとアルトは顔を強張らせると、その少女である金魔王ユコレーナは言った。
「あら、こんばんは。二人の勇者さん」
「お前を倒しに勇者ハッサクが来てやったぜ! 金魔王ユコレーナ!」
ハッサクは軍手をグッ……とはめ直し構えた。口元を歪めながら、ユコレーナは言う。
「流石は拳の勇者ハッサク。最後は拳に頼らざるを得ないわけね。剣でなければ私は倒せないのに」
『!?』
その言葉にハッサクとアルトは焦りを感じた。そして、背中の剣を抜く事をしないハッサクにアルトは言った。
「剣でなくては倒せないなら、このエクスカリバーなら倒せるって事だな。気合いを入れろハッサク。ここで真の勇者にならなきゃ、ソードランドは終わりだ」
その言葉でハッサクは落ち着きを取り戻す。
「言うわねアルト。この戦いは私がこの世界に君臨する為の予行演習みたいなものよ。二人の勇者を倒してね」
「倒せるかどうかはわからんぜ? 腹心共は奇襲にでも備えてるのか?」
「四天王はソードランドを襲いに行ったわよ。ここは私一人で十分だからねぇ」
その通り、この金魔王城とソードランドの中間地点ではソードランド連合軍と四天王達との激戦が繰り広げられていた。しかし、それを予測していた為に、両軍の拮抗は今は互角であった。そしてアルトはエクスカリバーを突き出し言う。
「だが、剣を使えるのは俺だけだぜ?」
「なら、アルトから始末せねばないようね」
そして、二人の会話の蚊帳の外にいるハッサクは勇者として言う。
「おいおい、この勇者ハッサク様を差し置いて話てんじゃねーよ。剣でしか倒せないなら、拳で叩いてから剣でトドメをさせばいいだけだろ? 簡単な事だぜ」
フフッとユコレーナは嗤い、
「剣も魔法も使えない勇者のお前にやられるほど私は弱くない。久しぶりの勇者との戦いだ、楽しませてもらおうか」
両者の間に一瞬の沈黙が流れ――ユコレーナがゴールドソードを抜くと同時に攻撃を仕掛けた。
ハッサクの拳が唸りを上げ、ユコレーナに襲い掛かる。
「くっ、野蛮な拳だわ! だけど剣でなければ私の身体は再生する!」
ユコレーナはハッサク拳を手の平で防ぎながら、アルトの剣を防ぐ。金魔王の鉄壁の力は剣でなければダメージを与えられず、ハッサクの猛烈な拳ではどれだけのダメージも再生してしまう。しかし、剣を使えば全てのパラメーターが下がる為にこの戦いで優位に立つには素手で戦い続けるしかないが、それではアルトのエクスカリバーでしか勝機は得られない。
「ホラホラ、アルトしか私にダメージを与えられないんだからもっと頑張りなさい拳の勇者」
「うるせぇ!」
「ハッサク! 迂闊に攻め過ぎるな――」
エクスカリバーを振るい忠告するが、ハッサクはユコレーナの誘いに乗ってしまった。そして拳ばかり動かしていてガラ空きのハッサクの足を蹴り、そのままひっくり返った。そしてユコレーナのゴールドソードがハッサクの心臓目掛けて迫る――。
「この私はアルトの勇者パワーも得ているから、貴方を殺せない事は無いのよ!」
千年前に勇者の力の一部を得ていたユコレーナはチート状態の勇者を倒せる力があった。左胸に切っ先が刺さる剣を見たハッサクとユコレーナの対照的な顔が、何故か逆転した。
「大事な所が見えているぞ、ユコレーナ」
「えっ、あっ……変態っ!」
水泳大会の時にパンツをはきわすれて帰っていた為、ワンピース姿のユコレーナは秘密の花園が丸見えだった。そしてその隙をつきハッサクは素早く立ち上がり構えた瞬間、ユコレーナの過去の記憶が走馬灯のようによぎりこの戦いに勝つ強い気持ちを思い出させる。
「……勇者などに負けるものかー!」
金色のオーラがブフォ! と展開し、放たれた衝撃波によってハッサクは吹き飛ばされた。
「ユコレーナ!」
アルトは猛攻撃をかけた。鬱陶しそうな顔をしつつユコレーナは攻撃を防ぐが、何発か直撃を喰らった。
「この程度の茶番劇で、私が倒せると思ってるの? すでにエクスカリバーの力の大半を使えない貴方に?」
「それはこの戦いに勝ってから言う事だな。勇者が勝つのはこの世のテンプレだぜ!」
「そう、ならば私も金魔王として本気を出そうかしら……」
ユコレーナはゴールドソードをビッ! と地面に突き刺し自分の胸を揉みつつ呪文を唱え始めた。
「ぷるるん、ぷるるん、ぷるるんにゅ♪」
乳を揉みほぐしながら、最後に乳首をキュッと摘んだ。金色に輝くユコレーナ身体がまばゆい光に包まれていく。シュウゥゥゥ……と金色の輝きが落ち着くと、そこにはSM嬢の姿をしたユコレーナが現れた。それを見たハッサクは呟く。
「……何だその姿は。千年前の魔王だけあって、変な趣味をしている」
「私の趣味じゃないわ。アルトの趣味よ!」
「……」
その瞬間、ハッサクはアルトに疑いの目を向けた。
「ハッサク、男には色々あるだぜ? いずれわかる」
わかるか! と思うハッサクはこの先、どうやって勝つかを考えながらパワーアップしたユコレーナと対峙した。圧倒的な力の前に、二人の勇者は勝つことが遠ざかって行く。
「そろそろクライマックスよ」
二人を翻弄し、高速で動くユコレーナは剣を横一文字に薙いだ。
後ろに跳び下がり、ハッサクは刃を回避した。
「でやっ!」
足で攻撃するが、間合いの取り方が上手い金魔王相手に届かない。
その隙を突き、ユコレーナは堂々たる大上段に刀を構えた。
「ハッサク! 飛べ!」
「? おうよ!」
アルトの声と共に同ハッサクが飛び、同時にユコレーナも飛んだ。
「死ねっ、偽りの勇者よっ!」
ユコレーナの死の一閃がハッサクの頭上に振り下ろされようとした瞬間――。
「なにっ……剣が動かない?」
剣の切っ先が丁度、天井に突き刺さっている。ユコレーナが天井に刺さった剣を抜こうとしていると、アルトが奇襲をかける――。
「覚悟!」
「……黄金結界始動」
というユコレーナの言葉と共に金色の魔力が空間を包み、アルトは吹き飛ばされハッサクは拘束された。今まで魔力を使わなかった金魔王はこの勇者を捕らえる結界を生み出していた。それを直感するアルトは、
「ぐっ……今まで魔法を使わなかったのはこの結界に魔力を使っていたからか」
「気づくのが遅かったわね元勇者さん」
ユコレーナは縛りあげたハッサクに、呪文をかけ始めた。
「ぷるるん、ぷるるん、ぷるるんにゅ♪」
乳首をキュッと両手で摘み、ウインクをした。ユコレーナの瞳から飛ばされた、ハート型のウインクはハッサクの額に叩き込まれ、脳内をヨーグルトと変化させた。
「はうわ~っ……」
ハッサクは天を仰ぎ、目がトロトロになってい る。
「これでハッサクは別次元の結界に閉じ込められるわ。そして、天空戦力がソードランド防衛軍を突破し地上に向かっていくでしょう」
その言葉にハッサクとアルトは驚愕した。
現在、このドラゴンランドとソードランド中間地点では飛翔するドラゴンが地上に向かって多数飛んでいた。戦うサタラやクロコ、クロソーズなどのギルド騎士団も空を飛ぶドラゴンがいるという事を失念していて対処できていなかった。それを思いユコレーナは長いウェーブがかった髪を揺らし微笑む。そしてアルトが呟く。
「ソードシスターズまで中間地点にいる以上、ソードランドの守りがまずいな。このままでは負ける……」
「ソードランドの連中の根性なめんなよ? 勇者なら諦めんなよアルト」
金色の光と共に次元の彼方に消えるハッサクは先代勇者アルトにそう呟き、金魔王の間から消えた。
そして魔力の無い金魔王は元勇者で、恋仲でもあったアルトと剣で激突する――。