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大水泳大会3

 現在の状況は各レーン共にアンカーが泳いでおり、とりわけ一番と二番レーンはデッドヒートである。その走者、ハッサクとユコレーナは必死に平泳ぎをする。


「腕っぷしの強さだけで平泳ぎが早くなると思うな! 初戦は赤組が戴く!」


「負けてられないのよ! 勇者ごときにはね!」


 ややハッサクがリードしつつ、半分を折り返そうとした瞬間――。


「ぬあっ!?」


 突如、何者かに足を絡み取られ、身動きが取れなくなる。水中に引きずり込まれたハッサクは、水面から姿を消す。


「はははっ! ロボタコ君の恐怖、とくと味わうがいい……」


 チラッとユコレーナは矢倉で審判を務めるクロコを見た。特にクロコは表情を変える事無く、競技を進める。


(反則技を使ってもおとがめ無しか……。それほど、 ハッサクを信頼しているという事だな、黒魔王クロコ……!)


 歯をくいしばり、ユコレーナは泳ぐ。

 その光景を淡々と眺めるクロコは、


「ハッサク。卑怯な手にも勝ってこそ勇者よ。この戦いには自分自身で活路を見い出しなさい」


 そう呟き、クロコはハッサクが沈む水中普及を眺めた。それを見守るサタラは両手を握りしめ、


「ハッサくん……」


「心配すんなサタラちゃん。奴は勇者だぜ」


 スッと現れたアロハシャツ姿のアルトは言い、懐かしそうな瞳で金髪のユコレーナの泳ぎに見とれていた。



(ぐっ……のおっ!)


 ユコレーナの水中ロボ、ロボタコ君に足を絡め取られたハッサクは水中でもがく。

 進もうにも、壁に吸盤を張り付けているロボタコ君を引き剥がす事が出来ない。ロボのくせに笑いつつ、ハッサクを拘束する。


(こうなったら……! )


 足に絡む手を、無理矢理ハッサクは引きちぎった。

 ロボタコ君はすぐさま炭を吐き、他の手をハッサクに伸ばすが、手刀で斬られる。

 そして何故か、ハッサクは動けないロボタコ君に接近した。


『……』


 ハッサクが浮かんでこない水面がロボタコ君の炭によって黒く濁り、観客からは悲鳴の声が上がる。サタラ達は傍観し、水面を見つめる。


「ははっ、初戦は白組の勝ちだ!」


 余裕の笑みを浮かべつつ、ユコレーナはゴールの壁に手をつこうとした。

 殺那――。


「へうっ?」


 突如、胸を何かに押され、ユコレーナはプールの中央普及まで戻される。水中の底には、黒いスジが浮かび上がり、何時の間にかハッサクが一着でゴールしていた。


「第一種目・自由型リレーは第一レーンの赤組キャプテン、ハッサクの勝利です!」


 クロコのマイク放送を聞き、ハッサクはガッツポーズを取る。

 水から上がったハッサクに、クロソーズはタオルを渡し、


「おめでとう。あの状況から良く一番を取れたな。種は何を使ったんだ?」


「ん? ……手品の種はこのロボタコ君だよ」


 身体をタオルで拭きつつ、目が×印になっているロボタコ君を見せつけた。

 水中に引きずりこまれたハッサクがロボタコ君の拘束から脱け出した時――。

 炭を吐いたロボタコ君を見て、閃いたハッサクはロボタコ君を捕獲し、頭を叩いた。

 するとブオッ! と吐かれた炭の勢いで加速したハッサクは、一気にゴール普及まで到達した。だが、腕一本分、壁に届かない。真横にいたユコレーナの胸をグンッ! と押し、その反動でハッサクはゴールにたどり着いた。

 第一種目を終えた参加者は、十五分間の休憩の後、第二種目を行う。

 水面にはただ一人、気絶したユコレーナがプカプカと浮いていた。



 第二種目・借り物競争。

 この種目は、水中にあるボードに書かれた内容の物を、ビーチにいる生徒から探し当てる種目である。ビーチにいる観客は話す事が出来ない為、自身で探し当てないといけない。プールの周りには種目に参加する参加者達が集まる。そして矢倉にいるクロコがピストルを空に向けて構える。


「借り物競争、よーいドン!」


 パァン! とピストルが鳴り、競争が始まった。


「とうっ!」


 ハッサクは勢い良く水中にダイブする。


「次こそは!」


 ユコレーナはそーっと水中に沈んだ。スイスイスイッと腕をかき、底に沈むボードの一枚を拾う。


(……ゴキジェットか)


 左手にボードを抱え、ハッサクは浮上しようとするが――。

 ブンッ! と背後から迫ってきたユコレーナにボードを奪われた。


(何ぃっ!? いちいち、この金髪女は……!)


 驚いた衝撃でゴポゴポッ! と酸素を失いつつユコレーナを追うが、新しいボードを探した方が楽な為、ハッサクはもう一度ボードを拾った。


(今度はスクール水着……! いっ、息が……)


 息が続かなくなったハッサクは、ボードを拾い急いで浮上する。

 一気にビーチの観客の群れに向けて走る。


「ユコレーナはゴキジェットをすでに手にしたか……。クロソーズはどこだ……?」


 水着姿の群れをかき分け、ハッサクはスクール水着のクロソーズを探す。


「いたっ!」


 そのクロソーズはダラバ蟹を抱え、たたずんでいる。走って駆け寄るハッサククロソーズは気づき、


「ハッサクはダラバ蟹か?」


「説明してる暇が無いんで失礼するぜ!」


 問答無用でガバッとクロソーズのスクール水着を脱がせた。すると、観客のギルド騎士団から上官の美しい裸を見て悲鳴の声が上がる。ハッサクは自分のはいていたブルマーをクロソーズにはかせ、矢倉にいるクロコの下へ走る。前を走っているユコレーナは、


「これでも食らえ!」


 プシュー! とハッサクに向かってゴキジェットを噴射した。噴射された霧が拡散し、周りのサタラ達も咳き込む。


「はははっ、さらば!」


 スタタタッ! とユコレーナはウエーブがかる金髪を揺らし矢倉の階段を登り始める。ゴキジェットの霧を脱け出し、ハッサクは二番手で矢倉に登る。


「……つくづく卑怯な手を! くっ、股間がきつくて走りづらい!」


 クロソーズのスクール水着はハッサクには合うサイズに出来ていない為、股間の痛みに耐えつつユコレーナを追う。だが、すでに追い付かない距離である。


「……こうなったら!」


 階段から外壁に飛び移り、ハッサク自慢の筋肉パワーでよじ登る。それを屋上で見つめるクロコは、


「ショートカット……ルール上は何の問題も無いね。さて、どちらが先に着くかしら?」


 そう呟き、一番目の到着者を待つ。


「ぬおおおっ!」


「ゴキ、ゴキ、ゴキジェット!」


 ブオッ! と跳躍し、先にハッサクが屋上に姿を現す。

 殺那――。

 ダイビングヘッドでユコレーナがクロコの足下に滑り込んだ。


「……無様な姿を晒したが、同着か。一敗、一分け。次勝っても同率になるだけか」


「いや、それはどうかな?」


 クロコが言うと、バリバリバリ! とハッサクの水着が破れた。

 筋肉を全快にしたハッサクの身体に、水着が耐えきれなかったのである。全裸になってしまったハッサクは、両手で股間を隠す。


『キャーーッ!』


 と観客のレディとクロソーズから歓喜の悲鳴が上がり、会場は沸き上がる。そして三本の指で十分に股間を隠すハッサクはある考えにたどり着いた。


「水着が破れた……まさか結果は!?」


 フッとハッサクを見て笑ったクロコは、


「第二種目・借り物競争勝者は、海白組リーダー・ユコレーナ!」


 とユコレーナの腕を握り、高々と掲げる。艶やかな金髪を揺らし、ユコレーナは喜びの表情を浮かべる。肩を落とすハッサクの下に近づいたサタラは、


「あの瞬間に水着が破れるとは、残念だったねハッサくん。それと、股間には映像だとモザイクが入ってるから安心していいよ。私のモザイクももう百を超えてるし♪」


 映像係のデータを見ると、ハッサクのインゲンサイズの股間にはモザイクがかかっており、会場のモニターで流す振り返り映像には修正されたものが流れていた。それを見て安心したハッサクは、競技の結果について考え込む。


「ガーン! 敗北か……だが、まだもう試合ある! マッスロ!」


 グッ!  とハッサクはマッスルポーズをとり、気合いを入れた。そしてサタラは呟く。


「ハッサくん、ワカメが一本生えてるから抜いてあげよう」


「痛っ! なんだサタラ?」


「ワカメが生えてたから抜いてだげたの!」


「ガーン! それ、大人の証のチン毛だよー!」


「私、生えてないからハッサくんにもいらないでしょ♪」


「そーゆー問題じゃねー!」


 ハッサクはやっと生えてきた一本のチン毛を、抜かれると一時間の休憩タイムとなった。





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