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ウニとシイタケとの決闘

 気が付くと、砂がきらめく広い砂浜の海岸に立っていた。

 黒いセーラー服のクロコは周囲の景色をながめ、赤い防災頭巾ウニを見つめる。


「ここは貴女のテリトリーとも言える空間? ま、約束を破ったからには、それなりの覚悟が出来ているんでしょうね」


 サアァァァ……と海岸に潮風が吹き、クロコの艶やかな黒髪が揺れる。


「お前こそ覚悟が出来ているのか? この城に興味本位で侵入し、城の物品を破壊した罪、償ってもらう」


 トゲトゲの海栗うに爆弾を構えたウニは言う。

 すると、クロコは魔力がたまるメガネをクイッ……と持ち上げ、黒い空間から髑髏がついたステッキを取り出した。


「ごたくはいいから、とっととかかってきなさい。素敵な罰を貴女にあげるわよ……」


 言いつつ笑うと、ウニはクロコに向けて襲いかかった。





 一方、シイタケの術で場所を移動したハッサクは、山の中の森に居た。


「ここはシイタケがよく取れる山だ。そして、君の墓場でもある」


 青頭巾に手を当てつつ、シイタケは言う。

 トントンッ! と地面の土を踏んだハッサクは、


「仮想空間ではないようだな……ま、勝つのは俺だから関係ないけど」


 軍手をはめなおすハッサクは腰を低く構え、シイタケを見る。

 シイタケは、背中の鐔が椎茸型の刀を抜き、構えた。

 シュウウ……と二人の間に風が吹き抜け――。

 シュパン! と一瞬で互いの位置が入れ替わった。


「……くっ」


 口を抑えて、ハッサクは膝をつく。

 手ごたえがあったシイタケは振り返り、刀を納める。


「勝負あった。引くがいい、侵入者よ」


「勝負あったとは気が早いな。てか、このシイタケ不味いよ……」


 ぺぺッとハッサクは口の中のシイタケを吐き出しながら言う。

 その言葉に反応し、シイタケは自分の刀の鐔の椎茸を見た。

 すると、何かにかじられたような跡があり、鐔の椎茸は欠けていた。


「……おのれ、我が椎茸を不味いなどと言うなんて! 許せない!」


「多分、生だったからだよ。焼けばいいんじゃないか? それに、醤油かバターを浸ければ最高のつまみだぜ」


 怒っていたシイタケだったが、ハッサクの椎茸話で気を取り直した。


「そう、椎茸はシンプルに調理してこそ素材の味が出る食材だ。だから私は毎夜、ニャモ様に色々と……ってまあ、これは別の話だな。こうなったら君を倒し、是が非でも仲間になってもらう。君が黄色頭巾をかぶれば、赤・青・黄と色彩が豊かになる。楽しみだ」


 近くの木にそっと手を触れたハッサクは、


「俺の勇者伝説は始まったばかりなんだ。こんな所で油を売っている暇は無いんだよ」


「戯れ言を!」


 言いつつシイタケは忍法ポーズを取った。


「……忍法椎茸手裏剣乱舞!」


 シイタケの青頭巾の中から無数の椎茸が飛び出した。

 ブオオオオッ! とハッサクを中心に無数の椎茸は旋回する。


「……まるで嵐だな」


 身をかがめ防御の姿勢を取るハッサクは、薄目で椎茸手裏剣を見る。

 シュパァ! と旋回していた手裏剣はハッサクに襲いかかった。


「ぬうっ……!」


 雪音を傷つけた椎茸手裏剣は、地面に散乱した。

 破れた制服のジャケットを脱ぎ捨て立ち上がると、シイタケは刀を構え突進してきていた。


「覚悟っ!」


「マッスルッ!」


 一気に雪音は体の筋肉を硬直させ、シイタケの刀は接触と同時にパキンッ! とヘシ折れた。


「あっ、私の刀が!?」


「ついでにこいつも!」


 サッ! とハッサクはシイタケの青頭巾を剥ぎ取った。

 少しぺったんこになった青い髪が現れ、口を空いたままシイタケは倒れた。


「その頭巾は猫隠れの忍の証……私の負けです……」


 そう話し、フッとシイタケは意識を失った。


「ん? 勝ったのか……? まさか、死んでないよな……」


 倒れるシイタケのワキを突っついた。

 すると、目を閉じたまま笑い、身をよじっている。

 更に、ハッサクはワキを集中的に突っつく。

 さりげなく胸もつつき、Bカップぐらいかな~と思った。


「……くっ、うっ! 私はただの屍です。返事はしません」


「屍ならくすぐろうが何しようが関係ないでしょ? ニャモの場所が分からないし、このまま屍と戯れてようかな」


「……!」


 目を閉じ、必死に笑いをこらえるシイタケは愕然としながら、ハッサクのくすぐりに少しの間耐えた。





 ボボボボボンッ! と海栗爆弾が砂浜で爆発し続ける。

 広い砂浜をステッキでこすりつけながら黒セーラ服のクロコは走る。


「あー砂が嫌だわ。こんな場所は早く脱出したい。千年前の聖剣戦争の秘密を知った後にね」


「聖剣戦争に新たな秘密などは無い!」


 連続して放たれるウニの海栗爆弾をひらりとかわし、下段に構えたステッキをズザァ! と砂と共に舞い上げる。その砂を気にする事なく、ウニは刀を抜きクロコに斬りかかる。


「でいっ!」


「おっと危ない」


 キンキンキンッ! と刀をステッキで防ぐ。

 そしてステッキの先端をウニの赤頭巾に向け、


「ロケット!」


 ピシュ! とロケット花火が放たれ、赤頭巾に直撃した。


「痛えっ!」


 と頭巾を抑え、ウニは多少後退した。

 トンッとステッキで肩を叩き、クロコは言う。


「もう、疲れてきたの? 君の口癖のウニッ! が出ないじゃない。私も暇ではないんでね、そろそろ終わるわよ」


「……そう、もう終わる。我が術中にはまった貴様の負けだ」


 笑いながらクロコにそう答えたウニは忍法を使うポーズを取り、


「忍法、うにうに地雷」


 ボボボボボボボボンッ! 砂浜に自然に転がる海栗が突如、一斉に爆発した。

 爆発の中心部にいたクロコは、砂煙によって姿が見えないがこの爆発で生きているはずがない。

 この技は千年前の聖剣戦争でも数々の敵を屠った技である為に自信があった。


「……先代勇者と共に戦ったこの技がそう簡単に突破されるものか。シイタケの方も見にいかないとな」


 爆発の煙が上がる砂浜を後にし、海の方に歩き始める。

 サアアッ……と吹いた一陣の風により、砂煙が晴れる。

 すると、ウニは見えない何かにぶつかった。


「ん? 何だ? 先に進めない……」


「進めるわけがないでしょう? 貴女は私の作った結界の中にいるんだからね」


「――!?」


 ハッと目の前の薄い結界に気付いたウニは、足元の砂浜を見た。

 すると、そこにはクロコのステッキによって描かれた五芒星があった。


「まさか……海栗爆弾を回避していた時に描いたのか? こんな事が出来るなんて、貴様何者だ……まさか勇者の家計とでもいうのか?」


 パンパンッ! と黒いセーラー服に付いた砂を払い、クロコはトンッとステッキを肩に置く。


「私? 私は黒魔王クロシュタインよ。また、魔法学士でもあるわ。この結界も私の発明の一つよ。じゃ終わろうか」


 タアンッ! とステッキの先からクロコの顔が描かれたコインが飛び出し、ウニの額に張り付いた。

 そして、電磁の結界のエネルギーがウニに向かって収束する。

 バリバリバリバリッ! と音を上げ、ウニは煙を上げ倒れた。


「ウ、ウニー……」


 頭の上に星が回り、ウニはぼやく。

 懐から魔力携帯端末を取り出したクロコは、ピピッとタッチパネルを叩く。

 すると、離れ離れになるハッサクの現在地が表示された。


「さて、ハッサクと合流するかな。ニャモは千年前の勇者について知ってそうね。これで剣も魔法でも最強だった勇者の力の一端が知る事が出来るわ……」


 そう言いクロコは倒れているウニを抱え、海の方に歩いていった。





 シイタケを担ぎ森を抜けたハッサクは、この世界の出口の海岸付近まで来ていた。

 すると、どこからかハッサクを呼ぶ声がする。


「……ハッサクー! インゲンチンコのハッサクー! 早くいらっしゃーい!」


 声のする方向を見ると、ウニをサーフボードにしたクロコが、海の上を疾走していた。


「ク、クロコ?」


 驚いたハッサクはその場で立ち止まる。

 そして砂浜に到着したクロコは、ウニをシイタケの横に投げた。


「無事でなによりねハッサク。この出口がニャモのいる部屋に続く最短ルートらしいわ。では、行きましょう」


 クロコが岩肌にある白い扉に手をかけると、ウニとシイタケは立ち上がった。


「破天荒なお前達ならば、ニャモ様の心を変える事が出来るかもしれん。頑張れよ」


「二人共。ニャモ様を頼む」


 二人の言葉を受け、ハッサクとクロコは猫王・ニャモの部屋に続く扉をくぐった。


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