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樹の上の国・猫隠れの城

 いきなり土の中から生まれた天に向かって伸びる巨大な樹を見上げるハッサクは倒れたサタラを介抱しながら息を呑む。雲の上にまで伸びている樹の先には何があるかはわからない。そびえる巨大樹を観察している黒魔王クロコは鼻を動かし言った。


「クンクン。この樹の先には魔力の匂いがするわね……新手の迷宮かしら?」


「迷宮? んじゃ、この先に行かなきゃならねーな……?」


 すると、倒れたサタラが元気そうに言った。


「うわーっ! 本当に凄い樹だね。正にジャックと豆乳首」


「豆の樹な」


 ハッサクはツッコみながら天に向かって伸びる緑色の樹を下から見上げた。

 そしてクロコは樹にケリを入れながら言った。


「この場合はハッサクがジャックになるわけね。ギルドのマスターからもらったあの豆の実験が成功したけど成功しすぎたようね」


「あの豆がこんな強大な樹に……」


 ソードフェスティバルの時に、クロコがアルトにもらった豆は一晩明けて一つの豆を産み出した。

 そして水をあげ続けると、後はご存知の通りジャックと豆の樹の完成だった。


「……今度の迷宮は空? でも空は未知数すぎる……」


 腰を抜かすハッサクに、サタラは元気よく言う。


「さあ、冒険の始まりよ! 二人共、準備はいいね?」


「よっしゃ! やってやるか!」


 地上から天空に樹が伸びる姿を見ながらハッサクは気合を入れ答える。

 そしてクロコは無言のままサタラの前に出た。


「今回は私が行くわ。貴女はお留守番よサタラ」


「……嫌よ」


『……!』


 二人の少女は瞳で火花を上げた。

 すると、サタラより背が高いクロコはメガネを上げ、サタラの額に手を置いた。


「熱は無いけど、身体の体温が下がってるわね。おそらくモンスターの変化の無い身体から人間になっている証拠。今回は休みなさい」


 まるでサタラの身体の不調の原因をわかっているかのようなクロコは優しく言った。


 無理に元気に振舞ってもダメだと思うサタラは頷いた。


「……わかったわ。今回は休む。毎回私じゃズルイからね」


 そして、今回の迷宮探索はクコロをパートナーとして行く事になった。





 新たなる空の迷宮へ挑戦するハッサクはワラで出来た人が四人ほどおさまる箱の中に入った。

 その箱の上部には機械と白いビニールが取り付けられている。

 クロコがライターで上部に火を灯すと、ブワッ! と白いビニールがムクムクッと起き上がり、気球が完成した。


「じゃあ行くわよハッサク。サタラはギルドマスターに連絡よろしくね」


「あいよー」


 クロコに言われたサタラは返事した。

 空に昇り始める気球に、サタラは手を振る。


「ハッサくん! クロコ! 頑張ってね♪」


「おう!」


 スウウッ……とハッサクとサタラの乗る気球は地上から遠く離れた。

 そして空を見上げるクロコを見つめるハッサクは、


「クロコ、空には人はいるかな?」


「それが今回の探索の最大の注目点であるわね。ジャックの豆の樹の天空城に人はいるのか? それを私達が暴いてやろうというわけよ」


 自信ありげな表情で、黒いセーラー服を風に揺らすクロコは言う。

 ハッサクは頷き、謎の天空迷宮に希望を灯した。

 そして、空気が薄くなる空で背中にある鋼の剣をハンカチで磨く。

 その研ぎ澄まされた鋭利な刃物を見たクロコは、


「その剣は必要なの? 毎回の迷宮探索でも使い道が無いでしょう? 貴方は拳でしかチートになれない勇者なんだから」


「真の勇者に認められるには、それなりに剣が使えないとダメだと思うんだ。だから剣を使うのさ」


 ハッサクは強い決意のある顔で言った。

 その顔を見たクロコは納得した。


「貴方ならいずれ伝説のエクスカリバーを使えるかもしれないわね」


 すでに気球はすでに雲を突き抜け、ソードランドが米粒に見えるくらい上昇している。

 風が強くなりだし、クロコのスカートがめくれる瞬間をハッサクは見逃さなかった。

 黒のレースの下着が見えたと同時にクロコが叫んだ。


「……ハッサク! そろそろ到着だわ! おそらく次の雲を抜ければ天空迷宮よ!」


「え? 何で分かるんだ?」


 ふとハッサクははクロコに質問をする。


「簡単よ。樹の質感が大きく変化した所付近が天空城になる。それは天空城自体が特殊な結界を張っている可能性があるから。……先ほどは空気も薄かったけど、すでに地上と同じになったでしょう? これは天空迷宮に人がいる可能性を示唆しているわ」


「人が……か」


 眉間にシワを寄せるハッサクがそう言うと、次の雲を抜けた。

 すると、気球は突然浮上を停止した。


「さて、到着ね」


 クロコは美しい黒髪をひるがえし、雲の地面に落ちる。

 え? 大丈夫か? と思うハッサクは恐る恐る気球から降りた。

 その二人の前には、真っ白い城がそびえ立ち頂上では激しく雷がなっていた。


「フフッ、幕々(ばくばく)としてきたわね……」


「幕々?」


「混沌って事よ」


 笑うクロコを先頭に、二人は白い天空城へと進んだ。

 天空城の門前に二人は立つ。

 門には、こう張り紙がしてあった。


〈入場料一人五百円。24時以降千円〉


 スッと胸ポケットからアンティークな懐中時計を取りだし、クロコは時間を見る。


「今は24時を少し回った所だわ。となると千円払うのか……」


「知ーらんぺ」


 張り紙を無視し、ハッサクは扉を開けた。

 ズズズズッ……と開いた扉の中には、樽を持った石像が水を流している風景が目に映った。

 辺りは整然としていて、人気は無い。


「さて、奥へ進むか」


 扉の中へハッサクとクロコが一歩足を踏み出すと、金色の影が脇をすり抜けた。


「ぐっ!」


「なっ、私の懐中時計がっ!?」


 金色の影はハッサクの股間に激突し、クロコの懐中時計を奪い去った。


「……ね、猫?」


 驚くハッサクが振り返ると、口に懐中時計をくわえた金色の猫がいた。

 その猫は上手い具合に首に懐中時計のチェーンをかけ、話し始めた。


「ぬぁぜ、お前等は通行料を払わない! 猫缶も不景気で高騰してるというのに! よって、この懐中時計は、猫隠れの忍のニャモが戴くっ!」


 シュタタタッ! とニャモは姿を消した。

 フフッとクロコは笑い、


「人語を話す猫か、いや天晴れ、天晴れ! 天空城とは面白い城ね」


「というか、懐中時計を取り返そうぜ! これは敵の宣戦布告だ!」


「そうね。叩き潰そうかしら」


「じゃあ行くぜ猫隠れの天空城!」


 ビッ! とハッサクは建物の階段付近を指差した。

 そして二人は内部を進む――殺那。

 ガタッ! とハッサクが歩いていた床に穴が空き、腰のポーチが暗闇に落ちていった。


「ガーン!……ポーチが落ちた!」


 頭を抱えるハッサクの声も虚しく、ポーチが落ちた穴は閉じた。


「……この城はスリリングだわ。これでポーチと懐中時計を探すはめになったわね。全く、どこまでもヒロインな猫め」


 邪悪な笑いを浮かべるクロコがそう呟くと、エントランス全体に天空城の主人・ニャモの声が響いた。


「……ようこそ諸君。猫隠れの城の恐ろしさは体験してくれたかな? 君達が音をあげるまでは、この地獄のゲームは続く……はたして何人生き残れるかな……?」


 不気味さを無理に演出するようなニャモの声にクロコは、はーい、はーい! とテンションを上げながら手を上げて返事をし、


「すでに城の主を見たから隠れてもバレてるし、あと二人しかいないんだから何人という表現はおかしいわよ? ニャモ君」


 腹を抱え、ハッサクは笑い出す。

 するとマイクの声はひっくり返り、


「い、いいか!? お前等がそんな態度だとそこのグリーンのツナギの女にあんな事や、こんな事もしちゃうんだからな!」


 キョドりながら、ニャモは言う。

 そして、やけに饒舌なクロコは、


「ノンノンノン! 違うわよ、ハッサクはお・と・こ! さっき股間にぶつかった時に判断したんでしょう。猫は玉があるかないかじゃないと性別は判断しにくいからね。ハッサクはいんげんサイズの細さとポークビッツ並みの小さいミニマムチンコ十二神の筆頭なのよ!」


「後の十一人は誰だよ!?」


 というツッコみを無視するクロコにニュモはぐぬぬ……と自分の判断を看破され金の毛並みを際立たせる。それを追撃するようにクロコは言う。

「バカが見るー、ニャモのケツー、ハエが止まーるー♪」


「五月蝿えっ!? 本当に蠅が止まったわ! ……おっ、覚えとけよ、ニャモ様は千年前から強いんだからな!」


 ペシペシ! と尻に止まったハエと格闘し、ニャモはマイクのスイッチを切った。


「……さて、勝てば官軍負ければ賊軍! いざ、尋常に金ピカ猫捕獲作戦開始よ!」


「マッスルッ!」


 二人は気合いを入れ、猫隠れの天空城を進んだ。



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