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High_C  作者: 夏草冬生
第二章 第一回パート別集合
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 通路を挟んだ正面では、集団ダンス『みんな間違い』が盆踊りのように輪になってサイトの大きさを確認していた。しおりの説明によると飛び入り参加もOKで、ネットで流行っている集団ダンスというものを披露するらしい。キャッチフレーズが珍妙で、「おや、おや! こいつキチガイみたいに踊っているぞ。タラント蜘蛛に咬まれたんだな」である。補足説明の欄には「ダンスの歴史は人類の歴史だ。人は太古の時代から火を囲んで延々と踊り続けてきた。身体と感情を持った存在はその喜びで踊らずにはいられないのだ。それが人という生き物の性なのであり、別に気が狂ったのでも、ましてやタラント蜘蛛の解毒のためでもない」とあった。ちなみにHigh―Cの宣伝文句は「出逢った頃の君のようです」で、「男子校生諸君! 輝ける、あの七、八十年代を裏声で後ろ向きに駆け抜けよう!」らしい。どうでもいい。勝手に駆け抜けろ。ぼくには興味がない。

「文化祭当日にタランテラでも弾いて、こっちとこっちで踊らせてみるか?」せっかく、ない知恵絞って考えてくれたのに、アップルと目が合ってしまったから、ぼくはふたつのサイトを両手で指さしてごまかした。オレンジとグレープは「それはいいな」と賛成したが、アップルは、「タランテラってリストのか、ショパンのか?」とぼくの動揺ぶりに怪訝顔だった。ぼくは「いやなんでもない。気にしないでくれ、ひとりごとだ」と放置した。

 で、ぼくが指を指したもう一方のサイト、それは右隣の『ぼくはちっとも踊れない』だが、「甘く夢のようなダンスをぼくに教えて下さい」とあるので、男子校ではとんと縁がない女の子の手を握れる機会を創生する場であるようだ。他力本願すぎて素敵だが、こういうのは教師の後押しがないと通らない。ページをめくってみると、案の定、顧問は社交ダンスに夢中なことで知られる数学の杉山先生だった。複数の女子校にあらかじめ声をかけておくのだと思うが、けしから――いや、うらやましすぎる企画だ。

 ぼくら左隣のサイト、7―5の参加者は、高校二年生の森さんが率いるヘヴィメタル系バンド『メメント・森(Memento mori)』だ。アップルにはいつもパンクだと注意されるが、そっち方面には疎くて両者の違いがいまひとつピンとこない。メンバーは六名。去年、一昨年、今年と、High―Cとは企画審査の日が一緒で、その演奏を廊下で間近に聴いているのだが、森さんのギターテクニックは別として、他の五人は烏合の衆、何年経ってもにわか作りの素人バンドといった感じだ。普段どんな練習をすればそうなるのかは分からないが、楽器は弾けてないし、ただただうるさく叫んでいるだけ。荒々しいのがウリかもしれないが、どう解釈しても野暮でしかなく、まったくもって洗練されていない。

 メメント・森=『パンク修理はできません』の隣、サイト7―6と7は休憩所。顧問がつかず企画倒れになった悲しい場所である。アップルが「バンド系の企画は結局三つだけ生き残って他は全部消えてしまったんだね」と感慨深げに言った。しおりで知らされていても、こうやって現実を目の当たりにすれば妙に実感が湧いてくる。すべては宮藤先生のおかげだが、ソルティ~☆ドッグ、もてない教徒、アルペンローゼ⇔谷間の百合、ホモ路美ちっち(略してホモ面)、ジムダ・ステギ、岡崎フラグメント、CLEAVAGE(訳して乳に顔を埋めたい)等々、学生用掲示板にHigh―Cと一緒に並んでいたそれらポスターの絵柄を懐かしみながら、ぼくらは心の中で両手を合わせて冥福を祈った。

 安田先生はバンドをふたつ許可したようで、残りのひとつはサイト7―8に位置する、コピーバンド『絶体絶命』のコインロッカー&雀の涙である。ふたつは別々に文化祭実行委員会の審査を通過したはずだが、どうやら音楽の安田先生の許可を得る際に合併したらしい。楽器が上手な人たちはたいていオケ部に入っているし、実際彼らは雀の涙程度にしか弾けない。

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