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ジャックと豆乳首

 ソードランド中央地区・エントランスゾーン。

 ここでは半年に一度、東西南北中央の全地区合同のお祭りであるソードフェスティバルがある。

 今日は息抜きもかねて、ハッサクとサタラは祭りを楽しみに来ていた。

 この日は一千万ほどいるソードランドの大半の住人が自分のレディと共に祭りに参加する。

 ハッサクは一週間前にこの祭りの事をギルドのマスターであるアルトから聞き、布屋で生地を購入してサタラの魔法で即席の浴衣を作り上げていた。いつもグリーンのツナギを着てるから、この日はちょっとオシャレをしてみた。サタラの浴衣はピンクを基調にしたかわいい柄の浴衣で、男衆の目を奪った。


「だいぶよく出来たねハッサくん。浴衣という物は初めて見たよ。祭りにピッタリの装いだね♪」


「サタラの方も凄くいいよ。最高にかわいい!」


 恥ずかしそうにしながらも、サタラはピンクの浴衣を着た自分を鏡で確認した。

 そして、観衆の男達の目を引く黒髪を纏めた桔梗が描かれた黒い浴衣を着る妖艶な少女が現れた。クロコは異様な色気で男達を誘惑しつつ二人の前に歩いて来た。二人を見たクロコは鼻を動かし、


「クンクン。似合うじゃないハッサク。祭りの男って感じが出てるわね。サタラはまぁ普通ね」


「コラ! 普通ってどういう事よ! まぁ別にいいんだけどね♪」


 いつもと違う装いの三人は色々と話していると、黒い急須のロボットが群れで現れる。

 すると、ドドンガドン! カラカッラ! ドドンガドン! と太鼓の音が鳴り始めた。

 会場の中央の大太鼓と小太鼓が並ぶ高台の上に、クロコの部下である黒士隊のヤカサンと急須型の雑兵共がバチを叩いて演奏を始めていた。それを見たハッサクはクロコに言う。


「今回はスクラップ城の連中が太鼓の担当か」


「そうよ。この地上世界でも私の生み出したロボ達が役に立てるはずだからね」


「あの調子のいいヤカサンの担当だとやや、不安かな……」


「おだてて使えばヤカサンは使えるわよ。ある程度はね」


「そうだな。……にしてもこの祭りは有名ハンターもいるな。奴等は商売敵で中が悪いはずなんだけど」


 このソードフェスティバルには暗黙のルールがあって、今争いあってる連中でも、祭りの最中は喧嘩は御法度である。皆、この祭りを楽しみにしていて、祭りの最中は普段喋る事など不可能な関係の者達が話しているという事もある。

 その時、ハッサクは黒いマントを羽織った少女に話しかけられた。


「久しぶりだなハッサク。貴様も祭りを楽しみに来たのか。是非とも、黒士隊の太鼓を聞いてやってくれ」


「ギルド騎士団を鍛えなおしたお前が指導したなら、太鼓にも期待出来るかもな」


 そのままギルド騎士団長となっているクロソーズとは別れた。

 すると、入れ替わるように金髪の長身のけだるそうな男が現れる。


「いよーう、ハッサク。美女を二人も連れて祭りとは粋じゃねーか」


「アルト。そういうお前は一人だな。他のギルドの主人はレディハントしてるのにお前はしないのか?」


「一応ラルコがいるけどな。でもラルコは店から出たがらない仕事熱心な奴で祭りとかは興味ないらしい」


 アルトのレディである黒髪の幼女であるラルコはギルドの仕事が好きであり、地上の出来事には興味が無いらしい。そして、アルトはクロコに言う。


「クロコちゃん、欲しがっていた魔法研究所の土地は決まったぜ。後は建築だけだ。それと……」


 懐からアルトは一つの豆を取り出した。


「これを植えてみるといい」


「豆乳首?」


 アルトに渡されたクロコの豆を見てハッサクはそう言うと邪悪な殺気が放たれた。


「黒乳首じゃないわよ……陥没かもしれないけど」


「コラ! 私は陥没……だね♪」


 怒りながらも受け入れるサタラは仲間だと怒りはそこまで暴走しないみたいだが、顔は引きつっていた。色々と問題はありつつ、アルトは豆について話す。

「これはジャックの豆の樹ってアイテムで、土に埋めて水をあげていると樹の城が生まれるアイテムなんだよ。これがあればわざわざ建物を建てる必要も無いだろ?」


「そうね……いいアイテムをもらったわ。じゃあ今日はアルトと祭りを楽しんであげる。いいでしょう? ハッサク?」


 そう言うクロコにハッサクは頷き、


「おう、行ってこい」


 クロコがアルトの元へ行った為、ハッサクとサタラは並んで歩き始めた。

 ロボ救いや、射的、ロボもぐら叩きなどを楽しみつつ、会場を回った。

 ある程度会場を回りきると、ハッサクの両手には抱えきれないほどの大きな紙袋が存在していた。

 サタラの無邪気な笑みを見てハッサクは微笑んだ。


(……サタラの奴、楽しそうだな)


 自由気ままに祭りの景品をゲットしていくサタラを見て、ハッサクは自分のハントした魔王が普通の少女になりつつある事を思う。

 ドドンガドン! カラカッラ! ドドンガドン! と今まで一定のリズムで鳴っていた太鼓の音が、少しずつ大きくなっていった。すると、サァァァァッ……と空に水の霧が舞った。そしてその水の霧に、七色の虹が映った。


「綺麗……」


 うっとりと虹を見つめる紅い瞳のサタラに、ハッサクの心はかつてない高ぶりを覚えた。

 ハッサクは鼓動を早める心臓を抑え、これはデートだ! と今更思った。

 祭りを楽しむソードランドの人々は、しばし時の流れを忘れた。

 やがて、祭りはクライマックスに突入した。

 人々は自分のレディとペアになり、手を繋いで踊り始めた。

 ハッサクは黒士隊が太鼓を叩いている高台を見上げた。

 すると、クロソーズとヤカサンが手を繋ぎ踊っている。


「フフッ。楽しそうねクロソーズ。私達も楽しみましょう、ハッサくん」


「ああ、そうだな」


 ハッサクとサタラは手を繋いで、踊り始めた。

 黒士隊の太鼓のリズムに合わせ霧の虹色模様が様々なパターンに変化していく。

 すると高台に、三人の白、青、赤のカラーの少女が現れた。


『こんいちはー! みーんなのアイドル! ソードシスターズです!』


 三人のアイドルは祭りを盛り上げ、少女達をプロデュースするエンザは茶髪をかきあげ微笑む。

 異世界ソードランドに祭りがあるなんて思ってなかったハッサクは、その夜を思いっきり楽しんだ。





 ソードフェスティバルから数日後。

 裏迷宮新地区攻略の為、ハッサクは武器の整備と何やら色々と作業をしていた。

 そして、ハッサクとサタラはクロコの魔法研究所のある土地に赴いていた。

 今日あたりにアルトからもらった豆が開花し、樹の城が完成するらしいのである。

 道を歩くハッサクは顔が青いサタラに言う。


「大丈夫かサタラ?」


「えぇ……何か最近調子が悪いわ。人間の身体になって初めてよ」


「とりあえず、クロコの魔法研究所予定地に到着だからその後に医者に行くか。女の治療もレディがいるから問題ないぜ」


「それは嬉しいわ……ね……」


 言いながらフラッ……とサタラは倒れた。

 驚くハッサクが声を出そうとした刹那――。

 ズゴゴゴゴッ! という地震が起きた。


「うわあっ!?」


 突然の地震により、ハッサクは倒れる。


「――っ!?」


 倒れた瞬間に、ハッサクはサタラの唇を奪っていた。

 下唇を小指でなぞり、サタラはうつむき加減でハッサクを見つめる。

 一瞬、ときめいたハッサクだったが、目の前にとんでもない物が見えた。


「なっ、何だあれは!?」


 周囲に風が流れると共に、とてつもない物体を目にする。


「緑の樹……? 地震の原因はコイツか? 突然、こんな物が天に向かって生えるなんて考えられない……」


 その太く緑色の樹は、天に向かって真っ直ぐ伸びていた。

 先端は見えないが、間違いなく雲の上まで伸びているだろう。

 ふと、ハッサクはその樹の下に人がいる事に気付いた。


「……クロコ!」


 そこには黒セーラー服のクロコがメガネを上げて突如生まれた樹を観察していた。

 クロコはメガネ越しに倒れているサタラを見つめた。


「……」


 その瞳はとても冷ややかであった。


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