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エンザの野望

 ガシャン! シュゥゥゥ……。

 動き続ける床のマス目に止まっていたハッサクのマス目が止まる。


「……到着か。ん、あの扉はなんだろう?」


 到着した殺風景な狭い部屋の中央に、一つの扉のみがあった。

 もちろん、扉の奥も同じ部屋である。

 ハッサクは扉を開けくぐってみるが、違う場所へ出る事は無かった。


「ガーン! てなる所だがここは慎重に行くのがセオリーだぜ」


 部屋自体も怪しい箇所はこの扉しかない為、念入りに調べてみた。

 すると、ノブに鍵穴がある。

 だが、肝心の鍵は無い。


「まさか、あの鍵?」


 初めにくぐった扉にかかっていた鍵を取り出し、鍵穴に刺して回した。

 そして扉を開けると、一面真っ白い空間が広がっていた。


「いやっぽうっ! やったぜサタラ! ってサタラ今いねー……」


 トッ! とハッサクはドアをくぐり、中に入った。

 入ってきたドアが消えると同時に、どこかで聞いた男の声が空間に響いた。

 周囲の白い壁から白い煙が揺らめくように発し、すぐさまファイティングポーズを取る。


「こんにちはハッサクくん。貴女はこれからどうなるんでしょうね?」


 周囲を見渡すハッサクはその声に反応し、


「お前は空の塔の支配者。そしてソードシスターズの運営人エンザだな! 出て来いよ!」


「嫌ですよ……」


 ここではない空間にいるエンザがそう言うと、ハッサクの頭上にサーベルの刃が迫った。


「なっ!」


 その場でハッサクはしゃがみ、ゴロゴロッと左に体を回転させ回避した。


(黒の城の時と同じ殺気……やはりあの時の剣もエンザか)


 周囲に感覚を研ぎ澄ませ、辺りを警戒した。


「空間を操れるって、便利な能力だな……」


「フフッ、そこは僕の亜空間。どうにもならないから、諦めた方がいいですよ?」


「うおっ! ぬああっ! 痛いっ! ケツはやめろヤツは!」


 ハッサクは次々と襲い掛かってくる刃に、防戦一方だった。

 スッスッスッ! 前後左右の空間から突然刃が襲いかかる。


「くっ……四方八方からごちゃごちゃと! 何て攻撃なんだ!?」


 体の半径一メートル範囲で突然現れる刃にハッサクは苦戦した。

 拳だとチートという勇者のチートパワーを生かし、ギリギリの紙一重で回避し続ける。

 こうまでも空間を操れる相手の力に違和感を覚えた。


(これは二人の魔王でも出来ない芸当じゃないか? こんな能力があるならアイドルの運営をするよりも新魔王でも目指した方がいい。ここまでの空間を操るって事は……まさか!)


 ハッサクは足下に鋼の剣を置き、壁に向かって真っ直ぐに走り出した。

 だが、十秒走るとまた元の室内中央に戻ってしまった。


(やはりな……エンザの亜空間って意味がようやくわかったよ)


 ハッサクは一つの策が浮かび、刃の出現する瞬間を狙った。

 スッ! と伸びてきた刀を素手でつかみ、グッ! と痛みをこらえ、自分の元へ引き寄せた。

 すると、か細い男の腕がハッサクのいる空間に現れた。


「見つけたぞ! インテリ野郎!」


「何故私を見つけられた? くそっ!」


「そりゃ、この空間はどこにも行き場の無い箱庭だからだよ。走っても走っても同じ場所じゃ、現実にいるお前の攻撃を利用すれば現実世界に戻れるからな」


「私の計算機の中のモルモットになっていればいいものを……」


 エンザは自分の愛用の計算機でハッサクをゲームのように攻撃していたが、ハッサクの機転により看破された。腕の主、エンザは必死になって腕を引き戻す。


「魔王は魔法を使うから転移魔法で抜け出したようだが、君は一生そこにいろ!」


「……サタラはこの空間から出られたか。お前は逃がさねーぜ」


 逃げるエンザの腕をつかんだままのハッサクはグリーンに輝く拳で殴りつける――。


「ガラガラッド・ガラガーン!」


 瞬間、ハッサクの目の前に光が満ち、現実のエンザがいる空の塔に帰還した。




 ズウウウンッ……という振動と光が満ち、ハッサクは現実世界に帰還した。


「ここが本当の空の塔……やっと現実世界に戻ってきたか。そうだな? エンザ?」


 亜空間を何とか通り抜けたハッサクは、刀をつかんで血の吹き出る左手をハンカチで強めにしばりつつ、眼前のエンザに向けて言った。


「……こうなったら戦うしかないようだね。私のアイドル計画は邪魔させんぞ。私の帝国の建造を邪魔する者は消すのみだ!」


 言いつつ、エンザは計算機の1~9を連続して押すと周囲に魔力の空間が出来た。

 そして手に持つナイフを横一文字に薙いだ。


「散れ勇者よ!」


「うほっ!」


 サアッ! とハッサクのツナギが当たっていないにも関わらず横一文字にさけた。


「生身にゃ当たってねーぜ――」


 それをものともせず一気に加速し、エンザに鋼の剣を叩きこんだ。

 ジワッ……とエンザの腹部から血が広がり、白いシャツを赤く染めた。


「……君の剣に刺されるとはね。剣は素人だが、間合いに入るスピードは勇者だけあるな」


「何で今更ナイフなんて使うんだ? さっきの空間みたく、剣を使ってれば確実にトドメを刺せたのに」


 ハッサクはエンザの顔色を伺うように話す。

 エンザはツツー……と額から汗を流し答えない。

 このエンザの能力は亜空間である計算機の中に人間を閉じ込め、その中の人を黒ヒゲ危機一髪のように始末する技である。しかし、能力の使いすぎは己れの身体機能を弱めてしまうと同時に、長い物や大きな物を空間内に送る事が出来なくなるものであった。


「はあっ、はあっ……」


 息を切らしつつ、エンザは両手にナイフを構えた。


「剣を使えない勇者如き、ナイフで十分ですよ!」


「?」


 ハッサクの眼前に一本のナイフが出現する。

 それを後ろに避けると、鋭い痛みが後頭部に走り鋼の剣を手放してしまう。


「このっ!」


 顔をしかめながら右へ大きく回避した。

 が、ドスッと背中になにかが刺さった。


「あっ……」


 エンザはハッサクの回避行動を予測し、待ち構えてた場所で背中を刺した。


「う……ああっ……!」


 白い床にハッサクの血が広がっていく。

 狂乱の微笑みを浮かべれぇろっ……と右手のナイフを舐めると、


「終わりだ、勇者よ!」


 大きく目を見開き、ハッサクに迫った。

 ――ヒュン! と赤い髪の胸が大きい影がエンザの後ろに出現し――。


『お前がだ!』


 後ろから現れたサタラに合わせてハッサクは同時に言った。


「なっ……!?がはっ!……」


 そして、エンザは二人の一撃の前に散った。

 刺されたハッサクの背中の傷はチートパワーで修復していく。

 そして、ハッサクは倒れるエンザに傷の手当をした。

 それを見るエンザはありえない顔をしていた。


「敵に情けをかけるなんて……考えられないですよ」


 苦しげな表情で上半身を起こしたエンザは言った。


「ここさえ脱出できれば、もう敵とか関係ないしな」


 エンザはこの少年の勇者としての素質を感じた。

 ここまでダマしていた敵に情けをかけられるのは早々出来る事では無い。

 完敗だ……と笑うエンザは言う。


「……この扉を抜ければ、外に出られますよ。行きなさい」


 計算機を取り出すエンザは脱出用の扉を創り出した。

 そこは無論、ソードシスターズがいるアイドルランドに繋がっているゲートである。

 ハッサクは、サタラと共にゲートに入る。

 そして怪しげに目を細めエンザは言った。


「ソードシスターズと私は協力関係にある。私を倒しても彼女達は止まらない。それでも行きますか?」


「勇者だからな」


 一瞬、振り返りハッサクは言った。

 その後姿を見つめつつエンザは、


「そんな甘さでは、ソードシスターズは攻略できないですよ。ハッサク君……」


 エンザは勇ましい勇者と魔王の二人を見送った。





 アイドルランド・ソードシスターズステージ会場。

 そこの入口にはソードランドを守護するギルド騎士団がいる。

 チケットが無いこの男達は会場外にあるモニターを見てこれから始まるステージを鑑賞するらしい。

 このギルド騎士団はソードランドの軍隊である。

 もし、地上にモンスターが現れた場合を考えてソードランドは軍隊を持っているが、ギルド騎士団は月一度の迷宮遠征以外は戦地に赴かない為に風紀が乱れている事があった。

 その光景をハッサクとサタラは見ていた。


「あー、ギルド騎士団の一部もソードシスターズのファンになっちまってんな。こいつらも地上に戻さないとな」


「でも数が多いわね。どーする? 燃やす?」


 意思が固いギルド騎士団の百人近い数をどう帰還させようか考えていると、二人の背後に甲冑を着た少女が現れる。それは黒魔王クロコをハントした前にハントした黒百合の騎士ナイト・クロソーズだった。


「クロソーズ? 来てたのか?」


 驚くハッサクにクロソーズは真黒百式しんこくひゃくしきをギラリ……と抜き、言う。

 すると、会場内部にチケットが無く入れないギルド騎士団は自分達に敵意を向けるハッサク達に気づいた。


「ここは俺が何とかする。二人は本丸を叩け――」


 突如現れたクロソーズが会場周辺にいるギルド騎士団を倒す。

 それを見たハッサクとサタラは内部で音楽が鳴り始めたイベント会場内部へ入る。

 クロソーズは刃を振り、息を呑むギルド騎士団達に言った。


「貴様等修正してやる!」


 エンザの手下のギルド騎士団の一部の男達はクロソーズの元で再度の訓練を施される事になり、地上に帰還する事になった。


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