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アイドルモンスター

 黒魔王クロコとの戦いから一週間後――。

 黒魔王クロシュタインをレディハントし、地上まで戻って来たハッサクの家は三人になりかなり狭くなってしまっていた。しかし、まだ引っ越さずサタラとクロコが左右に寝る形で生活している。


 衣装などは魔法でどうにかなるので、物品的な物のスペースは取られない。が、人間的なストレスというか女性ホルモンが満載な部屋にハッサクは興奮して寝不足な日が続く。

 ハッサクはアパートの地下へ続く床扉を開くと、着替え中のナイト・クロソーズがいた。


(……うおおっ! ここも迂闊に来られないか)


 透けて見える黒のレースの下着を身につける黒髪の女がやけに妖艶な手つきでパンティストッキングを履く。ギルドでハンター達の剣技師範を受け持ったクロソーズは生きがいを見つけていて、楽しそうに過ごしていた。ハッサクは迷宮に興味がある人間した連れていかない考えの為に、クロソーズは自由にさせる事にした。

 チュチュン……と雀が囀る朝を迎え、一人の少年と三人の少女は朝食を済ませた。





 クロコは黒いセーラー服の上着を脱ぎ、パンストに手をかける。

 息を吐きながら下着姿になり、黒いブラジャーを外す。

 豊かな乳房が揺れ、一気に黒のレースのパンティを下ろした。

 そして扉を開けてシャワールームに入る。


「……」


 シャワールームの床をシャワーヘッドから放たれる温水が湯気を作り、クロコの長い黒髪をじっとりと侵食する。


「これが人間の身体か……毎日のメンテナンスが大変だけど、悪くないわね」


 クロコは身体の細胞がモンスターから人間になった変化をこの一週間感じていた。

 熱いお湯がクロコの細胞の全てを癒し、甘い吐息が空間に漏れる。

 すると、脱衣所にハッサクが乾いたばかりのタオルを置いて出て行く。

 それに気づくクロコは匂いを嗅ぎ、


「クンクン。ねぇ、ハッサク? そこにいる?」


「どうした?」


「背中を流しなさい」


「……ふへ!?」


 その言葉にハッサクは戸惑う。

 サタラもそうだが、まだ人間になって日が浅いこの二人には羞恥心が無いのかと思った。

 しかし、モンスターでも服を着ていて自我もあるんだから羞恥心はあるだろうと考えていると――。


「? 誰だ?」


 すると、勢い良く赤い髪を揺らす魔王サタラが現れ言う。


「コラ! クロコ! そんな事をしたらハッサくん驚くじゃない!……別にいいんだけどね」


 否定しつつも受け入れるサタラはハッサクを裸にする。

 タオルで前を隠しながら顔が赤いハッサクは湯船から出てくるクロコの肌に見とれて目をそらすが、振り向いた先にはサタラのFカップの美巨乳(陥没)があり鼻血が出そうになる。


(ガーン! ここは……天国か……地獄なのか……)


 興奮で意識が飛びそうなハッサクはサタラと共にクロコの背中を流した。





 華やかなスポットライトを浴びる楕円形のステージの上に立つ三人の少女。

 白、青、赤のトリコロールカラーの髪色をした少女達の名はソードシスターズ。

 ホワイ、ブルース、レッダの三人組みである地下迷宮のアイドルグループだった。

 三人は音楽に合わせステップやターンをする。


『ジャララ♪ ボボボ♪ フフフフーン……♪』


 その間、ペンライトを振るファンが掛け声をかける。


『ソード! マジック! アイテム! ポーショーン!』


 野太い声援を送る飼いならされた迷宮探索者は必死に、ペンライトを降っていた。

 ステージの裏には十数人のスタッフの男が動いていた。

 女ではない以上、この男達は人間である。

 そして自分の意思でこの三人のアイドルモンスターを地下迷宮スターにしようと支える男達でもあった。


「……計画通りだ。僕の数字に狂いは無い」


 運営の責任者である茶髪のスーツ姿の男は今回の収益を計算し、自分の野望を成し遂げようと計算づくでこのを成功させようと動いていた。公演、グッズ、カラオケ配信などで儲けようとするソードランドの数少ない実業家という存在だった。





 レディハンターギルド・アルト――。

 その古びたギルドのカウンターで計算機を持つ男がいる。

 この茶髪のスーツ姿のインテリはエンザという男だった。

 この男は常に計算と打算で生きている男で、アルトは機械人間の癖に人間が無意識に出ている面が面白い奴だと思っていた。


「人生とは設計と計算だ。こんなギルド程度を買い取る資産はすでにあるのだアルト」


「へぇ、いつの間にそんなに?地下迷宮でレディをハントし相当囲ってやがるのか?」


「まぁ、色々とな」


 不敵な笑みを浮かべエンザは去る。


「いい女いたら紹介しろよ」


 振り返らず手を振るエンザと入れ替わりにハッサクと二人の魔王がギルドに来た。

 ハッサクはここ一週間ほどで起きている事件を知る。


「男達が帰ってこない?」


 その通り、一部のレディハンターがダンジョンから帰ってこないのである。

 ハンター自体が迷宮で死亡した場合、地上にいる女達はまた迷宮に舞い戻ってしまうので女達がまだハンター達の自宅にいる以上、男達は閉じ込められているか自分の意思で戻らないかのどちらかであった。そしてアルトはウイスキーを飲み、言う。


「確定じゃないが東の地下迷宮街から騒がしい音楽が聞こえたという情報がある。そこで金も食事もその街で使い、金の切れ目が縁の切れ目と言わんばかりに奴隷に成り果てているなんて話もある」


「そんな話が……でもあくまで未確定情報だろ?」


「流石に百を超えるレディハンターが戻らないんだ。帰りたくない……というのが有力情報になるんじゃないか」


 カラン……とグラスの氷を鳴らしアルトは言う。

 それが本当ならば女とは怖いものであるとハッサクは実に痛感した。

 クロコはカウンター席に座りながら牛乳を飲み、サタラの顔はこわばっていた。

 レディをハントする男がレディにハントされている。

 すると、ギルドの電話が鳴る。


「はいこちらギルド」


 話しこむアルトの表情は次第に硬くなっていく。

 受話器を置くアルトは新しい情報を伝える。


「どうやら地下迷宮の東の一部で祭りをやってやがるらしい」


『祭り?』


 勇者と魔王の三人は同時に答えた。

 裏迷宮が現れてから確実に地下迷宮に新しい事件が起こり出していた。


「……」


 自分が知らない事件が起こり続ける事にサタラは心を痛めた。

 敵のモンスター三人はソードシスターズというアイドル活動をしていて、ハッサクのいた世界と同じようなアイドル的な人気を誇っているらしい。そのモンスター少女達に夢中になる男達は現実を忘れ地上に帰還しないようだった。それを考えるハッサクは勇者としてこの事件を解決すれば剣が使えない自分をソードランドの人間が認めてくれるであろうと思い、言う。


「とにかく、行くしかねーよ。俺がソードシスターズをハントすればいいんだ」


 新たな冒険に出るハッサクに牛乳を飲み干すサタラは言う。


「私はマスターに魔法研究所の土地を探してもらうから今回はパス。ではマスター早速土地の交渉に行きましょう」


「クロコちゃん、くれぐれも黒魔法は禁止だからな?」


「それは相手次第よ」


 そんな事を話しながらクロコはアルトと共に、魔法研究所の土地を探しに行く。

 ギルドはアルトがハントした黒髪ツインテールの幼女バイトに任せており、ハッサクはカルピスを一杯注文し一気に飲み干した。サタラは新しい裏迷宮の全てを知る為に、赤い学生服越しにもわかる豊かな乳を揺らし立ち上がる。


「モンスターの暗躍は私も魔王として許せないわ。裏迷宮を一つ、一つ解明してやるわよ」


「よっしゃ! 勇者として裏迷宮もクリアしてやるぜ!」


 ハッサクとサタラは謎の裏迷宮東地区へ向かった。


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