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High_C  作者: 夏草冬生
第二章 内面世界は非日常
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 父は現代の人気がある本を信用しない。父によれば、日本人の平均的な思考が小学生の作文レベルだということを証明して、悲しくなるだけだそうだ。そして、ベストセラーとは動物的な反射神経だけで生きる人間が読むものだと勝手に定義してしまっている。

 バックグラウンドというのか、ぼくは日本国民の識字率が百パーセントなだけでも素直にすごいと思う。読み書きさえできれば、この膨大な情報世界にアクセスすることができる。そして科学的な物の見方をし出すと、ルネッサンス絵画のように遠近法が登場してくる。メンデルのように、博物学ではなくて、生物現象を文字や数字で表現しようとする。

 現代人が書いた文章には、いやでも科学が染みついていて、たとえば科学的精神は、魔法と剣の世界を描くライトノベルにも、貫いている。

 そもそもファンタジー文学、そういった中世ヨーロッパ的な舞台をぼくは当たり前のように受け入れているが、もちろんそれには原型がある。それはトールキンの「指輪物語」だ。

 古典を読んでいると、中世の源氏物語でもアーサー物語でもいいのだが、そこには当然、近代自然科学的なものの考え方などない。しかし現代人であるぼくは、意識しなくても、行動やその思考方式に科学的なものの見方してしまっている。そもそも小説自体が、近代自然科学的な産物なのだ。それは「科学がない」とされる、魔法や剣の世界でも同じことで、魔法が発達していて、科学が発達していない異世界ファンタジーなのに、登場人物はみな科学的な物の見方、考え方をしているのだ。神の御業という記述はあっても、その内容、推論は、現実の観察や実験を重んじる「帰納法」とか「演繹法」とか、そういう自然科学的なものの見方、そのものである。同じ条件でおなじ行動をすれば同じように神様から罰を受けるのである。つまり「神から罰を受ける」というところが、現代の我々の世界の常識に当てはまらないだけで、その発動条件などにたいする登場人物の解釈、受け取り方は、完全に自然科学的だと言えるのだ。

 というか、そうでないと科学の時代に生きるぼくたちには意味不明となってしまう。科学的に書いているから、そのラノベ世界で、神から罰を受けたり、魔法が存在するのがリアルに思えるのだ。

 そしてそれはしかたがないことだ。そもそもトールキン自体が、ファンタジー小説を、自然科学的なものの見方をする現代人にあった世界として構築したのだから。そして、それ故に現代ファンタジーの基盤となりえたのだ。

 日本の小説、蒲団や虞美人草にしろ、ヒロインたちは写生文ならば自由恋愛もOKだが、候文や美文調(明治の擬古文風)になれば、登場人物は自ずと昔ながらの古風な女性となる。自我を持ち、独自の考えを持っているだけで、それが現代では正しい思想であっても、行動が制約され、不幸にされ、抹殺される。つまりベースになる文体それだけで、ヒロインの言動を限定してしまうのである。

 基本的人権という概念も、人はただ当たり前のように受け取ってしまいがちだ。固定化されているからよいものの、その態度は危険だ。たしかに概念は幻のように見えて、実は物質以上に強固で、人はそれほど愚かではないのかもしれない。そしてぼくは表面ではなく、底に流れるものを絶えず意識する人間になりたいのである。

 多分ぼくは愚かなのだ。権威や(慣習、マニュアル等の)模範に盲従しようとしないで、自分で考え自分自身で判断すると、他人からは理解されない。妄想ばかりが脳内を渦巻いている奴だと思われる。身体性は非常に重要で、土下座を日常の一部として同化させられたら、お上に立てつこうという気も失せるものだ。心の中だけで抵抗するのはつらく苦しく、それに何も考えず体ごと染まる方が本人も葛藤が起きず幸せだ。反感を持っているくせに、意志に反して絶えず服従の姿勢を取らされていたら、頭がおかしくなる。だから毎日、寮と学園に閉じ込められて頭の中だけの勉強を続けるのは、非常に神経を消耗させられる。

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