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High_C  作者: 夏草冬生
第三章 The One Hundred One-Handed Music
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 それから二週間の間、ぼくは意識して第二音楽室へ通い、全身を耳にして注意深く観察した。自信のなさのあらわれなのか、自らの意志で何かの気まぐれに弾いてくれた曲は「ジムノペディ・第一番」や「乙女の祈り」のような小品ばかりだったけれど、宮藤先生は絶好調だった。ぼくに取って救いなのは、これみよがしというか、とてつもない快感を伴うのはよく分かるけれど、基本的に先生は目立ちたがり屋で、ピアノに関して言葉は悪いが根っからの露出狂なのだ。人から催促されたのなら、うまく弾けなくても自分への言い訳になる。ぼくもアップルも体の芯から震えるほど怖くて曲のリクエストなどできるはずもないけれど、厚顔無恥なオレンジのおかげで、先生のレパートリーの膨大さ、そしてスケールの大きさを知ることができた。モーツアルト、シューマン、シューベルト、そしてベートーベンのピアノソナタ、ロシアのストラヴィンスキー、プロコフィエフ、ラフマニノフなど色々有名どころを、機嫌がよいときにオレンジがお願いすれば、気軽にさらっと披露してくれたのである。基本的に先生は気安いのだから言葉は矛盾するが、刮目せよ、というか「どう、すごいでしょう」と、もったいぶった態度は相変わらずだった。それから先生はショパンの練習曲などは朝飯前だった。難曲の第十八番、嬰ト短調はもちろんのこと「黒鍵」「蝶々」「大洋」など、たいへんリラックスした演奏で、ミスタッチはそれなりにあったけれど、とくにおかしな点もなく、左手は、先生がぼくの視線の先に気づき妙な意識をしなければ、ごくごく普通だった。

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