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変化する身体と心

 猫隠れの天空城から帰還したハッサクはハントしたニャモ・ウニ・シイタケの雌猫をアルトのギルドに預ける事になった。この三匹は人間の姿にもなれる為、マスコットとして使えるからくれとアルトに言われハッサクは勇者になる前の、この世界に転生してきた時の借りを返す形で三匹を預ける事にした。そのアルトは金の猫ニャモをやけに優しく撫でながら言う。


「……まさか天空城まで豆の樹が成長するとはな。千年の日を浴びた効果か?」


「千年の日を浴びた効果?」


 ふと疑問に思うハッサクは答えるがアルトはハッサクにカルピスを出しニャモをくすぐる。

 ギルド内ではウニとシイタケがこのギルドの影のマスターであるラルコに仕事の指示を受けていた。

 アルトとラルコの二人で運営していたこのギルドも三匹の雌猫であり、少女でもある猫忍を得た事で活気が出始めていた。その活気という言葉を思い、一口カルピスを飲んだハッサクは言う。


「そういや、盗品関係事件の全てがニャモ達じゃねーようだな。他のレディハンター達が噂してたけど西地区の郊外に出来た城のボスが盗賊団らしいな」


「ほう? 情報を得るのが早くなったな。ハントしたレディ達のおかげか?」


「まーな」


 微笑むハッサクは金髪をかくアルトに盗賊団について聞く。

 ソードランドには東西南北中央地区で一千万ほどの人口がいるが、犯罪者を取り締まる刑務所は存在しない。犯罪者は基本的に軍事組織であるギルド騎士団に始末されるか、そのままこのソードランドから放逐されてしまうのである。城壁の外の世界は荒野であり、数百キロまで街という街は存在せず解き放たれた悪人が悪人とぶつかり殺し合いソードランドの清浄を保つシステムになっていた。


 しかし、ここ最近で炎の阿修羅とも呼ばれる盗賊団のファイレアーカという男が悪人などを使い自らの城を生み出していた。群れを嫌うファイレは悪人はそのまま始末し、軍事組織になっていない為にギルド騎士団を束ねるナイト・クロソーズも動くかどうかを悩んでいた所で主人であるハッサクに相談していた。


「あのファイレはかなり強いぜ。魔法を纏う鎧に炎の力。おそらく魔王並みの力を今は持ってるかもしれんな。常に戦闘をして生き残ってきた奴は強いぜ」


「ファイレ……アーカか。とりあえずそいつをぶっとばすかな。サタラの体調も戻ったし」


 そして、ハッサクは砥ぎに出していた鋼の剣をアルトから受け取る。


「うっし、ファイレにはこの剣で勝って俺がソードランドの真の勇者として認められてやるさ」


「……あんまり焦るなよ。肉体の強さがお前の全てじゃないだろ?」


 やや虚ろな瞳でアルトはウイスキーを飲み言う。

 それに剣を抜いてハッサクは堂々と答えた。


「勇者は強いから勇者なんだぜ」


 去り行く雛鳥の少年の背中をアルトはグラス越しに見つめ、かつての自分の姿を思い出し擦り寄るニャモの毛を撫でた。





 ハッサクのボロアパートではサタラとの二人生活になっていた。

 天に伸びている蔦が切られたジャックと豆の樹城にクロコは魔法研究もかねて引越したのである。少し広く感じるアパートでハッサクはサタラがストレッチをする姿を見物していた。


「サタラも順調に人間の身体になってきてるな。他のレディもそうだけどハントしてだいたい一ヶ月以内に女の子の日がくるみたいだ。よーするに普通の健康体って事だな」


「生理って毎月あって面倒だね。迷宮にも行けなくなるし最悪だわ」


「人間の女は子供を産むからしょうがないよ」


「ん~じゃあ産んでみる?」


 サタラは押入れの中の奥にある本を取り出して床に置き、赤い制服を脱ぎ出した。

 唖然とするハッサクは白い下着姿になるサタラに服を着せ、隠してあったエロ本を閉じて押入れの奥に投げる。


「ま、待てサタラ! 子作りはもっと大人にならないと出来ないんだ! あの本の中の人達も大人だっただろ!?」


「え、でもマンガの方は少年少女だったよ?」


「あー、それはマンガだからな! 現実は大人にならないと出来ない事なんだ……。第一に、押入れの奥にあるのによく見つけたな」


「いつも夜にゴソゴソとパンツ脱いでインゲンをしばいてたから知ってたよ。小さいインゲンが少し大きくなって……」


「あーもいいよサタラ!」


 しどろもどろになりながらハッサクはサタラの口を塞いだ。

 そして、明日はファイレアーカのソードランド郊外の城に向かう為に休む事にした。





 夜の九時を回り、明日の為にそろそろ眠ろうかと思ったが眠れず、ハッサクは屋上で夜空を見上げ横になっていた。満月が丸々としていて、黒一色の夜空にハッサクは安らぎを感じていた。


「……剣での戦いは多少は慣れてきた。ニャモとの戦いでも剣で戦えた部分はあったし。次はもっと剣を使って戦ってやる……」


 そう呟いた、ハッサクの心は迷っていた。

 拳でのチート能力では勇者として認められないのが嫌な気持ちが強くなってしまっている。

 ソードランドは剣の世界。

 千年前の勇者も剣での英雄だからこそ勇者である。

 勇者としてのチートパワーがありながらただのレディハンターとしてしか周囲はまだ認めてはいない。 それを解決するには剣で結果を出し続けるしかなかった。

 そんな事を思案しながら、呑み込まれそうな黒い夜空を見つめていると、キイッ……と屋上のドアが開く音がした。赤い髪の尻尾の生えた少女がアパートの屋上に現れた。


「ハッサク、ここに居たの」


「サタラ……」


「またインゲンをシコ……」


「コラコラ」


 無理矢理ハッサクはサタラの口を塞ぐ。

 屋上に現れたサタラは、ハッサクの隣で仰向けになった。

 夜風が流れる――。

 少しの間二人は何も話さず、ただ空を見上げていた。


「……サタラ。明日の敵城攻略では剣を主体で行く。俺はソードランドの勇者として認められたいんだ」


 息を吐いたハッサクは沈黙を破り、話しかけた。


「そうね。いつまでも拳の勇者じゃみんな本当の勇者としては認めてくれないからね」


 星がきらめく空を見上げたまま、サタラは答える。

 ふと、二人の間に影が伸びた。


『――!?』


 ハッサクとサタラは起き上がり、満月を背にして屋上の柵の上に立つ二人組みの鎧を着た少女を見た。

 赤い髪のショートカットとツインテールの槍を持った少女がいる。


「私達は炎の阿修羅・ファイレアーカ様親衛隊の炎神二人衆よ! ファイレ様の命じゃないけど……きっとアンタ達を倒せば、褒めて頭をなでなでしてくれるだろうし……きゃ☆」


「ちょっと、フレオ姉さん。自分の妄想入りすぎ!」


 赤髪ツインテールの妹がショートカットの姉、フレオにツッコンだ。


「はっ! 私とした事が……。そんなこんなで、アンタ達は倒すわよ!」


 ショートカットの妄想女フレオは高々と宣言した瞬間、足を滑らせ柵から落ちた。


「きゃ……」


 ドスッ! と左膝を打ち、フレオは苦悶の表情を浮かべた。


「フレオ姉さん、大丈夫!?」


「メテア……すまん、コケてしまったようだ」


 フレオは妹のメテアに手を借りて立ち上がった。

 ハッサクは、何だこの漫才コンビは? と思ったが、二人の背中にくくりつけられている赤い槍を見て警戒心を強めた。




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