ユコレーナ四天王
バーサクをかけられ狂化されたモンスター達を倒した先に金色の温泉があった。その温泉は四十度ほどの人間が入るには適温で、様々な病にも効く神秘の温泉でもあった。
「さーて、温泉にでも浸かろうかな……」
「私は温泉に浸かってるからハッサくんは彼女達を相手にしてね♪」
スルスルと裸になり金の温泉に浸かるサタラの視線の先には四人の少女がいた。その龍を彷彿させる力を出す少女達を見てハッサクは息を呑んだ。
コツーン、コツーン、コツーン。
洞窟の奥のトンネルの中を通り、金の温泉に向かって歩いて来る者の足音が聞こえる。その四人は、勇者と魔王を凝視した。顔を戦闘モードに切り替えるハッサクは言った。
「誰だお前達は?」
『私達はユコレーナ四天王』
赤いドラゴンメイルを装備した四人の少女が殺気を放ち言う。それは金魔王の四人の使者・ユコレーナ四天王。ユコレーナが放った刺客であった。全員がポニーテールであり、規律がある四天王だという事が伺えた。
ユコレーナ四天王
スラーン・ソファ・ハイス・トルミ。
「ユコレーナの奴……まさか奴が金魔王だったのか」
「貴方には死んでもらうわ。ソードランドの正常化の為にね!」
ハッサクはキンッ! と迷宮で得たコインを上空に向かって弾いた。
ヒュルヒュルヒュル……とコインが空中で回転し落下した瞬間、両者の戦いは始まった。
戦闘によって起こる激しい風圧が金の温泉に浸かるサタラの赤い髪を揺らす。
先手を仕掛けたのはハッサク。
荒々しい左蹴りが剣を構えるスラーンを襲う。
「我、守りしは土の愛情」
ズゴッ! とスラーン土砂の防壁を創られ、蹴りは防がれた。ドドドッ! と拳を繰り出し、ハッサクは土砂の防壁を破壊した。スラーンが多少後ろに後退すると、左右からソファとハイスが襲いかかってきた。
「うらぁ!」
ハッサクは地面に拳を叩きつけ、地面を陥没させた。
『……!?』
グラッと両者が地面に足をとられた隙をつき、両手の正拳突きを左右に繰り出し、吹き飛ばした。ズザァとソファとハイスが倒れると同時に、
「我、思うは緑の安らぎ!」
とトルミの疾風魔法がハッサクを襲う。シュパパパッ! とグリーンのツナギが刻まれるが、
「はあっ!」
気合の掛け声で疾風魔法をかき消し、黙らせた。そして、グンッ! と左足で地面を蹴りスラーンに突進し、ガゴッ! とスラーンの胸をハッサクの右足がとらえた。
「がはっ!」
ズゴオオンッ! とドラゴンメイルを砕きながらスラーンは洞窟の壁に激突した。パンパンッと服の汚れを払い、魔法を使ってからただ見物しているトルミに向かって、
「もう攻撃しないのか?」
「これは調査も兼ねてるのよ。勇者の力を計る調査をね」
薄く笑うトルミがそう答えると、倒れていた赤い煙を上げる三人は同時に立ち上がった。三人ともユコレーナのドラゴンパワー影響下にあるらしく、身体の再生能力や攻防能力が向上している。
「なるほど、ドラゴンパワーか。ユコレーナの力の一部だな」
「クククッ、それはどうかな?」
ふうっと息を吐き、ハッサクは後ろに飛んだ。スラーンの火炎魔法からの火線が、雨のように飛んでくる。ドドドドドドッ! と洞窟が火線で蜂の巣のようになっていく。
全ての火線をかわし、片手を地面につけるとソファとハイスが同時に言う。
『我、大地の眠り を呼び覚ます』
ズゴゴゴゴッ! と地面が揺れ始め、ハッサク地面の裂け目に足をとられた。左右には感情の無い殺意の剣を持った、トルミが迫る。
「チッ!」
ドゴン! とハッサクは地面を拳で殴り、土煙を上げた。
「ビリビリ・ビー!」
バチバチッとハッサクのツナギが電撃で刻まれ、
「とどめだ!」
ドスッ!とハッサクの身体を貫いた。
『……』
土煙を手で払いつつ、トルミ達は死骸を確認する。
「これは……」
トルミの剣が刺さったのは、ツナギがかけられた土の塊だった。突如、地面の中からパンツ一丁のハッサクが現れ、
「どりゃーっ!」
ガスッ! ドスッ! とトルミ、ソファ、ハイスに絶望的な一撃を入れ、ノックダウンさせた。そしてハッサクが両手を膝についた瞬間、
「我 、憤怒の魂を持って焼き払うは、悪なる者!」
スラーンはガタガタの地面に立つ、ハッサクに極大火球を放った。
ブオオオオオッ! と燃え盛る火球が地面の盛り上がった土を焼き尽くし、黒くくすんだ土のみが残った。のぼせたような顔のサタラは金の温泉からその光景を眺めている。
「トルミ達のおかげて勇者に隙が出来た。三人とも上出来……?」
何故か右足に違和感があるので見ると、ハッサクがスラーンの足首を地面の中からつかんでいた。
「なっ何っ!?」
「派手な技を使ったら、その後が一番肝心なんだよ。攻撃が終わったら悦に入ってしまったのが、お前の敗因だ!」
ハッサクはスラーンを空中に放り投げ、地面に落下する寸前、流れる滝のようなカカト落としを顔面に決めた。スラーンは気を失った。
指の骨をバキバキ鳴らしつつ、ハッサクは一人立つトルミの方へ進む。
「さて、残りはお前一人だな」
「フッ、流石は勇者のようね。金魔法様のドラゴンパワーの加護を受けてもこうもやられてしまうとは……どうやら、私が排除するしかないようね」
「俺もとっとと温泉に浸かりてーんだ。そろそろサタラなんてのぼせた顔してやがるし」
「ユコレーナ様直伝のこの技を使うしかないようね」
ドラゴンメイルを外しトルミは変な掛け声と共に変身した。
「ぷるるん、ぷるるん、ぷるるんにゅ♪」
乳を揉みほぐしながら、最後に乳首をキュッと摘んだ。快感に揺れるトルミが赤い光に包まれていく。
シュウゥゥゥ……と 赤い光が大気に散り、新選組の衣装を身に纏ったトルミが現れた。それを見たハッサクは、
「何か最後の討ち入りっ! みたいで気合が入るな!」
浅葱色のダンダラ模様の羽織をヒラヒラさせながらトルミは言った。
「貴様に“誠”は無い!」
トルミは口の中から曲芸のように取り出した、日本刀で斬りかかった。キンッ! とハッサクの鋼の剣とトルミの日本刀が火花を上げる。
「スゲーパワーだ! こっちも影ながら剣の練習はしてるんだがな!」
「無駄口が多い!」
ブンッ! とトルミの右足が一閃し、ハッサクの胸部をかすった。
ハッサクはバックステップで後退し、右腕を天にかざすと、
「集まれ、グリーンオーラよ!」
そのかけ声と共にグリーンの自然オーラが鋼の剣に宿る。そして、剣で自分の前に五芒星を斬った。
空間にグリーンの五芒星が浮かびあがり、まばゆい光と共に巨大な緑色の鳥が現れた。
「エメラルドフェニックス!」
緑色の巨大な鳥はハッサクの声に反応し、トルミに突っ込んだ。優しい緑の絶望がトルミを直撃する。
バリリリリッ! と刀で防ごうとするが、
「きゃあああっ!」
エメラルドフェニックスの勢いに飲まれた。その鳥はトルミを喰らうと天高く飛び、消滅した。
ヒュゥゥゥ……ドサッ! トルミは地面に激突した。
まだ、奇跡的に生きていた。
「まだ、息の根があるとは……俺の新必殺技を!」
「そんな事、知らないわよ……」
ボロボロの身体を無理やり立ち上がらせ、「べっ!」と欠けた奥歯を吐いた。トルミはスラーン、ソファ、ハイスの三人に助けられていた。疲弊する三人は肩で息をしつつ、剣をを地面に突き立てた。それを見たハッサクは、
「ほう。戦意喪失か?」
「いーや。その逆よ」
笑うトルミは言うと、胸のサラシの中から小さな箱を取り出して開けた。そのトルミの行為に周りの仲間も驚く。
「そ、そのリングは……まさか!」
ハッサクの驚きを気にせず、トルミその死のリング・デスリングを右手の薬指にはめた。
「うっ!」
ドクンッ――。 心臓の死を向かえるカウントが始まった。そのアイテムの使用を見てしまったハッサクは言った。
「お前……そのリングは死に向かって進むリングだぞ……正気か!?」
「正気じゃなきゃ、勇者に勝てる戦いなんで出来ないでしょう?」
トルミのつけたデスリングは、トルミの生命を蝕んでいった。
その制限時間は十分間。
ハッサクは焦りを感じ、拳にオーラを溜めてガラガラッド・ガラガーンの構えに出た。
「死んでやるわけにはいかねーよ。死ぬ覚悟があるならちゃんと冥土に送ってやるぜ!」
そして、ユコレーナ四天王は四人の力をトルミに集結させて一匹の龍を生み出していた。
『カイザードラゴン!』
放たれた荒れ狂う龍、カイザードラゴンがハッサクを襲う。ハッサクはガラガラッド・ガラガーンを龍の口に突っ込みかき消した。
「よっしゃ! ――なっ!?」
が、眼前に第二射が待っていた。
『消えろ! 勇者!』
ユコレーナ四天王の声が洞窟に響き渡る。動こうとしてるサタラだが、身体に金の模様が浮かび身動きが取れない。
「何コレ? 金魔王の呪い?」
サタラがそう呟いていると、カイザードラゴンはハッサクを包み込む。
「うおおおおっ!」
そして、天高く舞い上がりカイザードラゴンは消滅した。直撃をくらうハッサク無残に、落下してくる。
「終わったか」
ダンダラ羽織を脱いだトルミが誇らしげに、勝ったという顔をした瞬間――。
空中で回転して優雅にハッサクは着地した。
そしてカイザードラゴンのオーラを纏い、ユコレーナ四天王に接近した。
ハッサクはカイザードラゴンの力を、全て吸収したのである。
恐れる四天王のスラーンは逃げ道を確保し、トルミなどは剣を構え、突っ込んだ。
「うおおおっ!」
「はあああっ!」
キンッ! 激しい刀の激突に競り負けたトルミ、ソファ、ハイスはズシャッ! と袈裟切りに斬られた。
血が吹き出る傷口を抑えトルミは、
「まだよ、まだおわらない……」
デスリングをかざし、攻撃しようとするが仲間に止められて意識を失う。スラーンは魔法で扉を具現化させ扉の中に逃げた。
「待てっ! 逃げるのか!」
「ハッサくん……」
「? サタラ?」
ばたり……と温泉の中でサタラは倒れた。
金の温泉はユコレーナの呪いだったのである。
そして、金魔王四天王は姿を消した。