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High_C  作者: 夏草冬生
第一章 表面世界は日常そのもの
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 そういうわけで、ぼくらの前途はいきなり絶望的となった。もちろんぼくらはそれぞれ自分たちの担任にも頼み込んだが、文化祭はれっきとした課外授業で、クラスの出し物を監督するだけで手一杯だと丁寧に拒絶された。さらには音楽の分野だけに横から割り込んで安田先生のテリトリーを侵害したくない、とまで言われた。こうなってはお手上げである。

 さすがは学校側による多重チェック機能だ。空きスペース以上の参加者申請を受けつけているのは、せっかく生徒会から許可をもらっても顧問がみつからず断念せざるをえないケースがたくさん生じてしまうからである。

 結局、ぼくたち夢のバンド『High―C』は職員室前の学生掲示板、『顧問になってください』コーナー用のポスターを作っておしまいとなった。楽器が山と捨てられた粗大ゴミ置き場で、『誰か、ぼくたちの飼い主になってください』という文字と、ミカン箱から顔出す四人の写真というデザインだ。無駄だとは分かっていながらも悲しく貼ってある。

 たとえ教室や中庭、グランドの区画に空きができても、ぼくたちにチャンスはない。というのもこれは単に収容場所の問題だけではないからだ。

 少子高齢化の影響もあるのだろう、文化祭にはおじいさん、おばあさんが孫の勇姿をひとめ見ようと多数訪れる。休憩場所はいくらあっても足りないのだ。それに私立の経営は苦しく、生き残りをかけて、文化祭でさえ重要な宣伝の場と化している。その日は学生寮も開放しているのでたくさんの、小学生の子を持つ親御さんたちが見学しに押しかけてくる。休憩所には椅子やお茶だけでなく、入寮案内や、大学合格実績が記載されたパンフレットまでが並べられ、入進学課の職員や当番先生が笑顔で待機しているのである。

 とはいえ勉強一辺倒というのはかえって父母たちが心配するものらしい。勉強以外にも人間形成において重要なものはたくさんある。入学希望者家族が、東大・京大合格者数や医学部進学者数などの目に見えるデータだけでなく、生徒たちの生の姿も知りたがるのは言うまでもない。普段の学園生活は、一般の人にも公開されている父兄参観でそれなりに把握できるが、そこへきて文化祭は学生たちによる自主的な活動の集大成なので、たいへんに人気があった。だからこそ学校側はゆめゆめ入学志望者親子の顰蹙を買ってはならない。文化祭顧問の責任が重いのもそのためだった。公立とちがい、私立の先生は公務員ではないので、業績が給料に直結し、成績が悪ければ失職もあり得るわけで、たとえ文化祭といえどもおろそかにできないのである。

 だから一概に顧問を引き受けない先生方が悪いと責めるわけにもいかず、かえってすがすがしい気分で、ここまでよく頑張ったとぼくたちは慰めあった。そもそも自由グループでの参加自体が無謀だったのだ。やりたがる者はたくさんいる。それでも出し物ができるとしたら、高度に文化的なこと、いやそれよりも、老人ホーム訪問、農業手伝い、海岸清掃など、地域社会との交流やボランティアに関する活動報告などであろう。そういうのは、自宅と学校を往復するだけの世界に閉じこもりがちな中高生にとって得点が高いのである。それでも高Ⅱ以外はひとクラスにつき、最高で三グループが出展できる限界だと思われる。バンド演奏という至極ありきたりな、しかも内容からして文化的に最低限度であるぼくたちはここまでよくやったと自賛できる。

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