夏先取り・大水泳大会!
サタラがロリババアの毒から復帰した一週間後の夕方。
クロコ魔法研究所では――。
「いやー、今日は大変だったわね。つい魔法研究を頑張り過ぎてしまったわ」
肩を叩きながら黒いイスに座り、笑いながらクロコが言う。
「今日は朝までニャモ達をいじり倒していたから仕方ないね」
サタラはチータラを食べながらマンガを読んでいる。
どんな魔法研究だとハッサクは「ははは……」と笑いつつ、頭をかく。
クロコの入れた紅茶を飲みつつハッサクは、窓の外の景色を見た。すると、からくさ模様の大風呂敷を背中に背負った金髪の少女が歩いてくるのが見えた。
その髪の短い少女は、後から同じ大風呂敷を担いでついてくる、赤い髪と青い髪の少女に何か言っている。
「……ん、あれって……猫隠れの忍?」
バッ! とハッサクは窓から身を乗り出し、見た。人間姿のニャモの後ろをウニとシイタケがついてくる。
「クロコ、猫隠れの忍が来てるぜ?」
「ん、そう。では、彼女等を出迎えてやって。これからのイベントに必要な人材だから」
カタッとティーカップを受け皿におき、クロコは倉庫の方へ向かう。
ハッサクとサタラは、猫隠れの連中を迎えに行った。
「おー、久しぶりだな猫隠れの忍達。久しぶりだからで自己紹介を頼むぜ」
『へ?』
という顔をした三人組みは、ハッサクに言われしぶしぶ金、赤、青の順番で挨拶を始める。
「えー、私が猫隠れの忍首領・猫乃ニャモです。好きな物は時計です。後はアジの開きです」
「同じく、猫乃ウニです。好きな食べ物はお茶付けです。ここ数日、胃が痛いです」
「同じく、猫乃シイタケです。好きな椎茸は、ぶなしめじです」
各自の挨拶が終わり、ハッサクは奥の倉庫に連れて行く。クロコはニャモ達と共に倉庫を整理する。
「……それは、そこ。これは、奥の右の棚ね。ニャモは埃をかぶった物を全て綺麗にするように」
倉庫の中をあちらこちら指差し、猫隠れの連中に指示を出していく。
ハッサクとサタラは、棚の埃を雑巾で拭き取る。そして、浮き輪やホース、水中メガネやビート板などのプール用品の手入れになる。やがて、猫隠れの連中が運んできた一便が倉庫の中に収まり、一息つく事にした。そして倉庫整理をしている内に陽が暮れていき、ハッサク達も自室に戻り、ぐっすりと寝た。
※
翌朝早朝5時。
ハッサクは無論、眠りの中にいる。
東の空から朝陽が微妙に登り始めると同時に、窓の外から何やら声が聞こえ始める。
「一、二、三、四、五ー六、七、八……」
猫の姿のまま、ニャモ達はラジオ体操をしている。
窓を開けて寝ていたハッサクの耳にも、ラジオ体操をしている音が聞こえてくる。
「……ん、何の音だ?」
はっきりしない意識の中、起き上がり窓の外を見た。
寝ぼけ眼にニャモ達が ラジオ体操をする姿が映った。
「……こんな朝早くからラジオ体操か。猫の朝は早いのかな?」
そんな事を思いつつサタラがいつも通り素っ裸で寝ている布団にまた戻ろうとしたハッサクに一瞬で目が覚める事態が起こる。
突如、ザッブーン! とあり得ない大津波が発生し、ラジオ体操をしているニャモ達を飲み込んだ。
『ニャーー!?』
流される三匹の猫を、ハッサクは見つめる。
すると、大津波の最後の方にサーフボードに乗った黒いスクール水着スクールのクロコが現れた。
「クンクン! どうハッサク? これが新発明のウェイブライダーよ!」
言いつつ、鼻を気持ちよくヒクヒクさせるクロコは波から降り、地面に着地した。水が引いた地面には、ニャモ達が伸びている。
ハッサクは寝間着姿のまま、裏庭に向かった。
「クロコ、どうやってあんな津波を起こしたんだ? この裏庭には 水場は無いし……」
「残念ながら、それは企業秘密よ。この、夏先取りのウェイブライダーには、様々な最新鋭の仕掛けがしてあの。このイベントを成功させて研究資金をたんまり手に入れてやるわよ……」
「夏のイベントか。いいぜ! ハーレム夏パーティだな!」
ハッサクは現世での夏シーズンの海水浴やプールで戯れるギャル達を思い出し興奮した。水着でのイベントはポロリなどのハプニングもあり楽しそうである。
「という訳で、ソードランドの全員を集めて、大水泳大会を行うわよ!」
「えぇー!? 嬉しいが、でも俺カナヅチだぜ?」
するとクロコは聞こえないフリをし、ウェイブライダーのエンジンをかけ、ホバー機能を使い、機体を浮かばせる。
「すでに中央広場でソードシスターズやクロソーズが会場の設置に取りかかっているから、行ってあげて」
言うと、ウェイブライダーのアクセルを回し、何処かへ走り去った。
「……俺、カナヅチなのに。でも頑張るしかないな……。てか、チートなら泳げるだろ! よし、とりあえず中央広場へ急行しよう」
ハッサクはピクピクッ……伸びているニャモ達を介抱し、裸のサタラに服を着せて一緒に大水中運動会が行われる中央広場に向かった。
※
中央広場はすでにクロソーズとソードシスターズの色香に惑わされる男達の頑張りで基礎的な会場工事は済んでおり、後は細かい所を工事するといった具合だった。会場事態は、中央のプールに水が貯まっていて全方位がビーチのようになっている。ハッサク達は、クロソーズの指示の下、会場工事作業に取りかかっていた。
「……ここはこれで良し。次は……ん?」
ふと、人の気配を感じたハッサクは振り返った。
すると、髪の長い黄色いワンピースを着た金髪の少女がハッサクを見つめていた。
『……』
だが、目が合った瞬間、その少女は風と共に消えた。そこにいるクロソーズは言う。
「ハッサク、どうした?」
「何かこの会場を見に来てた人がいて、振り返ったらいなくなったんだよ」
後ろに現れたクロソーズにハッサクは答える。
「すでに告知済みのこのイベントを楽しみにしている住人は多いからな。それより、そろそろ休憩するぞ。猫隠れの連中も呼んで来い、猫の状態でな」
「おうよ」
ハッサクはニャモ達を呼びに行き、そのままで昼食を取った。
※
夕方。陽が暮れるまで作業していたハッサクは、大水泳大会作業者専用露天風呂でシャワーを浴びていた。サァァァ……と体の泡を洗い流し、湯船に浸かる。
「……ふうっ、温まる。ん、何だ?」
ふと、尻に違和感を覚え、ハッサクは立ち上がる。
すると、金髪の髪の長い少女がプカッと……浮かび 上がってきた。
「こ、この人は誰だ!?」
驚いたハッサクは、湯船に浮かぶ少女を見つめる。
「嫌な魔力を感じるわ……ハッサク?」
すると、ガラガラッと扉が開き、クロコが露天風呂に入ってきた。ここ男湯だよな? と思うハッサクはすぐさま状況を説明し、二人は金髪の細身の謎の少女を医務室まで運んだ。




