ロリババア回避作戦始動
深夜――アルトアパートの屋上。
ハッサクは冷たい地べたに横になりながら星空を見上げていた。
目に映る、星の輝きはハッサクの全身を刺激した。
宇宙には、光輝くものがたくさんある。
(……)
ハッサクは今日のファイレアーカとの戦いを思い出す。
この世界ソードランドは剣が勇者の証と言われているから拳の勇者という邪道な勇者として覚醒したハッサクは次第に剣を使えるようになりたくなっていた。その欲がファイレアーカ戦の最後でサタラを毒にしてしまった。そして、明日は毒を解除するキアリー草をクロコと共に取りに行く予定だった。
グッと天に突き出した拳を星々にぶつけるような気持ちで叫ぶ。
「なんで俺は剣の勇者じゃないんだ! これじゃ、いつまで経ってもソードランドの人間は俺を認めない! それじゃ、現世にいた時と同じ何も出来ない子供じゃないか! 俺は勇者だ……チートパワーがある無敵の勇者だぞ! 星々よ! 聞こえてるなら力を貸せ! お前も、お前も、お前も、お前もだ!」
無言のまま闇夜にきらめく星々に対してハッサクは叫んだ。少し荒れた呼吸を整え、もう一度宇宙を見た。その宇宙に輝く星達は、世界でハッサクだけに微笑む事は無い。
すると、屋上の出入口に黒いセーラー服の少女が現れた。ハッサクは立ち上がり、床に置いてある剣を手に取る。
「明日は毒草に向けての旅よ。早く寝なさい。サタラがシワシワのロリババアになってしまうわよ」
「わーってるよ。ちょっと熱くなる気持ちを沈めてただけだ」
そう言うハッサクの手にある鋼の剣をクロコは鋭利な瞳で見つめた。
剣を使った事によりサタラが毒を浴びたにも関わらず、ハッサクは今回も剣を持って行くようだ。
「その手にあるものは、今回出番はあるのかしら?」
「今回は剣は使わない。だけど剣は勇者としてのステータスだ。勇者は剣を持ってこそ勇者。これは勇者として譲れない」
「今回は重要な目的があるわ。失敗は許されない。それでも持っていくの?」
「あぁ」
その言葉にクロコはため息をついた。
強いこだわりを見せるハッサクにクロコは刺すように言う。
「貴方はチートでも私達はチートじゃないのよ」
冷ややかに言うクロコはメテオレインの黒球を頭上に展開した。剣を持って行くのを許されないようなクロコの姿勢にハッサクは息を呑む。だが、その剣を持つ手には強い意志が込められていた。
「俺は勇者だ。今回も次も、その次も剣を持って行く。それは変わりのない事実だ」
「その驕りがこの現状よ? 本当にわかってるの?」
「あぁ。わかってる。だが、勇者として生きるうえで剣は捨てられない。勇者の剣は人の希望だからだ」
「……」
熱い瞳のハッサクにクロコは頭上に浮かぶメテオレインを消した。
「そう。その言葉がなければ私は貴方を殺していたかもしれないわ。一度の失敗くらいでめげるんじゃないわよ」
剣を抜くハッサクはその切っ先を天に掲げ、全ての星々に向かって言う。
「俺がソードランドの真の勇者にならなくてどーするよ」
そして、翌日になり二人は地下迷宮へとキアリー草を取りに向かった。
モンスターボンバーランド。
キアリー草がある場所は大量のモンスターが生息しており、目の前は獰猛なモンスターとモンスターがごった返す争乱だった――。
唖然とするハッサクは雨が降り始めた中、武器を持って戦うゴブリンとオーガの戦う光景を傍観者のように見ていた。このエリアには各種の毒消し草が手に入るが常にモンスター達が大量で争っている点が敬遠される場所でもあった。黒髪を後ろに散らすクロコは言う。
「結構激しい戦いだわね。このキアリー草捕獲作戦は案外険しい道のりなのかもね」
「なーに、たいした時間もかけずにサタラの毒は解いてやるさ」
バッ! とハッサクはモンスター達が争う渦中に特攻し三体を倒す。真横にいたゴブリンとオーガに距離を取り拳を構える。このエリアには三百近くのモンスターがいる為に、それらを全て倒さないと毒消し草などを捜索している余裕は無いので敵は全て倒す必要があった。
「ガラガラッド・ガラガーン!」
ブフォ! と十体のモンスターが飛んだ。しかし、背後には群れをなすゴブリンがハッサクに迫り、それをジャンプして回避した。
「うおっ!?」
しかし、倒れたオーガの上に居た為にバランスを崩す。すかさずクロコが動き、ハッサクの身体を支えた。
「今回は乱戦よ。背中は私に任せて貴方は思いっきりやりなさい」
「センキュー! こんな状況じゃ好き勝手やんないとやってらんねーぜ!」
うらあああっ! という掛け声と共にハッサクは争乱の群集に紛れた。そのハッサクをサタラは魔法で援護する。勇者と黒魔王は躍動し、勢いを増す雨 が争乱の混乱を煽る――。
その時刻、ロリババアの毒を受けるサタラはカップラーメンを食べながら、アパートの室内に居た。
天井のランプ一つの薄暗い部屋に収まる赤い髪の少女には、哀愁のような空気が漂っていた。ズズーッと麺を食べ尽くし、ドンッ! と投げやりに机の上に置いた。ピピッと机の上に赤く異様な液体が溢れる。大きく溜息をつき、天井のくすんだランプを見据え、赤い髪を撫でた。
「ううっ……ロリババアの毒は苦しくは無いけど気分的に嫌ね。あー、おっぱいが小さくなってきた! 早くハッサくんとクロコがキアリー草とってきてくれますよーに♪」
サタラは酷い鼻歌を歌いながら二人の迷宮探索者の帰りを待った。