表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/66

炎の阿修羅

 タッタッタッタッタッ。

 ハッサクとサタラは螺旋階段をひたすら上に登っていく。

 タオルを首に巻き、ブリーフ姿のハッサクはビキニからこぼれ落ちそうに乳を揺らすサタラと共に上をめざす。城の中間あたりまで登ると一つの扉があり、


「うっしゃ!開けるぜ!」


 ハッサクは赤い扉をゴゴゴッと開けた。中はがらんとして、何も無い空間が広がっている。

 ファイレアーカの居場所から近いせいか少し暑くなりだし、ポタッと床に落ちたハッサクの汗が、一瞬で気体に変わる。その気体の色が次第に紫色に変わり――。


「ぐっ! がはっ……!」


 突如、酷い吐き気とめまいがし、辺りを見回した。


「どうした、サタラ?」


「この床から紫 の煙が立ち上っているのよ……。この煙……危険だわ」


 タオルを口と鼻に当てつつ、サタラは答えた。すると、流れるハッサクの汗とサタラの汗が原因で床から発生するいう事がわかった。


「……この霧は毒よ。この毒の成分は汗……つまり私達のかいた汗を原料にして、この毒霧は発生しているトラップね」


「何だと……!」


 ブンッ! ブンッ! とハッサクはタオルで毒霧を払うが、部屋自体が高温の為更に汗をかき、毒霧を発生させてしまう。


「とにかく、走り抜けるぞ。早くファイレを倒せばいいだけの話だ」


「そうもいかないみたいよハッサくん」


「? 何故――!?」


 すると、タオルで払った毒霧がいつの間にか集合し、紫色の炎の魔人が生み出された。


「不味いな……。あいつは私に任せて、先に上に向かって! 魔王である私の方が毒の耐性があるわ」


「悪いなサタラ。先に上に行ってるぜ」


 そう言って、ハッサクは 上の階へ向かった。

 紫色の炎の魔人は、横を通り過ぎるハッサクを気にせず、


紫炎しえんッ……紫炎ッ……」


 と、自分の名前のうめき声を上げている。

 サタラはフレイムソードを構え、斬りかかった。ザンッ! ザンッ! ザンッ! とビームソードの刃は紫炎の体をとらえるが、スカッ! スカッ! とすり抜けてしまう。


(どういう事?刃が通じないんじゃなくすり抜けてる……)


 じりっじりっと紫炎は、


「紫炎ッ……紫炎ッ……!」


 うめき声を強め、接近してくる。


「こいつ……」


 汗を流すサタラが下段に構えを取った、刹那――。


「グオオオオオ!」


 のらりくらりと歩いて来た紫炎が、物凄い勢いで襲い掛かってきた。


「ちょ! 早漏ね!」


 チッと紫炎の手がサタラの顔に触れた。そして、触れられた箇所が紫色に変色した。


「毒を直接体内に染み込ませるせるのか……厄介だわ」


 赤い髪を揺らすサタラは毒を浴びた顔に触れつつ、紫炎の攻撃を何とかかわす。サッ! サッ! サッ! 紫炎は素早い動きで、サタラを追い詰めていく。壁際に追い詰められたサタラは、ガシッ! と紫炎に抱きしめられた。


「コラ! 私はハッサくんに童貞を捧げるんだから……あれ? 童貞じゃなくて処女だっけ? 暑くて頭が回らないわ……」


 朦朧とする意識のサタラはジワッ、ジワッ……と体が紫色に侵されていく。


「このおっ!」


 カッ! と目を見開くサタラは右手に持つアイテム・フリーズドライのを炸裂させた。シュプアッ! と紫炎の左腕周辺が固体と化し、ブンッ! ともう一本のフレイムソードで紫炎の腕を斬り払った。ドスッ! と左腕が落ち、溶けて消滅した。


「グオオオオオ!」


 左腕を失ったが特に変化は無く、 サタラに襲い掛かる。


(フリーズドライはもう無い。どうする……)


 紫炎の攻撃を回避しつつ、次の作戦を考えたが、ガゴッ! と、うかつにも転んでしまった。


「紫炎ッ……シエェェェンッ……!」


 紫炎は絶叫を上げながら、うつぶせのサタラに肉薄する。後ろから紫炎が抱き付こうとした瞬間――。


「イントゥザウィンド――」


 突如、サタラの身体から疾風が発生し空間を呑み込んだ。それは風を生み出す結界型疾風魔法で紫炎の身体の中央にある魔力の核が見えた。それをサタラは掴み、炎を注ぎ込む。


「はあああああっ!」


「シエ……ン……」


「この魔力核が壊れれば貴方は終わり。私の体内にある更に濃縮された毒ごと炎と一緒に注ぎ込んでやるわよ。では、サラバッ!」


 パリンッ! と核が壊れ紫炎はやがて消滅した。

 


 炎の城最上階・炎神の間

 ファイレアーカの座る、炎の形をした椅子の左右にかがり火が焚かれているだけの殺風景な部屋である。炎の形に模られた三百六十度に展開された窓を、ハッサクは不気味に思った。

 かがり火の中央にいる、紅い鎧を纏った逆髪の男がハッサクを見据えている。


「ハッハーッ! ようやく到着か! 待ちくたびれたぜェ勇者!」


 逆立った黒い髪をグッと押し上げ、椅子から立ち上がった。


「ギャーギャーうるせーぞ青二才。テメーのほうき頭を角刈りにすんぞ!」


 ハッサクは一歩前に出て、ブンッ! とビニール袋をファイレの頭上に投げた。


「みあげ物……じゃねーな」


 中間から先端が螺旋の形状をしたまがまがしい槍、アーカスピアでファイレはビニール袋を切り裂いた。ブシュァ! と袋から白い固形の物体が飛び散り、部屋の中に散乱して白い湯気を上げた。


「ドライアイスねェ……。これからもっと熱くなるのに、シラケる事するんじゃねーよ!」


 ブウンッ! とハッサクの眼前に、アーカスピアの穂先が突きつけられた。まばたき一つせず、ハッサクはファイレを見つめる。


「噂を聞いた限りでは今度の勇者は剣を使えないがかなりの曲者と思っていたが、そうでもないようだな?」


「それはどうだろうな?」


 ハッサクは鋼の剣でアーカスピアをはたいた。

 そして、柄の水色のボタンを押し、フリーズドライの冷却装置を作動させた。

 ブルルルルッ!と鋼の剣の先から冷気が漏れる。


「フリーズソード!」


 ブフォ! とハッサクはホースから勢い良く出る水の如く、冷気を放った。ファイレはそれを左手で受け止めたが、カチカチカチッ……と左腕が白く凍結した。


「ほう……剣を使えるのか。なら多少は楽しめそうだな。えぇ! 勇者ハッサクよォッ!」


 グッ! と左手に力を入れ、凍りついた左手を開放し、アーカスピアを繰り出した。ギュインッ! と高速の螺旋状のスピアを、フリーズソードで受け止める。が、ガスッ! とファイレの右足がハッサクの左脇腹をとらえた。


「ぐっ……! のおっ!」


 ファイレの顔面にフリーズソードを叩き込む。シュパッ! とファイレの顔面は白く染まり、凍りついた刹那――。

 ドスッ!とアーカスピアがハッサクの左肩を貫いた。

 じゅわっと肩が血で染まっていく。


「ぐあああああっ!」


 左肩を押さえ、ハッサクはうずくまる。


「つまんねー攻撃ばかりしてんじゃねーよ! ハッハーッ!」


 右手でガシガシッ! と顔面をこすり、氷を払った。そして、ガスッ! とハッサクの左肩を踏み潰し、ファイレは高笑いを上げた。


「――!?」


 瞬間、ファイレの鼻から血が吹き出た。ハッサクは剣を手放し、拳で殴りかかったのである。そして、また剣を取った。それを見たファイレは鼻から流れる血を拭わずに笑う。


「ハッハッー! 千年ぶりに現れた勇者は剣も魔法も使えないのは本当かァ。だが拳だとチート……拳で来いよ。今の一撃は目にも止まらなかったぜェ……」


 新しい強敵に満足するファイレは全身から炎を上げてハッサクに襲いかかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ