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忍猫との戦い

 少し肌寒い天空城内部を、ハッサクとクロコは進む。

 空の雲に隠れる天空城とはいえ、空気も安定して存在し普通の城内部だった。


「……猫の住んでいる城なのに、まるで人間が住んでいるかのような室内だな」


 キョロキョロと周囲を見るハッサクは人間が使う家具や食器類を見ながら言う。


「そうね。とても猫だけが住んでいるとは思えない城だわ……。これは色々と調べる必要がありそうね」


 メガネを指で上げるクロコは戸棚から紅茶用のカップを取りだし、ヤカンに水をくみ火を沸かした。


「ハッサク、少し休みましょう」


 言われるまま椅子に座るハッサクだったが、


「ニャモ探しを、急がなくていいのか?」


「ここは敵のテリトリーだし焦っても仕方ないわ。今は敵の出方を見た方がいいでしょう。ここの主は少しせっかちな所があるようだからね。必ず向こうから仕掛けてくるわよ」


 言いつつ、クロコも椅子に座った。

 そして、湯気が出始めるヤカンに目を注ぐ。


(……)


 すると、食器棚の奥の方から怪しい物音がした。

 クロコは口元に指を当て、シーッという仕草をとる。

 無言のハッサクは頷き、視線を食器棚からそらす。

 次第にヤカンのお湯が沸騰し始めるが、二人は気にしない。

 カタカタッ! と蒸気によってヤカンのふたが動いた瞬間――。


「おいいっ! 沸騰してるよ!? 早く火をとめなきゃ!」


「とうっ!」


 突如現れた二人の少女はヤカンの前に行き、火を止めた。

 ハッサクとクロコは突然現れた赤と青の防災頭巾を被る二人を凝視する。

 そして笑うクロコは言う。


「お湯を注いでくれ」


『あいあいさー!』


 謎の二人組はハッサクとクロコのカップにお湯を注ぐ。

 ついでにティーパックも浸した。

 程よい具合に浸し、二人は一口飲む。


「うーん。疲れていると市販のティーでも美味しく感じるわね」


「あぁ。温まりまるな」


 謎の二人組は、ハッサクとクロコの様子を伺う。


「下がってよろしい」


 黒魔王の勅命の畏怖を与える一言で、謎の二人組は撤退する――が、


「……ちょっと待てい! 我々は茶を汲みに来たわけではない! お前達と戦いに来た者だ! ちなみに、私は赤頭巾のウニ!」


「私は青頭巾のシイタケだ!」


 防災頭巾を被る少女・ウニとシイタケは、コマネチのポーズを取りながら言う。

 紅茶を飲みつつクロコは、


「……貴女達、今は人間の姿をしているけど、本当の姿は猫でしょう?」


『――!?』


 ウニとシイタケとハッサクに衝撃が走る。


「なっ、何故わかる!?」


 驚くハッサクはウニとシイタケのお尻から動くものを見た。

 よく見ると、ウニとシイタケの尻からは猫の毛並みの尻尾が出ていた。


「頭隠して尻隠さずとは正にこの事だな……。で、先手必勝!」


 二人の尻尾をつかんだハッサクは、ぐいっと回転させ床に倒した。


「ウニッ!?」


「痛っ、じゃない……シイタケ!?」


 よくわからない自分の名前を叫ぶリアクションをしながら二人は立ち上がり、ハッサクと距離を取った。


「……こ、この恨みは必ず晴らす! 覚えているぞ!」


「……忘れずにいる!」


 先に逃げるウニを追いかけ、シイタケが走る。

 いつの間にか準備したバームクーヘンをフォークで食べながらクロコは、


「……ウニとシイタケねぇ。海の幸と山の幸だから、あの二匹は焼いて食べたら美味しいのかな?」


 ブフォ! と一口食べたバームクーヘンを吐き出しそうになったハッサクは、


「一応、猫だから! 猫は食べれないぞ、愛でるものだ」


「じゃ、ハッサクがあの二人の相手してね」


「え? ……ってクロコ!? 待ってくれよ! バームクーヘンが……」


 小休止を終えた二人は、猫隠れの天空城の探索を再開した。





 猫隠れの天空城最上階。

 薔薇の蔦で拘束されたイスに、しっぽの生えた金髪の短い少女がいる。

 この少女ニャモはこの空中迷宮を千年支配し続けてきた猫王である。

 雲に隠れ千年近くのあまり誰からも気づかれず、たまに地上に降りてエサをもらったりバイトしたり盗んだりして金を稼ぎ生活費を得ていた猫隠れの忍であった。千年前の勇者が死亡した聖剣戦争での活動を最後にこの空に隠居した連中をニャモは束ねて生活をしていた。


「……くくっ、早く来い侵入者共よ。この無人の空で生きながらえて来た猫隠れ一族の恐ろしさ、とくと見せてくれようぞ」


 半額のシールが貼られる猫缶を食べたニャモは言った。





 小休止を終えたハッサクとクロコは、猫隠れの城の上層階に向けて進む。


「……それにしても人にも猫にも会わないな。この城ってあの三匹しか住んでないんじゃないか?」


「おそらくそうでしょうね。これを見てごらんなさい」


 黒いセーラー服をはたくクロコは窓枠に小指を伝わせ、ハッサクに見せた。


「……埃がたまっているな。じゃあ、この迷路みたいな城の中を探すのは大変そうだな……」


「そうでもないわよ。そこの肖像画にヒゲでも何でも書いてごらん」


「え? あ、あぁ」


 笑いながら言うクロコから、ハッサクはペンを受け取り答える。

 隣の肖像画にクロコはマジックで落書きを始める。

 ハッサクもクロコに習い、書き始める。


「ハッサク、この城は広い、どんどん書くように」


「おう!」


 二人は通路に飾られる肖像画に落書きしまくる。

 次第に、十メートル近い通路の肖像画は落書きによって台無しになった。

 そして、チラッと一瞬クロコは天井を見上げた。


「……うーん。ハッサク、そこの部屋の扉を開けて椅子で閉じないよう固定してくれる?」


「あいよ」


 何だろう? と思いつつ、ハッサクは扉を開けて椅子で固定した。


「では、中の椅子や食器類を通路に運んでくれる?」


 言われるままハッサクは部屋の中の物を通路に運ぶ。

 そしてクロコはおもむろに椅子を持ち上げ――。


「ちょ、クロコ!?」


 窓ガラスに向かって椅子が飛び、ガシャン! と窓ガラスは粉々になる。

 ハッサクが運んできた家具、食器、猫缶のカラをクロコは楽しそうに投げ、窓ガラスを破壊していく。


「ハッサク、運ぶのはその辺で構わないから、貴方も手伝って」


「うっしゃ!」


 気合いを入れたハッサクは、クロコと共に窓ガラスを破壊し始める殺那――。

 シュタタッ! と天井から、ウニとシイタケが現れた。

 すかさず、クロコは食器をウニに投げた。


「ウニッ!? く……!だか頭は防災頭巾のおかげでダメージは無い」


 自分の防災頭巾を撫でながら、ウニは言う。

 シイタケのおろおろする反応を見たクロコは、


「じゃあ、ハッサク。そこのダビデ像を投げて」


「任せんしゃい!」


 ガシッ! とハッサクはダビデ像をつかみ、ミシミシミシッ! と台座から引き剥がす。

 顔が青ざめたウニとシイタケは、


「待て……本当は痛いよ? ものっそい痛いよ? ……って聴いてる!?」


「駄目だよ姉さん! 一時撤退……うわああっ!?」


 逃げようとしたがすでに時は遅く――。


「マッスルーーッ!」


 土台から引き剥がされたダビデ像は、ハッサクの掛け声と共に投げられた。


「ウニッ!?」


「痛いっ! ……じゃなく、シイタケ!?」


 ドロンッ! と猫の姿に戻った二人はダビデ像に潰され、身動きが取れなくなる。


「さて、私の懐中時計とハッサクのポーチを返してもらおうか?」


 潰れる二匹を見下し、クロコは言う。

 二匹は顔を見合せ、ウニが答える。


「……私達も侵入者の強奪品保管場所は知らない。知っているのは、猫隠れの城の支配者、ニャモさんだけだ」


「ふーん。じゃ、貴女達に用は無い。行きましょうハッサク」


「おうよ」


 スタスタとハッサクとクロコは歩き始める。

 ハッ! と思ったウニとシイタケは、


「ちょっと待て! 私達を助ければ、この城の案内人が出来る。これを条件に助けてくれないか?」


「た、助けて下さい。姉は行動は阿呆ですが、根はいいやつなんです」

「余計な事を言うな、シイタケ!」


 ふと黒いストッキングに包まれる足を止め、振り返るクロコは、


「……嘘をついたら、素敵に怒るから覚悟しなさい? 私は猫が好きだけど反逆者は嫌いなの」


 笑うクロコに一瞬絶望を感じた二匹だったが、


『はい……』


 と返事をした。

 そしてハッサクはダビデ像をどけ、ウニとシイタケを助ける。

 立ち上がったシイタケは、ハッサクに触れた。


「忍法猫隠れ!」


 ドロンッ! とシイタケの術でハッサクは消えた。


「……すまないがこれも任務でね。彼にはシイタケに相手になってもらう」


「……別に構わないわよ。場所を変えるなら早くしてくれないか? でなければこの天空城ごと消してしまいそうだわ……」


 感情の無い瞳で、黒い魔力が全身から滲み出るクロコはウニに言う。

 そしてウニは猫隠れの術でクロコと共に場所を移動した。




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