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High_C  作者: 夏草冬生
第一章 表面世界は日常そのもの
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 書類提出期限を明日に控えた放課後、まあ出さなければ自動的に辞退したとみなされるのでどうでもいいのだが、アップルが「少しだけコネがあるんだ」とぼくたち三人に召集をかけた。

「なんと、あの宮藤先生がオレのおふくろにピアノを習っていたんだ。だからダメ元で頼んでみないか?」

 オレンジは万歳ポーズで「美人、大好き!」と有頂天だったが、たしかに音楽の先生は安田先生以外にも、ひとりいることはいた。女性である。履修すべき教科に厳しい目が向けられ、家庭科で女性の先生を雇ってから、それまで教員は男子校だけに全員男性だったのだが、女性教員も普通に採用されるようになった。聖トマス学園は、中高一貫校で六学年あり、高校からは高校入試編入組の五十人が加わって五クラスとなるが、中学の間は一学年二百名の四クラス構成である。音楽は文部科学省の指示通りにまじめに授業すると、安田先生ひとりで六学年すべてをみることができず、去年までは地元の県立高校を定年退職された女性教師が音楽の非常勤講師として週に何度か来校されていたが、今年は大学を出たばかりの若い新任の教師に変わり、中学二、三年生の授業を受け持っていた。しかしぼくたちが宮藤先生を敬遠していたのは、就任してまだ一ヶ月ちょっとではいくらなんでも文化祭の顧問なんて無理であろうと考えていたからではなく、去年の年老いた先生のように週に四日しか来ない若い宮藤先生も非常勤講師で時間給だと知っていたからである。時給の人に、時間外活動である文化祭の顧問はお願いできない。

 この宮藤先生、HRでぼくのクラス担任から雑談のひとつとして聞いたところによると、何でも教員免許を取得していなくて正式な採用には至らなかったということである。たしかに県立とはちがい私立の学校では採用試験はしなくてもよい。そのために当の宮藤先生が私立ならば免許がなくても先生になれると勘違いしていたらしく(学校教育法上それは認められない)、そしてこれはずいぶんあとで宮藤先生から知らされたことだが、そもそも大学で教育課程も教育実習も受けたことがないのである。

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