盗賊ファイレアーカ
ソードランド西地区の郊外・炎の城。
その頂上にあるファイレアーカの炎神の間。
この城はソードランドからはじき出された盗賊ファイレが作り上げた城だった。
地下迷宮や地上世界において数々の悪行を重ねたファイレはソードランドから放逐され、外の世界で生きるしかなくなった。しかし、外の世界にはよほど遠くに行かなければ何も存在しない為に西地区の郊外の城を建造してファイレは密かに迷宮探索などもしていた。その探索で得たクリスタルや財宝を売り、外にはびこる悪人を始末しながらファイレは外の世界でも生きながらえ再起を図っていた。
現在、ハッサクの花火の直撃を受けた炎神二人衆は、炎の城に戻ってきていた。
「すみませんファイレ様。最近、地下迷宮で暴れまわっている、ハッサクという勇者の始末をしに行ったのですが、失敗しました……罰をお与え下さい」
「フレオ姉さんだけの失敗ではありません。メテアにも罰をお与え下さい」
炎神二人衆は炎の形をした椅子に座るファイレアーカに、作戦失敗の報告をしていた。
逆立つ炎のような黒い髪がこの男の荒々しさを表現するようになびいている。
「ハッハー! お前等を倒すなんざ、中々の使い手だなァ。では罰として、俺の肩を揉めッ!」
『かしこまりました。ファイレ様』
ファイレの背後に移動し、左をフレオ、右がメテアが揉んだ。
その時、炎神の間の窓に花火が映った。
「ハッハー! あの空を見てみろ。ちゃちな火花が散る空をな」
ファイレは指で東地区の空を指した。
東地区の空には、炎神二人衆がくらった花火が上がっている。
二人は互いに目を細め、自分の左胸に手を当てた。
フレオとメテアの左胸には、生命活性化の炎の結晶の欠片が埋め込まれている。
西地区郊外に迷い込んで来た瀕死の姉妹に、一人盗賊ファイレは炎の結晶の欠片を埋め込んだ。
炎の結晶とはファイレの意思と力を宿した結晶でもある。
その力に耐える意思、覚悟が無ければ燃え尽き死ぬ。
姉妹はファイレの洗礼に耐え、力を手にした。
その恩義に報いる為、フレオとメテアはファイレに忠誠を誓っている。
(フレオ姉さん。左胸に触れる力が強すぎる)
(……あっ、あぶない、あぶない)
ハッサクとの戦いの時は豊かな巨乳だったが、何故か今はペッタンコである。
妹のメテアは本物の巨乳だが、姉のフレオは貧乳の為に色々と詰め込んで巨乳に見せていた。
それを姉妹はヒソヒソ声で話した。
その間、ファイレは炎の塔の屋上に出ていた。
荒々しい炎が渦巻く右手に炎の魔力を収束させ――。
「ハッハーーーーーーーッ!」
空の星々を燃やすように炎の塔の上空に炎を放った。
※
「コレが、炎の城の見取り図よ」
ハッサクのアパートに来たクロコに敵城である炎の城の見取り図を渡された。
それを見ながら、各階の構造を今回の相棒であるクロコと共に頭に叩き込む。
「だいぶ詳しい見取り図だけど、よく手に入ったな?」
「えぇ、ニャモ達に偵察させて手に入れた物よ。炎の城は特別に警戒兵もいないから、中に入るのは容易い。問題は内部ね」
「やっぱニャモとか奴隷扱いか……。で、内部がやばいのか?」
「そう、あの城の内部は気温四十度の灼熱地獄よ」
腕組をするクロコが答えた。
ファイレアーカのいる城は炎の魔力によって包まれていて常に気温が四十度あり、普通の人間では近づく事もできない城だった。故に、ギルド騎士団も盗賊団討伐に乗り出すのは難しい現状があった。しかし、チートな勇者ならばこの炎の城も突破できる力がある。
「……そんなこんなでサタラは大丈夫でしょうが、貴方は水着でも着ていかないと厳しいんじゃない?」
「確かに私は炎の魔力の属性だから大丈夫! でも水着で行こうかな? お揃いの方が目立つしね♪」
「二人共裸で行けばいいんじゃない?」
「あ! それが涼しくていいね♪」
「フルチンで行けるか!」
ハッサクがそうツッコむとクロコはイスから立ち上がる。
そして見取り図をツナギのポケットにしまった。
「じゃあ、行ってくるから。あんまりニャモ達をこき使うなよ。あれはアルトギルドのバイトが基本なんだからな」
「えぇ、わかってるわよ。武運を」
今回、クロコは魔法研究の為に同行しない。
新しい魔法や機械などの研究に没頭し出しているクロコはこのソードランドの過去について調べている。クロコはハッサクのアパートを出た。
そして、炎の城の攻略にとりかかる準備をするサタラは水着を魔力で生み出しどれを着るか悩んでいた。ハッサクは庭で鋼の剣を取り出し柄に細工をしていた。
「……ここまではいいな。後は、冷気をどう持続させるかだな……」
そう呟き思案していると、
「ねぇハッサくん? こんな水着どう?」
「! 何だそのV型水着は!?」
「勝利のヴィクトリーのVだよ♪」
サタラはV字型の乳首と股間しか隠れない赤い水着を着ていた。
そしてハッサクは赤い布を渡される。
「……ってコレふんどしじゃねーか! これじゃ、はみでちまうよ!」
「小さいから大丈夫だよ♪ インゲンだし♪」
「確かにそうだよな。俺のサイズは短いインゲンで……っていいわけあるか!」
ハッサクは新しい水着を作るように指示をした。
そして、立てかけてあった鋼の剣の調整を始めた。
元の赤い学生服姿に戻るサタラは、
「ごめん、ごめん。……で、それは何してんの?」
「柄に冷気の魔力があるアイテム・フリーズドライを取り付けてるんだ」
「冷却装置か……。それでファイレの弱点をつくのね。いいアイデアかも」
ハッサクは水色の冷却アイテム・フリーズドライを鋼の剣の柄に取り付けた。
これにより伝わる冷気の魔力で鋼の剣はフリーズソードになる。
そして、二人は各々の準備を終えた。
※
ハッサクはグリーンの鍵を回し、アルトに借りたバイクのエンジンをかけた。
炎の城に向かう二人は水着を着ている。
白いブリーフ型の水着がハッサク。
赤いビキニ型の水着がサタラ。
「……やっぱサタラこれブリーフじゃない? 防水加工があるだけでブリー……」
「それは水着です。ただの水着なのです」
水着作りで魔力を消耗したサタラは胸をFカップからCカップまでへこませている為、もう魔力を使いたくないからハッサクの言葉を無視する。まーいいか……と思うハッサクは、
「さて、予定は明日だったけど、祭り騒ぎの勢いで炎の城にいっちゃいますかね。あの盗賊達にはみんな困ってるみたいだし」
「まさかソードランドの郊外にそんな城があるなんてね。しかも盗賊だなんて!」
「ハハッ、盗賊なんてチャチャッと俺様の剣技で倒してやるぜ! 地上の戦いだからって気負うなよサタラ!」
「とーぜんでしょ!」
意気込む二人はバイクにまたがると、
『ハッサク! ハッサク! ハッサク! ハッサク!』
打ち上がった花火を見に来て残っていた東地区の一部の住人達と、ギルドの店長アルトを中心に、一斉にハッサクの名を叫び始めた。その声に押され、フルスロットルで夜のバクーフ商店街を疾走した。
「死なないでね、ハッサク……」
ハッサクのアパートの屋上で見つめていたクロコは呟いた。
一台のバイクは闇の中を、西地区郊外に向けて一直線に走っていく。
ブオオオオオオッ! と炎の城の上空にはハッサクを待ち構えるかの如く、一本の火柱が上がっていた。ハッサクは敵の誘いに心が躍り、炎が空に伸びる塔へバイクを加速させた。