ショートショートI「タイムカプセル」
わたしが散歩をしていると、公園で光るものを見つけた。それは形、大きさともにちょうど鶏の卵くらいの大きさだった。
近づいてみると、内側から光っているようである。何だろう、とわたしは手に取ってみると人の声が聞こえてきた。しかし、辺りを見回すが人は見えない。甲高い機械を通したような声がした。
「ここですよ。ここ」
もしかしてこの卵がわたしに? いやそんなはずはない。しかしここからとしか思えない。もしかして中にスピーカーでも入っていて、誰かが遠くからしゃべっているのか? 手の混んだイタズラを……。
「おい、どこから見てるんだ!」
わたしは卵に向かって叫んだ。
「騙そうったってそうはいかないからな!」
しかし、卵はお構いなしにしゃべり続ける。
「これはタイムカプセルなのです。薄い線が見えるでしょう?」
誰かが思い出の品やら手紙を詰めて数十年後に掘り起こす、あのタイムカプセルだろうか? 陽にかざすと薄い線が見える。ここから割れるようになっているのだろう。
そう思うとわたしは急に中を見たくなった。逸る気持ちを抑えながら、真っ二つに割ろうとする。
「いけません! ねじって下さい」
金切り声が卵から聞こえてくる。なるほど、中の物まで割れてしまうのか、と独り頷いた。
「でも……本当にいいんですか?」
卵からの声を無視して捻ったが中には何も入っていない。なんだ、単なるイタズラじゃないか。
わたしは憮然としながらも家に戻ろうとする。何だかくたびれた。ふと辺りを見回して、街の異変に気がつく。ベンチのペンキは剥がれ、公園の木だけが不気味に大きくなっている。まるでゴーストタウンにでも迷い込んでしまったかのようだ。
「ど、どうなってるんだよ!」
助けを求めようとしても声が出ない。痛いのとはまた違う。何だか、疲れ切ってしまって声が出せないのだ。次第に立っているのも億劫になり、汚いとは思いながらも土の上で横になった。卵の声が睡魔の中、聞こえてくるのだった。
「言ったでしょう? これはタイムカプセルだって。中には時間そのものが詰まっていたのです……」